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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十三章 完全な敵対
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13.5.難しい采配


 雪野の言葉に、月芽は目を見張る。

 だが考えてみれば道理でもあった。

 異形が負けて撤退すれば、雪野は交渉の場で大きく出られる。

 この提案が通る可能性は今よりも格段に高いだろう。


 しかし……異形がこれを納得するか否か、という問題が浮上する。

 正直これも無理な話だと思う。

 せっかく奪い取った城を明け渡すのみならず、人間に頭を下げて願いを聞き届けてくれるように説得するのは……月芽では無理だ。

 異形は人間を嫌っているし、簡単には頷かない。

 どう考えても……上手くはいかないだろう。


「……本当に、遅かったんですね……」

「貴方の力で旅籠さんを富表神社に連れていけないの?」

「私は行ったことがある場所にしか繋げられないのです。過去の記憶は取り戻しており、代果城のことは覚えているのですが、今と姿が違うようで……繋げられないのです。距離などが分かれば目測で繋げられるのですが……」

「馬で一ヵ月の距離だからね……。無理そう……」

「はいぃ……」


 やはりそう都合のいい能力ではないようだ。

 こっそり月芽が行こうとしても、彼女の能力は優秀で異形たちからも頼られているところがある。

 急に居なくなったとなれば大慌てで探し始めるだろう。


 この交渉、雪野はどうしても成功することはないと感じていた。

 同じく月芽も無理だと悟ったようだ。


 人間は既に仲間を多く失い、異形に対し完全に敵対している。

 月芽の案は人間を逆上させるだけだ。

 一方異形は仲間こそ失っていないものの、人間に媚びへつらうことは絶対にしない。

 雪野が口にした策も、同様に異形を逆上させるだけになるだろう。


「……戦は、避けられないのですね……」

「残念だけどそうだと思う。異形は城を落としたし、多分士気は高いわよね。負けるつもりなんてないだろうし。人間側も城を取り返すために、今から準備してるわ」

「そう、ですか……。あはは、この交渉……意味なかったんですね……」

「そんなことないわ」

「え?」


 雪野は立ち上がり、月芽の傍に座る。

 座布団となっていたワタマリたちもすぐさま移動し、月芽の座っている座布団と合体した。

 隣に来たことに驚いていると、彼女は手を握る。

 きょとんとしている間に、雪野は優しく言葉をつづけた。


「私が異形を知れた」

「……」

「怖いものだとばかり思っていたけど、全然そんなことないじゃない。貴方は優しいし、嫌いな人間と交渉できる勇気もある。ほかの異形たちも、貴方みたいな感じなの?」

「……え、いや……。喋れない異形も居ます。でもそういった異形は軒並み強いです。強さもまちまちですが……みんな優しいですよ。そして、忠誠心が強いです」

「会ってみたいわね。興味が出てきたわ」

「でも歓迎はされないです……」

「確かにそうかもね」


 雪野がそりゃそうだ、とくすくす笑うと、月芽もそれにつられて小さく笑う。

 周囲にいるワタマリもその気配を感じ取ったのか、キュキュと声を出していた。


 交渉こそ成立はしなかったが、お互いのことを知れた良い機会にはなっただろう。

 こうした交流が本来は必要なのかもしれない。

 互いのことを理解すれば、分かり合えることも多いというものだ。

 今はそういう余裕がないため、なかなかできない事だろうが……。

 これが実現できれば、異形と人間の関係性は修復できるかもしれないと、雪野は感じていた。


「……さぁ、雪野様。皆さんが心配されているでしょう。そろそろ……」

「ええ、そうね。でも月芽ちゃんと話せてよかったわ。次合う時は戦場かもしれないけど……。そうならないよう、働きかけてみるわね」

「はい、お願いいたします。私たちは今、動く予定はありません。少なくとも、春までは」

「それ言っちゃって大丈夫なの……?」

「良いのです。事実ですし」

「ま、まぁいいか……じゃあ元の場所に──」


 その時、ワタマリの座布団がぐわんと動く。


『『『『『『キュキュキュキュ!』』』』』

「えっ……!? な、なに!?」

「ワタマリ、どうしたのですか!?」


 壁の役割を担っていたワタマリが騒ぎ出し、途端に崩れて散っていく。

 数体は二人を守るように前に出たが、プルプルと震えておりとてもではないが役に立ちそうにない。

 しかしワタマリがこのような動きをするのは珍しい。

 なにか警告しているのだろうが、それが何か把握できていなかった。

 

