10.5.仕留めておきたい相手
傀儡城を異傀儡衆に任せ、私たちは十山城に戻っていた。
馴染みのある風景に安堵しつつ、一夜を過ごして疲れを癒す。
ワタマリのベッドから起きて早々に、蛇髪から提案があるようで声をかけられた。
「雪女?」
「ええ。これから冬になりますじゃろ? 寒くなると、雪女の力は増しますのでな……。それまでに仕留めておきたいのですじゃ」
「なるほど……」
そういえば、二口衆が渡り者を献上していたうちの一体だったか。
女郎蜘蛛は無形が倒したし、濡れ女は五昇が倒してくれたと聞いた。
最後の一体である雪女については何も聞いていなかったので、まだ生きているのだろうとは思っていたが……。
女郎蜘蛛と濡れ女が倒され、力が増すまで隠れているつもりなのかもしれない。
そうなると厄介かもしれないがこちらには五昇がいる。
隠れたとしてもすぐに見つけることができるだろ。
「ま、探すことは容易だけど……。どこにいるの?」
「ここより北の山の頂に……」
「登山しないとかぁ」
旅籠は体を縁側から乗り出して山を見る。
背の高い山では山頂に雪が積もっており、冬の到来を感じさせた。
不落城を攻めるのは一ヵ月後。
その時には雪が里でも降り積もっているかもしれない。
戦いに向かう時に、背後から雪女やほかの妖怪に襲われるのは勘弁だ。
この一ヵ月の間に背後の敵を何とかしておきたい。
他にも危険分子はいるはずなので、それも蛇髪に確認をしておく。
まず最も近い敵は雪女。
そして雪ん子という子供が傍に引っ付いているらしい。
この雪ん子が厄介らしく、なんでも持ち物を重くする力があるのだとか。
抱くと次第に重くなる妖怪だったはずだが……。
無条件に物を重くする力があるのだろうか。
だとすれば時間をかけるほど不利な状況になる。
おまけに傍に雪女もいるのだから、強引に突破するというのは難しいかもしれない。
「あと、以津真伝」
「以津真伝!!!?」
ちょっと待って、以津真伝って怪鳥だっけ……!?
いつまで、いつまでって鳴く鳥で、死者を放置するとそいつが飛んできてそう鳴くんだっけか……?
放置された死体の霊が以津真伝になるってのも聞いたことあるな……。
この世界の以津真伝がどのような奴かは分からないが、少なくともくそでか鳥類であることは間違いなさそうだ。
顔は人間、口には曲がったくちばしに鋸の歯、体は蛇で両足の爪は剣ほど鋭く、翼を広げれば約五メートルほど……と私の中では記憶している。
怪鳥とはいうが、その実容姿は化け物だ。
ぬえの鳥バージョンとでも言うべきか。
「んで、どんな力を持ってるの?」
「聞くところによりますれば、悪霊を使役するとか」
「んんんん」
敵が増えるタイプか、と旅籠は難しい顔をする。
その悪霊がどれ程の力を有しているかにもよるのだが、純粋に討伐に時間がかかりそうだった。
蛇髪にその怨霊の能力を聞いてみたが知らないとのことだ。
正直、相手にするのは面倒くさい。
だが増える敵というのは厄介だ。
背後から挟撃されたらたまったものではないので、以津真伝は倒しておきたい……。
「えっと、居場所は?」
「移動するので分かりませぬ。しかし死体のある場所……ですの」
「傀儡城じゃん」
以津真伝は放置されている死体に近づいてくる。
出現方法が分かっているのであれば、なんとかなるのではないだろうか。
となればやることは決まってくる。
のっぺらぼうの亡骸を放置しておき、以津真伝がやって来るの待つ。
これは異傀儡衆に任せておいてもいいだろう。
念のために誰か置いておくことにする。
主力で雪女を仕留め、異傀儡衆に以津真伝を任せることにした。
ただ以津真伝は空を飛んでいるはずだ。
石の異傀儡たちが撃ち落としてくれればいいのだが……。
「五昇は必要か……。よし、五昇を異傀儡城に置いて以津真伝討伐の指揮を任せよう。その代わりこっちには土の異傀儡を借りて索敵を。ワタマリも連れていこうか」
「では、そのように」
ゆらりと一礼をすると、蛇髪はその場をあとにして決まったことを共有しに向かった。
側にいたワタマリを一匹捕まえて膝に乗せ、こねこねと撫でくり回す。
異傀儡衆が数を揃える前に、二体の妖怪は倒しておかなければならない。
以津真伝の動き次第によっては同時に攻略する必要がありそうだ。
私はどちらで指揮を取ろうかと考えたが、やはり異傀儡衆の方にいるのがいいだろう。
雪女を任せるのは屈強な異形ばかりだ。
であれば、こちらに身を置いて指揮を取った方がいい。
異傀儡たちの戦い方も見れるし、なにより以津真伝の能力はあまりよく分かっていないのだ。
臨機応変に行動させることが今回は必要がそうである。
「うっし! そんじゃーまずは向こうに移動しますか! 月芽~。つーきーめ~」
ワタマリを抱えながら月芽を呼ぶが、そこでワタマリが音を食べていることに気づく。
これでは声が届かないので、口を押さえてからもう一度月芽を呼びながら探しに向かったのだった。