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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十三章 完全な敵対
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13.8.共闘②


 芦山が翼を大きく広げると、爆風が襲いかかってくる。

 結界の越しからでもその強さが感じられ、ビリビリと肌が刺激された。

 それに対抗すべく月芽が継ぎ接ぎを伸ばすのだが、看破されていたようで一瞬でその場から姿を消した。


「!?」

「は、速すぎる!」


 ゴオンッ!!!!

 八角棒が結界を思い切り殴る音が轟いた。

 雪野の持てる力全てを使って作り出した結界は破壊こそされなかったが、小さなヒビが入る。


 思った以上に硬度のある結界に眉を寄せた芦山は、目だけを右に向けて飛んでくる気配をしかと捉えた。

 両刀斬天秤槍を縦に回転させ続け、地面に刺してこちらに急接近する案山子夜。

 風圧を無力化するための策なのだろうが、あまりにも異様な攻め方に芦山は身構えた。


 ギャンッ……ギャヂヂヂヂヂヂヂンッ!!

 超高速で連撃を繰り出し、芦山を押し返す。

 一本の槍に二つの刃がついているからこそできる連撃は、その全ての攻撃が鋭く的確だった。


 だが、この攻撃は全て防がれる。

 八角棒を巧みに操って一つ一つを打ち返し、二度ほど攻撃を仕掛けたほどだ。

 双方は最後に鋭い一撃をぶつけあったあと鍔迫り合いに持ち込む。

 力、技量、共に同格。

 体が軽い案山子夜は吹き飛ばされやすく、そこに関していえば不利。

 されど武器が重いのは芦山で、武器を振るう速度は案山子夜が上だった。


「……卓越の槍術……。否、杖術か」

「……どちらもですな」

「その異術、年功だな? 貴様を知っておれば、子狐も異形を殺すことに躊躇いなどなかっただろう」

「随分と評価しておるのですな」

「年功の異術と仕合うは貴様で二度目。仙功と成る前に仕留める」

「……なに?」


 細く、無数の気配。

 がばりと持ち上がった継ぎ接ぎが覆い被さるように芦山へ襲いかかり、地面からも素早く延びで捕らえようと試みる。

 触れればこちらの勝ちが決定する異術。

 明らかに危険なものだと芦山も分かっているはずだが、彼は動かなかった。


「念」


 たった一言。

 小さく呟いた瞬間、芦山を中心にして空圧が襲いかかり、伸びてきた継ぎ接ぎを全て弾き返した。

 地面も少し破壊され、継ぎ接ぎの進行ルートがなくなってしまう。

 この被害にあったのは案山子夜も同じで、空気の塊が直撃して無理矢理距離を取らされる。


 刃を地面に突き刺して勢いを殺し、停止した。

 すぐに顔を上げて見れば、すでに芦山が肉薄していた。


「ぐぬ……!」

「やるな」


 驚異の反射神経でこれを回避する。

 頭上を八角棒が通りすぎ、その風圧でさらに吹き飛ぶ。

 だが直撃は間逃れた。

 笠を指先で持ち上げて芦山を常に視界の中に捉える。


(ここは異形の地……! 旅籠様から賜った得物により、黒霊城よりもわての力は増しているはずですぞ……!? だというのに……この力量差……!)


 稲嵯虚心流を使う暇すらない。

 雪野によって弱体化されているはずだが、それでも速く、油断していると目で追えなくなる。


 何より厄介なのが……空圧だ。

 体の軽い案山子夜にとって、いちいち吹き飛ばされるというのは面倒きわまりない。

 剣の腕は同格だろうが、全体的に見れば圧倒的に芦山の方が強い。

 今まで戦ってきた天狗とまるで違った。


 パン、と手を打ち鳴らす音。

 瞬時に結界が芦山を囲んで閉じ込める。

 狭い結界は八角棒を振るうことすらできず、これで攻撃手段を一つ失わせることができた。


「どうだ……!」

「……窮屈」


 掌で結界に触れる。

 少し小突いた瞬間、数十枚のガラスが弾ける音が響き渡った。

 凝縮されていたはずの結界は木っ端微塵となり、地面に落ちてその効力を完全に失う。


「え……!?」

「雪野さまの結界が……!」

「内からであれば、破るは容易い」


 次いで伸びてきた継ぎ接ぎは、地面を殴って隆起させながら防いだ。

 土煙が薄くなる頃には、芦山の姿はそこになく、残されたのはこちらに伸びる土煙のみ。

 雪野と月芽がいる結界を、再び殴り付ける。


 ガァアンッ!

