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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第一章 異形の地
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1.18.想定外


 全員が待機場所に着く。

 ぼろくなった家屋の大黒柱に旅籠が縛られているように見せ、油断を誘う。

 旅籠の左右後方に異形たちが武器を持って配置しており、天井には大量のワタマリが異形たちの気配と音を喰らっていた。


 これまで一度も、異形たちは二口に見つからずに奇襲を仕掛けることに成功した。

 今回も前回と同じように、合図とともに仕留めるのみ。


 クロボソが近くまで来たらしい。

 二口が話す声が聞こえてくる。


「こちらにごぜぇやす」

「で、誰が喰らうんだ? 自分は遠慮するが」

「じゃあ俺が喰らうが?」

「いいぞ。この中で最も力のあるのはお前だからな。大口様の右腕に一番早く辿りつけそうだ」

「よし」


 短い会話を終えて、二口の一体だけが家屋の中に入っていく。

 だが、一体だけだった。


「あ、あや? お二方は入られないんで?」

「必要あるか? 喰らうだけだろ?」

「その通りだ。見張りでもしておいた方がいい」


 えっ。


 隙間だらけの家屋のためか、外からの会話はしっかりと聞こえてきた。

 異形たちもこれまでとは違う展開に戸惑っているようで、武器は構えているがお互いの顔を見合わせている。

 そして、旅籠を見た。


 この中で号令を出すのは旅籠だ。

 彼が声を掛けなければ、異形は動かない。

 ましてや今から作戦の変更をするのは無理である。


 い、今までの奴らは面白いもの見たさに全員中に入って来とったやろが……!

 なんで今回だけこんな冷静な奴なんだよ!

 ま、待ってこれどうする!?


 内心焦りながらも、表には出さない。

 縛られた振りをしているまま動かず、どうすればいいか考えを巡らせる。


 そうしている間にも、二口は家屋の中に入って来た。

 物珍しそうに眺めた後、手早く終わらせる為に近づいて来る。

 このままだと残り十秒以内に二口の後頭部に付いている口が開かれるだろう。

 そんな短い時間で対処できるような頭脳は持ち合わせていない。


 ど、どうする……。

 今号令をかけるか……!?

 でもそうしたら外の奴に絶対にバレる。

 そうなったら絶対に増援を呼ばれてしまうし……。

 だけど号令かけないと私が死ぬ!


 二口が後ろを向いた。

 ぐばっと大きな口が開けられ、横から食らうようにして飛び込んできた。


 あ、無理。


 反射的に自分の真横に構えられていた槍を掴み、一匹の異形からそれを奪い取って思い切り突き上げる。


「ふおおおあああ!!」

「ぎょぺがッ!?」


 後頭部の口に槍が入り、貫通して反対側にあった目玉から槍が飛び出した。

 ずん、という鋭い感触が手に伝わったが、更に力を込めてねじ込む。


「でやぁあ!!」

「ゴゲッ……」


 体格は人間に近い為、相当な力が必要だったが無理矢理持っていた槍を持ち上げて投げ飛ばす。

 引きずるような形にはなってしまったが、この一撃で二口は絶命したらしい。

 その証拠にビクリと一度痙攣したきり、動かなくなった。


 だが問題はここからである。

 ばっと入口の方へ体を向ける。


「どうした!!? なっ! ガクチ!」

「っ! 渡り者! てめぇよくも!!」


 二体の二口が一気に部屋の中に入って来て、現場を確認する。

 するとぼさぼさの髪がふわりと動き、旅籠を捕えるためにこちらに向かってくる。


 だが、意外と速度は遅い。

 数が多いので近づいていれば厄介であったが、距離を取っていれば何とかなりそうだ。

 なのでステップを踏んで後退し、誘い込む(・・・・)


