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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第一章 異形の地
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1.17.いやだからっ!


「なんっでやねん!! おかしいって!!」


 夜、私はワタマリに囲まれながら床を叩きまくっていた。

 大きな音を立てるものだから、ワタマリがぺしょぺしょと音を喰らっている。

 ごめん。


 だが違うのだ。

 そうではないのだ。


「妖とはいえ生物殺して喜んでんじゃねぇよ私ぃ……!」


 明らかに自分の様子がおかしい。

 虫も殺せない程気が弱いわけではないが、朝起きると気が大きくなっている。

 今日、目の前で串刺しにされる妖怪を目にしたが、一切驚きはしなかった。

 むしろ“してやったり”といった笑みを携えていたように思う。


 今になって本当の自分が帰って来るようで、こうして冷静になって今日の行動を振り返っていた。

 朝もちょっとの間だけ本当の自分が帰って来ていたが、いつの間にか消えていた。

 気の大きくなっている私は自信に満ち溢れていているので委ねていると楽だ。


 だが……それは本当の自分ではない。


「……どうなってんだぁ……?」


 これは二重人格とはまったくの別物だ。

 意識ははっきりしているし、考えていることも本来の自分と似たようなものだ。

 だが何かが大きく違う。

 自分ではあるのだが、自分とは違う性格が表に出てきているような。


「……でもまぁ……それに助けられてはいるんだよなぁ……」


 今までもずっと本当の自分だけなら戦うという選択肢も、今回の作戦も思いつきはしなかっただろう。

 確実にこの性格に助けられている。


 自分とは違う性格のことを、裏の性格とこれからは呼ぶことにしようか……。

 分かりにくいし。


 表の性格は、裏の性格と違ってそんなに度胸は持っていない。

 この作戦くらいなら思いつくだろうが……自分が囮になるなんて案は作らないと思う。

 ううん……表より裏の方が有能なのでは……。


 とはいえ、これが続くとよくない気がする……。

 こんな現象が他の渡り者にもあったんだろうか?

 でも異形たちからそんな話は一回も聞いていないし、結局死んでしまっているからよく分からないかもしれない。


 ジャハツなら何か知っているかもしれないので、また今度会う時に聞いてみよう。

 ……少し、苦手だけど。


「まずはいつまで表で、いつ裏になったか分かる様にならないとな……」


 今日の朝は表だったはずだ。

 しばらく自分が言ったことに後悔して、異形たちのやる気を思い出してやってやろうと思った。

 そしてここに来た原因を今一度思い出し、怒りを溜めて……。


「……そこでは?」


 気合を入れた時。

 あのあたりから裏が出てきていたのではないだろうか?


「でもなぁ……。悪い影響じゃないってのがなぁ……。どう思うよワタマリ」

「キュキュ?」

「わかんないよなぁ」


 手に持っていたワタマリがポンッと分裂した。

 音を沢山喰らうと分裂する特徴があるらしい。

 数が増えれば一匹の異形に一匹付けて、音を喰らってもらって気配を消すなんてこともできそうだ。


 音と気配を喰らう能力……。

 ワタマリ、可愛い見た目をしていてサポート面ではものすごく強力な力を持っている。

 うまく活用すれば犠牲も減るはずだ。

 できるだけ増えてもらいたいところである。


「まぁ……とりあえず明日も同じことをやるんだ。寝よう……」


 ぺた、と寝転ぶと、ワタマリがわらわら集まってくる。

 数も増えたのでちょっと重い。

 だが以前よりも冷え始めた夜の風を防ぐのには、丁度良かった。



 ◆



 二口の死体が異形の手によって引きずられていく。

 初めて異形が二口を殺してから三日が経った。


 あれから四回、同じ手法で二口を殺していた。

 そのすべてが上手く行き、怪蟲を使用しての人数の把握も滞りなく完了し、迎え撃つ側も準備を整えることができている。

 異形たちは更に自信を付けていき、連携も、狙いも正確になってきて様に感じられる。


 皆が意気揚々と次の準備を整えていく。

 なかなか様に成って来た。


「ううん、やっぱり仕留める場所を変えたのは正解だったね」

「そうですね。こちらの方が隠れる所が多いですし」

「ちょっと狭いけどね」


 最初だけは私が寝泊まりしている神社で仕留めたが、それ以降は比較的綺麗な家屋を使って仕留めることにした。

 さすがに妖の血が自宅にしている場所に広がるのは気分が悪い。

 だが場所を変えていいことは多かった。


 使用している家屋の天井は神社より低い。

 そのためそこにワタマリを配置しておく。

 すると異形たちが待機するスペースが広がるので、配置人数をさらに増やすことができた。


 今や異形たちは、全員が参加して二口を仕留めている。

 いい兆候だ。

 自信を付けたものが前に出ると、自ずと後ろにいた者も自信を付けて参加したがる。

 戦力としてはまだ人数は心もとないが……。

 こうしておびき寄せて仕留めるのであれば、このままでも十分だ。


 それとこれは余談だが……。

 表の性格と裏の性格について。

 帰って来たジャハツに少し話を聞いてみたのだが、そうした前例はないとのことだった。


 ううん、まぁわからないよなぁ。


 そういえば話しかけた時、何か言いかけてたな。

 嬉しそうにしてたけど……結局何も教えてくれなかった。

 言うつもりだったけど、言うのを止めたような感じがしたんだよなぁ。

 まぁいいか。


 すると、小さな地鳴りが足の裏から伝わって来た。

 これは怪蟲が地面を移動している振動だ。

 また、クロボソが二口を連れて来たらしい。


「ツギメ、人数は?」

「三人のようです」

「今までで一番多いなぁ……。皆、大丈夫そう?」


 近くにいた異形たちにそう聞いてみるが、彼らは自信満々に腕を振り上げて返事をした。

 大きな声は出さないようにお願いしているのだ。

 最近の返事はこれである。


 しかし、今回は三人。

 全員が家の中に入ってくれるのであれば問題なく仕留められる。

 三人が入る余裕ももちろんあるだろう。


「よし、配置に付こう」


 旅籠がそう言うと、再び異形たちが腕を振り上げた。


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