13.9.共闘③
違いが分かった。
守の御力を使うときは、自身を結界で囲んではいけない。
これは攻めの力であり、守りの力である結界で自身を守りながら使ってはならないものだったのだ。
だが結界を攻撃手段として使う分には問題がないらしい。
囲わなければ守の御力は正常に発動するようだ。
不落城で案山子夜と戦った時、雪野は守の御力に集中して結界はあまり使っていなかった。
なんとか思い出してほっとしたところで、案山子夜が両刀斬天秤槍と足を使って折れた義足を地面から引き抜き、芦山の横っ面を蹴り飛ばす。
「ごっは……!」
「ぜぇ……ぜぇー……! なる、ほど……。そういうことですかな……」
転がっていった芦山は体勢を立て直して立ち上がり、八角棒を地面に突き刺す。
杖のようにして息を整えるのだが、今の一撃が相当堪えた。
左の顔面に激痛が走る。
頭を振るって構えを取った瞬間、足元から肩にかけて伸びてくる強烈な違和感に顔を青くさせた。
「……ぬかった……」
「終わりです」
「待って」
継ぎ接ぎを引き裂こうとした瞬間、雪野が月芽の前に手を出して制止する。
思わぬ行動に目を見張ったが、そういえば目的もなにも聞いていない。
尋問してからでも遅くはないだろうと思い、小さく頷いて拘束したままの状態を維持した。
尋問の前に、二人は案山子夜に近づく。
彼はすでにボロボロで、よく見れば身体中の骨となる木が折れていた。
この状態でよく戦っていたな、と感心する。
「大丈夫……じゃなさそうですね」
「人間に、心配される筋合いは……ありませぬぞ……」
「貸し、一つあるの忘れないでくださいね?」
「ぬ……むぅ……」
「案山子夜。雪野様の言う通りです。雪野様が居られなければ私たちは……」
「皆まで言うでありませんぞ……。はあ……」
背にしているもう一本の槍を杖にし、立ち上がる。
体が少し傾いているが、とりあえず動く分には大丈夫そうだ。
月芽が心底ほっとしたように胸を撫で下ろす。
だがすぐに雪野に向き直り、丁寧に頭を下げた。
「雪野様。助太刀感謝いたします」
「うん。月芽ちゃんは大丈夫? 怪我はない?」
「はい! この通りです!」
ぱっと両腕を広げて無事をアピールする。
元気に報告するそれは、見た目相応の反応のように見えた。
とりあえず全員が生きている。
こんなにも強い妖怪がいるとは思っていなかった雪野は、改めて巫女の力の重要性に気づかされた。
人間が巫女の力なしに妖怪、異形を打倒することは叶わない。
彼女たちが戦いに参戦していればどれだけの犠牲が抑えられたのだろうか。
自身の保身のために力の強い巫女を抱えていた城主にため息が出る。
すると、案山子夜が傾いた体を動かした。
月芽の異術によって捕らえられている芦山に視線を向ける。
「して、あれはどうするのですかな?」
「交渉します」
即答した雪野は、拘束されている芦山に近づく。
もう動くことはできないので、武器が届かないだけの距離だけを取って対話を試みる。
芦山の前に立てば、彼は睨むようにこちらを見上げた。
少し動くだけで継ぎ接ぎが引っ張られるような感覚があり、随分痛む。
思い切り動けば継ぎ接ぎが千切れて肉がさけるだろう。
「……殺せ」
「殺しません。貴方たちの目的はなんですか?」
「……話したとて分かるまい。死を待つ者が口にすること、なにもなし」
「月芽ちゃん」
雪野が振り向く。
これには流石に首を横に振り、拘束を解くのを拒んだ。
「む、無理ですよ……。というか……見逃すおつもりですか……?」
「そうよ」
「ええ……? か、案山子夜……」
「言わんとしていることは分かりますな」
「案山子夜まで!?」
「妖に貸しを作るのですぞ。命の貸し。そう軽いものではありませんな」
「……ぬぅ……」
話を聞いていた芦山は苦い顔をする。
反応を見てこれが有効なのだ、と月芽も理解したらしい。
だがなぜ雪野はそれを知っていたのだろうか?
「人間の雪野様は、なぜこれが有効だと知っていたのですか?」
「妖怪の勝負ごとってのはそう単純なものじゃないらしいって話をね……。敗けが決まりかけると逃げる妖怪もいるらしいし」
「へぇ……」
説明を終えたところで芦山に向き直る。
まだ拘束を解くつもりはないが、話だけでも終わらせることができればそれでいい。
「と、言うことで話してくだされば解放します」
「……均衡。それ以上、言えることはなし」
「均衡……?」
雪野が振り返れば、月芽と案山子夜も首を傾げている。
意味は分かるが、それが何を指しているのかさっぱりだ。
妖怪が動かなければならないこととは?
そもそも何故妖怪が均衡を保つために活動しているのだろう。
「案山子夜。この均衡について、シュコン様はなにか知っているでしょうか?」
「シュコン……とは誰ですかな」
「あ、そっか。案山子夜は知らないんでしたっけ。平将門と戦ったときに、旅籠様を守ってくださった恩人様です。ほら、旅籠様を牢から救いだした時、一瞬変わったではありませんか」
「ああ、あの妙な気配……」
「おい」
芦山が声を発した。
この会話に混じってくると思わなかった二人は、少し警戒気味に彼を見る。
継ぎ接ぎの異術に縛られているのにも関わらず、それを無視してこちらに体を向けていた。
ビリビリと継ぎ接ぎが肉体を引き裂き、血が流れる。
それを意に返すこともなく、彼は目を見張って驚愕していた。
「……いま……なんと……。今、なんと言った……!」
「へ? 均衡について……?」
「そのあとだ……! 貴様……主魂と言ったか!?」
「シュコン様……ですか……? は、はい……」
「平将門と対峙したと!? その後どうなった! 生きているのか!? 主魂はどこにいる!!」
次第に感情を爆発させるように吠え、月芽に敵意にも近い問いを投げ掛けた。
そこに案山子夜が割って入るが、芦山は止まらない。
動かない体を無理に動かし、身体中から血を流しながら振り向いた。
天狗の中でも屈指の指に入るであろう、芦山がここまで取り乱している。
主魂とは誰なのか。
芦山……いや、妖怪にとって重要な存在であるということだけは、これだけでわかった。
「答えよ異形!!」
「……月芽。わてもその話、聞かせてくれますかな?」
「えっと……。シュコン様は旅籠様の中に居られ、危険が迫った時に入れ替わり、旅籠様を救ってくださるのです。平将門と対峙はしましたが、今は私の管理の下、異形の傘下についております」
「なんだと……!」
気張っていた力を完全に抜き、芦山はその場に倒れる。
血を流しすぎたというわけではないらしく、死んではいない。
ただ、今し方聞いた話に頭を抱えてうずくまった。
「何故……主魂が……!」
「ど、どういうこと……?」
「……お三方……」
芦山が震える声で呼び掛ける。
既に戦意などはなく、立ち上がる気力も無さそうだ。
月芽が異術を解けば、ゆっくりとこちらに向き直った。
「……頼む……話を聞け……!」
芦山は両の拳を地面につけ、額を地面に擦り付けるほどに深く頭を下げた。




