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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十一章 不落城冬の陣
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11.15.不落城・二の丸


 不落城、二の丸。

 その広間に出てきた落水率いる異端村異形衆の第二軍は、傍にいた人間どもを片っ端から切り伏せていく。

 この近辺にいるのは城主の護衛ばかり。

 秋や冬の風と違い、己の地位に胡坐をかいて鍛錬を怠っている者たちの集まりなので、非常に弱かった。

 もはや落水が出張る必要すらない。

 逃げ惑う人間の背中を追い、切り伏せていくだけの作業だ。


 虎口門を抜け、蔵や櫓がある通りを堂々と抜けていく。

 この間一切刀を抜いていない。

 赤雪も隣にいるが、つまらなさそうに薙刀を肩に乗せて口笛を吹いていた。

 

「こんなに雑魚だったっけぇ~?」

「今も昔も、不落城城主のお抱えは雑兵よ」


 鼻で小さく笑った後、手を払って水を幾らか払う。

 それは空中で静止して細かい弾丸となり人間を幾らか仕留めた。

 これを見て赤雪は再び口笛を吹く。


 この辺りの兵士はあらかた仕留めた。

 だがそろそろあれが来るはずだ。


 背後で矢を弾く音が聞こえた。

 振り返ってみれば、異形たちが城郭から放たれる矢から身を守っている。

 やはり来たか、と小さく笑えば落水はすぐさま体を溶かして移動し、城郭の内部へと侵入した。


 ズオ……と体を持ち上げると、矢を持っている巫女らしき姿の女が幾らか立っている。

 これが赤巫女だ。

 弓術はそこまで優れていないが、巫女の中で唯一戦える術を持っている者たち。

 赤巫女はこちらに気づく。

 すぐさま弓をこちらに向けてきた刹那、外から飛んできた矢に赤巫女が貫かれた。


 それは貫通して壁に着弾すると、跳弾するように様々方向に矢が弾ける。

 これにより近くにいた赤巫女は全員倒れてしまう。


「……五昇か。やるな」


 少しつまらなさそうにしながら日本刀を納刀する。

 櫓と櫓を繋ぐ廊下を歩いていけば、別の広間に出てくるのだが……。

 ここもすでに五昇が処理してしまっているらしく、赤巫女が全員血みどろになって倒れていた。


 本丸の敵は殺してくれるなよ、と思いながら落水は元の場所へと戻る。

 大きく息を吸って疲労を回復したあと、異形たちに通達した。


「異形共。弓を持っている巫女は殺せ。だが他の巫女は殺すな」

「旅籠様からのお話では、敵対しない者のみ逃がせとのことでしたが……」

「この城にいる巫女は攻撃の術を持たぬ。同じことよ」

「承知しました」


 ひどい猫背の真っ白な亡霊がそう頷く。

 顔から常に冷気のようなものが流れている異形で、名をマガリネという。

 もちろん亡霊ではない。


 話を隣で聞いていた赤雪が首を傾げた。

 本当にそれでいいのか、と疑問を口にする。


「巫女を殺さなければ次の戦に障るかもよ?」

「分かっておらんな」

「なんで? 人間は優秀な巫女を引き抜くんでしょ?」

「巫女を残せばどうなると思う」


 落水の問いに、腕を組んで思案する。


「……次の戦で巫女が多く参戦し、こちらの不利になる」

「それもある。だがその前に人間は一つ問題を抱えるのだ。この城の者を皆殺しにしない事による障壁がな」

「……兵糧ね」

「然り」


 異形たちは不落城を直接内部からかき乱した。

 これにより戦う力を持たない人間たちは混乱に陥り、逃亡を図る。

 恐らくこのままいけば不落城は無事に陥落させられることができるはずだ。

 この二の丸に三の丸から増援が来ないことがその証拠。


 不落城から脱し、人間はどこへ行くのか。

 ここから一番近い安全な場所は、小さな集落が点々としているだけ。

 多くの難民が逃亡すれば、その分兵糧の諸費は激しくなるだろう。

 奇襲によって人間は兵糧をかき集める時間はない。

 必要最低限の物を持って逃げるしかないはずだ。


 次の戦までに、一体どれくらいの人間が生き残るのか。

 人間は妖怪への唯一の対抗手段である巫女を優遇し、兵糧を多く渡すだろう。

 そうなるように、巫女は殺してはいけないのだ。


「性格悪~」

「戦だぞ?」

「はは、それもそうね!」

「ではここは任せる。このまま二の丸御殿を破壊し、本丸へと乗り込め」

「落水は?」

搦手(からめて)門から抜け道に向かう。城主はどうせそこだろうしな」


 落水は不落城の多くを知っている。

 人間だった時代からこの城が妖怪に落とされたという話は聞いていないし、恐らく抜け道も変わってはいないだろう。

 では、あの場所へ向かえばいいはずだ。


 あとのことを赤雪に任せ、落水は走って行ってしまう。

 それに気づいたマガリネだけがその後を追いかけた。


 勝手に走って行った二人に溜息を吐き、赤雪は薙刀の石突きを地面につける。

 とりあえず任された仕事はしなければならない。

 己はまだ信用がないのだし、ここらで異端村異形衆の信頼くらいは得なければ。


「よし! 皆ぁー! 落水から言伝~! まずは二の丸御殿を破壊! 次に本丸! あっち行くよ~!」

『『『『ロウッ!』』』』


 息のあった掛け声を聞き、とりあえず指示を聞いてくれることに安堵した。

 赤雪はすぐさま二の丸御殿へと向かう。

 その背後を異形たちが付いていく。


 異端村異形衆第二軍が出現した場所は、城郭の広間だった。

 そこから階段を幾らか上り、門をくぐっていけば二の丸御殿へと到着できる。

 すると人間たちが荷車を持ち出して逃走の準備をしているのが分かった。

 彼奴等、戦わずして逃げる算段しか考えていないらしい。


 赤雪は腹の内に黒い炎が燃え上がる。

 これだ……またこれだ。

 人間も、鬼も、己が危うくなれば我が身可愛さにこうして逃げる。


 薙刀を回して振るい、炎を宿す。

 二度、三度と左右で薙刀を回せば、さらに炎の勢いが増した。


「炎獄の型……独楽割」


 回転させて勢いのまま石突きを握り、大上段から叩き付けるように薙刀を振るう。

 地面に刃が直撃した瞬間、爆破するような轟音と共に炎が前方へと走り、屋敷の一部を木っ端微塵にした。

 人間が準備していた荷車も完全に破壊されてしまい、近くで作業をしていた者たちも焦げで倒れる。

 かろうじて被害をま逃れた者もいたが、付着した炎によって次第に火だるまになっていく。

 屋敷の中で倒れたものだから、それが火元となって屋敷は更に炎上していく。


「……殺せ」


 この破壊力に激励を貰った異形たちは、すぐさま駆け出して人間を殺しまわっていく。

 もちろん敵対の意思を見せた者のみだ。

 だが赤雪だけはそれに関係なく、人間を殺していった。


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