 月芽はすぐに外に飛び出す。

 周囲を見渡そうとした瞬間、凄まじい突風が襲い掛かってきた。

 飛ばされそうになったのですぐさま身をかがめると、雪野が飛ばされないように背中を押さえてくれる。

 しかしこの突風で、ワタマリが数十匹宙を舞った。


「な、なに……!?」

「くっ……。あ、あれは……! 天狗共……!」

「天狗!?」


 ばっと顔を上げてみてみれば、空にいくつか黒い点が見えた。

 よく目を凝らしてみれば、それらは確かに人の姿をしており、背中には黒い翼を生やしている。

 数えてみようとしたが次から次へと出てくる天狗を見て、雪野は思わず声を張った。


「多勢に無勢……! 月芽ちゃん! 逃げよう!」

「……ダメです」

「なんで!?」

「私たち異形は、人間よりも妖怪の方が嫌いなのです。そんな奴らに、私の故郷を潰させてなるものですか……!」


 月芽が構えを取ると、足元に大量の継ぎ接ぎが伸びた。

 それらは周囲の木々や岩にまとわりつき、獲物が来るのを待っているようだ。

 だが、月芽の異術は空中戦に弱い。

 常に飛んでいる天狗を相手にするには、相性が悪すぎた。


 それでも戦う姿勢をやめないのは、ここが守るべき場所だからである。

 最悪時間稼ぎができればいい。

 そう思い、月芽は懐に手を入れる。


「……あれ!? な、ない!?」

「え?」

「案山子夜からもらった籾がない……! な、ない!?」

「も、籾? ……そういえば……」


 雪野は先ほどの光景を思い出す。

 吹き飛ばされそうだった月芽を支えに行った瞬間、月芽の服から種のようなものが飛んで行った。

 特に気にしていなかったのだが……。


「もしかして失くしたらまずいやつ……?」

「増援が……呼べません!」

「確かあっちに……うわっ!?」

「きゃあっ!?」


 再び鋭い突風。

 これと同時に天狗が何かを放り投げる。

 異端村の四方に投げられたそれは、雪を貫通して地面に深く突き刺さった。

 着弾を確認したのち、四名の天狗が印を結ぶ。


「「「「四方不脱陣(しほうふだつじん)」」」」


 一瞬、空気に色が付く。

 鏡が光を反射したように赤黒いガラスのような壁が一瞬だけ見えた。

 すぐに透明になってしまったが、何となく直感する。

 閉じ込められてしまったのだと。


 雪野がすぐに結界を展開する。

 自分と月芽を守るよう大きな円形を形どった。


「ゆ、雪野様……?」

「何かわからないけど……。見殺しになんてできるもんですか! あと閉じ込められたっぽいし!」

「……」

「で? 策はあるの?」

「ないです……!」

「ないのお!?」


 それは予想外だ。

 月芽の異術があればなんとかなると思っていた雪野だったが、無謀にも立ち向かおうとしていたことにまず驚いた。

 だがこうして出張ってしまった手前、もう後には引けなさそうだ。

 額を抑えて考えを巡らせる。


「……とりあえず籾を探しましょう。そんなに遠くには飛んで行っていないはずよ」

「この、雪の中をですか……」

「それしかないじゃない!」


 ガアァンッ!!!!

 鋭い音が聞こえた。

 すぐに空を見上げてみれば、天狗が錫杖を結界に突き立てている。

 とはいえ金巫女の結界だ。

 そう簡単には壊されない。


 これを見て月芽は一つ策を思いついた。

 すぐさま雪野に確認を取る。


「雪野様! 結界を維持しながら籾の捜索は可能ですか!?」

「ええ、できるわ!」

「では私がこの結界に異術を纏わせます! 天狗が殴れば異術を奴らの体に巻き付けてばらします! ですがその間私は動けません……!」

「あとで交代してよね!」


 頷きあったと同時に、各々が動き出す。

 月芽は手を叩いて地面を踏み込み、雪野が作った結界に継ぎ接ぎを伸ばしていく。

 これで準備は整った。

 あとは……。


「雪野様、頼みます……!」


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