 二体の二口は一気に踏み込み、逃げる旅籠を捕えようと近づく。

 部屋の中央。

 そこに二匹が踏み込んだ瞬間……号令を出す。


「突けぇ!!」


 三方から武器が飛び出し、二体の二口が貫かれていく。

 計二十体の異形が一斉に武器で突きを繰り出したため、二口は避けることができない。

 一体は完全に仕留めることができた。

 頭や心臓付近にしっかりと武器が貫通している。


 だが、もう一体は瀕死だった。

 まだ生きているため、即座に武器を引き抜いて二手目を繰り出そうとした。


「ヴォオオオオ」

「っ!」


 二口の大きな口が妙な声を発した。

 そのすぐあとズガッ、と鈍い音を立てながら竹槍が眼球に突き刺さり、脳天を貫く。

 これがトドメになったらしく、だらんと力なくその場に倒れた。


 しばらくの沈黙の後、旅籠がその場にへたりこむ。


「……こ、こっわ……! 怖かった……!」

「旅籠様! ご無事でございますか!?」


 人間に近い存在をこの手で仕留めてしまったことに、少なからず動揺が走る。

 手が震え、未だに残っている鈍い感触が離れなかった。

 やらなければ殺されていたとはいえ、何かを手にかけるのは気分が悪い。

 空っぽのはずの胃から何かが込み上げそうになったが、空気を飲み込んで無理矢理鎮めた。


 ツギメが背中をさすってくれている。

 他の異形たちもすぐに遺体を片付けたり、旅籠を心配そうにして側にいた。

 誰かが気を利かせてワタマリを持ってきてくれたらしく、ふわふわとした感触が肌に伝わる。


「大丈夫……大丈夫……! 人間じゃないなら……! 大丈夫……!」


 なんとか自分を落ち着かせる。

 この世界唯一の癒しであるワタマリが近くにいることもあり、次第に落ち着きを取り戻せた。

 大きく息を吸い、静かに吐く。


 すると、慌てた様子でクロボソが中に入って来た。


「申し訳ごぜぇやせん旅籠様! あ、あっしが三人も連れてこなけりゃこんな事には……」

「い、いやいや。考えが甘かった私にも責任はあるから大丈夫。中に入ってこない場合の事、考えていればよかったね……」

「つ、次は二名までで誘い込みやす!」

「うん、よろしくね」


 さすがにこんな思いは何度もしたくない。

 確実に倒せる人数を、今度から連れてきてもらうことにしよう。


 それにしても……。


「皆よく動かなかったね! あれで動いてたらヤバかったかも!」

「僕はひやひやしましたよぉ! もうあんな危ないことはしないでください!」

「そうですよ! 号令もないし、どうすればいいか分からなかったんですから……」

「ま、まぁまぁ……」


 空蜘蛛の弟が地団駄を踏みながら文句を言い、ツギメが頬を膨らませながらこちらを睨む。

 申し訳ない……。


 一度このやり方が成功して気が大きくなり、何度も仕留めることができたことでこれで問題ないと高を括っていた。

 もっと慎重になるべきだったのだ。

 今度はこんなことがない様にしなければ。


 とりあえず外の空気を吸いたい。

 そう告げて小屋に出て、肺に溜まった血の匂いを取り除くように息を吐いた。

 少しの間そうしていると気分が良くなっていく。

 もう大丈夫そうだ。


「とりあえず、みんな無事でよかった」

「……あ、あの、旅籠様。恐らくこの策はもう使えないかと……」

「え!?」


 ツギメがとんでもないことを言い出した。

 今ので何か問題があったのだろうか?

 確かに失敗しかけたが、最終的には仕留めることに成功した。

 次に誘い込む人数を決めて置けば問題ないはず。


 だが、そうではないらしい。


「えと、策自体には何ら問題ありません。ですが先ほど……。二口は『大声』を使いました」

「おおごえ?」

「二口にだけ聞こえる連絡手段。『大声』です。私たちには大きな声には聞こえませんが、二口にはあの声が届いているはずです……」


 異形たちに異能があるように、妖にも妖術とは違う何かしらの特別な力が宿っている。

 二口であれば、二口同士だけが聞くことのできる声だ。

 これは使うことさえできれば、どんなに離れていても聞き取ることができるらしい。


 今までは頭部を中心に武器で突いたが、最後の一体は瀕死だったが『大声』を出せるだけの力は残っていた。

 使われてしまった以上……何かしらあの状況を共有されているはずである。


「……てことは……二口に、この事がバレた?」

「やっていることは気付かれてはいないでしょうが、ここで二口が殺されたことは把握されているかと……」


 ……うせやん。


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