 余りにも鋭い振動に体勢を崩してしまう。

 雪野と月芽は芦山の動きを黙視することができておらず、ただ結界の中で耐えるしかなかった。

 先程よりも深くびひが入り、あと数回殴られれば破壊されてしまいそうだ。


 想像以上に硬い結界を前に、芦山も眉を寄せる。

 これを見て確信した。


(三名、驚異なり)


 年功と継ぎ接ぎの異術を有する異形に加え、この打撃を防ぐ結界を作り出せる人間の巫女。

 これを野放しにすれば妖怪は必ず衰退する。

 というより、間違いなく多くの妖怪が殺され、人間が勢力を広げるだろう。

 異形も手がつけられない程に暴れまわるに決まっている。

 やはりここで殺しておかなければ、我ら妖怪に未来はない。


 共に歩めぬのであらば、殺す他あるまい。


「フッ!」

「やはり、まずは貴様よな」


 回転しながら飛んできた案山子夜が、一瞬で七連撃を繰り出す。

 これを全て防ぐことは容易だが、全ての斬撃が重く、鋭い。


 大上段から繰り出した攻撃を防ぐと同時に反撃にでたが、そこでぞわりとした悪寒を感じとる。

 バッと翼を広げた瞬間、案山子夜が吠えた。


「稲嵯虚心流……水門・閉!!」


 武器を背後に振り抜き、体ごと一回転して強烈な一撃を繰り出す。

 刃が二つあるため二連撃となったのだが、これに芦山はようやく顔を歪めた。


「んぐぬ……!?」


 大きく後退して構えを取り直す。

 右手に残っている痺れを無視し、八角棒を巧みに回してから飛びかかる。

 この動きをしかと見ていた案山子夜はすぐさま反応し、軽い身体を活かして回避した。


 そこからは怒涛だった。

 二名の連撃が火花を散らし、互いに技を繰り出し続ける。

 目で捉えることのできない戦闘だったが、激しい打ち合いがその過激さを教えてくれた。


 雪野と月芽は助太刀しようにも動けない。

 しかしこの間に結界の修復は完了した。


「ゆ、雪野様……。このままでは案山子夜が……!」

「とはいっても……」


 入る隙など何処にもない。

 しかし、月芽の言う通りこのままでは案山子夜が危なかった。

 彼が倒れれば今度はこちらに標的が移り変わり、連続で攻撃されて結界はすぐさま破壊されるだろう。

 芦山の攻撃を長く耐えられるだけの結界は……作れない。


「……そういえば……」


 ふと気づく。

 雪野は守の御力を常時使っているのだが、これは案山子夜にも影響があるのだろうか?

 だが動きに追い付けているということは、案山子夜には守の御力の影響はないはずだ。


「……使えてない……?」

「雪野様?」


 人間が妖怪および異形に対抗できる唯一の術。

 天狗一体の力を押さえられない……ということはないはずだ。


 守の御力で力を制御する対象が選べる事は分かった。

 見境がなければ月芽も異術を使えないからだ。

 そして以前、案山子夜の異術の力を大きく制限した。

 制限を解除した案山子夜が、天狗に引けをとるとは考えにくい。


 これはつまり……守の御力が正常に機能していないのではないだろうか。


「あの時と……今の違いは……」


 雪野は必死に不落城での一戦を思い出す。

 この状況にあって、あの時なかったなにか。

 力に制限がかかってしまうなにかが、ここにはあるはずだった。


「ぐ……!」

「念」


 空圧が連続で案山子夜を襲い、まともに食らって地面に叩きつけられる。

 すぐさま起き上がったが、直後、芦山の重い一撃が振り下ろされた。


 これを何とか防ぐものの、バギッ……と案山子夜の義足が折れる。

 痛みこそないが片足だけで耐えられるものではない。

 折れた義足が地面に深く突き刺さり、腰と地面はほぼ触れている状態だ。


 動けない。

 まずいと分かっていてもなかなか抜け出すことができなかった。

 一歩下がった芦山は素早く八角棒を回して遠心力を乗せ、無言で案山子夜の首を狙った。


「ッ! 分かった!」


 雪野が手を伸ばした瞬間、芦山の攻撃が案山子夜に届く。

 とりあえず防いだが焼け石に水だろう。

 案山子夜が諦めかけたその時、繰り出された一撃は想像の数十倍軽いものだった。


「……なに?」

「なん……だと……!?」


 芦山は、力がごっそり抜け落ちるのを感じた。

 八角棒が重い。

 今まで動いてきた反動で息が切れる。


 巫女の仕業だ、とすぐさま看破したあと雪野を見る。

 そこには確かに雪野がいた。

 結界を解除し、守の御力のみを使っている彼女がこちらを鋭く睨んでいるのだった。


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