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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第一章 異形の地
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1.19.異形人

 ツギメから話を聞いて、私はすぐに新たな作戦を考えるために神社に戻った。

 ワタマリに囲まれているここが、やはり一番落ち着く。


 一匹抱え、数十匹が周囲を囲んでいる。

 今回の作戦に使いすぎたので、物凄い数になってしまっているのだ。

 ここにいるのはほんの一部に過ぎない。


「ど、どうされますか……? 旅籠様……」

「……クロボソー。二口の兵力は?」

「あっしの知っている限りでは、百には満たなかったとおもいやす」

「兵数ではトントン……。でも実力差が結構ありそうだねぇ……」


 一度食われかけたとき、そう思った。

 二口の口は大きく開き、一口で上半身全てを噛み千切られそうだったのだ。

 よくあんなのに抵抗できたな、としみじみ思う。

 できればもう二度としたくない。


 怪蟲を使えば兵力差は圧倒的にこちらが有利になるのだが、彼らは確かに弱すぎた。

 一度見せてもらった時、小突いてみただけで死んだのだ。

 そんなことがあるか、と叫んだのは記憶に新しい。


 なのでこちらの実質的な兵力は九十五名。

 相手が百だとしても兵力差はそこまで変わらない。


 ていうかジャハツ何処に行った。

 おばあちゃんの知恵袋gがないとこの状況打開できないかもしれないんですけど。


「ど~~すっかなぁ……。ていうかこの世界の情勢に私は無知すぎるんだよね。なんかその辺詳しい異形とかいないかい?」

「ジャハツ様……」

「なんで肝心な時にいないんだあの蛇」


 純粋な文句が出てきた。

 だが愚痴っていても解決することは一つもない。

 何とか今ある知恵だけで打開策を練っていかなければ。


 まず問題になっているのは、私たちがやっていた二口狩りが二口たちに露見したという事。

 どのように情報が伝達されたのかが不透明なため、対策を一つ取るにしても慎重を期さなければならない。


 というより、全てが露見して警戒されている、と仮定した方がいいような気がする。

 その方向性で考えてみよう。


「攻め込んでくるかな?」

「ううん……可能性としてはなくはないですね。クロボソが裏切ったとなれば黙ってはいないでしょうし」

「ここであっしが足引っ張りやしたか……あてててて」


 クロボソは今まで渡り者を献上し続けた異形として、二口には信頼されていたはずだ。

 その信頼を使って裏切ったのだから、相手からすれば相当頭に来ているはずである。

 なにせ、異形という最弱と言われている種族に同胞を殺されてしまっているのだ。

 屈辱から込み上げる怒りで満ち溢れているかもしれない。


 だが、もしかしたら『そんな馬鹿なことがある訳ない』とたかを括っているかも。

 ……いやいや、やめておこう。

 こちらに都合よく考えるのはよくない。

 もっとも最悪なパターンをまずは考えて、作戦を立てよう……。


「攻め込んでくるとしたら、どうくるかな」

「クロボソ、頼めますか?」

「わかりやした」


 ふわりと浮かび、外に出て木の皮を剥いでくる。

 以前地図を描いてくれた時と同じように、細い手を使ってガリガリと描いていく。


 異端村の地図だ。

 二口の領地があるのはここから東に三日歩いた所。

 意外と近いが、どうやらこの三日というのはクロボソの基準で三日だったらしい。

 実際は一週間ほどかかる。


 今までこの村におびき寄せていたのは、領地の見張りを任されていた二口だった。

 彼らは『大声』で連絡を取り合うことができるので、距離を取っていたとしても問題はないのだ。

 そのため各個撃破ができたのだが……。


 話を戻そう。

 二口は人間の姿に近いので、徒歩での移動は時間がかかる。

 山道であれば尚更だ。

 なのでこの村に攻め込むとしても、最低でも一週間の猶予があるということになる。


 そこでクロボソが描いた地図を見る。

 この辺りはほとんどが苔に覆われており、じめじめとしている。

 小川が流れているが、これを防衛のかなめにはできそうにない。

 柵や堀などもなく、地形を駆使して守ることができるような村ではなかった。


 クロボソが指を差しながら説明をする。


「この神社の裏手には崖、横には丘。丘は小川の向こうまで見渡せやす。来るとしたら……こっち側」


 そう言いながら小川の奥を指さした。

 なるほど、こっちが東か。


 そういえばこの神社がある近辺の地形は妙な形になっている。

 崖があり、隣に丘。

 怪蟲が移動したことでこの丘ができたらしいのだが……。


 まぁあのデカさの虫が地面を移動したら丘ぐらい余裕でできるか。

 ……怪蟲を使えば地面を好きな形に作り変えることができるのでは?


「小川の奥には“怪蟲の森”がありやす。木々はまばらで起伏が激しい。そんな所でさ」

「防衛するならここかな?」

「違う」


 知らない声が聞こえた。

 低く、鋭く、冷たい。

 小さい声なのに大きな声で叱責されたような錯覚が起き、三人で一気に委縮する。

 恐る恐る振り向き、その姿を視界の中に入れた。


 立っていたのは、全身びしょ濡れになった男だ。

 手入れをしていない長い髪の毛は掻き上げられており、水滴が床に落ちている。

 顔立ちは細く、鋭い瞳はぎらぎらと光っており、若干のうす笑いを浮かべていた。


 和服に隠れて見えないが、袖から見える腕は相当鍛えていると思われる。

 その和服も水をしっかりと含んでおり、至る所から水滴がぽたぽたと落ちていた。

 分厚い羽織は長い間使っているのかぼろくなっている。

 見事に着付けられた和服の腰には、一振りの日本刀が携えられていた。


 見た瞬間、理解した。

 異形の中で人間の姿に近い、ツギメ以外のもう一人の異形。

 そして、異形の中でも強力な力を有する、異形人がこの人なのだと。


落水(おちみず)様!」

「あやや……! い、異形人の落水様がなんせこちらに!?」

「……話はジャハツに聞け。おい、渡り者」

「ひゃい」


 そんな低い声で私を呼ばないでほしい。


 落水は足元を濡らしながらこちらに近づき、クロボソの描いた地図を奪い取った。

 それを私の前にスッ……と差し出し、指をさす。


「怪蟲の子は騒音を嫌う。踏み入れるだけで足音が地中に鳴り響き、怪蟲の子が騒ぎ出す」

「子……?」

「故に、先手は怪蟲に任せればいい。俺らはその生き残りを討つ。防衛するならば、やはり小川だろうな。今俺らが持つ手札を使う場合だが」


 その言葉を聞いて、ツギメとクロボソが驚いた顔をした。

 一度顔を見合わせ、ツギメが声をかける。


「落水様……? 渡り者様とは関わらないはずでは……?」

「条件を満たした。それだけだ」


 ……なんの!? いや、知らないが!?

 てかさっきジャハツがどうとか言ってたな?

 もしかしてこの人を仲間に入れるために何か交渉しに向かっていたのか……?


 ……もしそうなら……。


「えと、落水さんだっけ?」

「ああ」

「私たちに……協力、してくれるってことで、大丈夫ですか……?」


 もっとも聞きたいのはこれだ。

 会話の流れ的に協力的だったので、その可能性はあるのだが、ここはやはり本人の口から本意を聞いておきたい。


 落水はこちらを向いた。

 コテリ、と不気味に首を傾げながら、口を開く。


「ああ。そのつもりだ」


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