10.3.傀儡城
異形たちの弔いも終わり、褒美もすべての異形たちが受け取った。
これからはしばらくの休息。
だが私たちは次に何をするの考えなければならなかった。
山城にあった御殿で家臣団が集結する。
名前を与えた異形たちがこれに当たるのだが、その数はだんだんと増えてきていた。
今回は新たに国岩と異傀儡衆筆頭の壱成が参加している。
だが口を利けない異形はこの場におらず、外で待機してもらっている。
すると月芽がぱちんと手を鳴らした。
「では、このお城……どうしましょう?」
「いやちょっと考えてることがあってね……。衣服は生産できるようにしておきたいんだよ」
「衣服ですか」
私のこの提案には意外にも蛇髪が同意する。
この意味が分からない他の異形は首を傾げるばかりだ。
「どうしてでさ?」
「衣服を貰えるのは、ある程度人の姿に近い異形だけだろ? 皆に合わせた衣服は作れるようにしておいた方が、褒美も与えやすいし……替えもないと不便でしょ」
「更に言うなら、鎧が欲しいですの。これらもこちらで生産することができれば、死傷者は大きく減りますのぉ」
「確かに」
真意を理解した彼らは納得こそするものの、難しい表情をした。
この反応は予想通りである。
考えは理解できても、衣服を作ることができる知識がないのだ。
今後必ず解決していかなければならない課題ではあるので、今から考えていても遅くはないと思う。
異形は様々な姿をしているのだ。
必ず特注の衣服、鎧が必要となり、これらは戦いの中で生存率を上げる非常に重要な要素。
自分の姿を変形させられる木夢や、霧散する無形のような異形には不要だろうが、五昇や蛇髪、黒細や空蜘蛛兄弟にはあったほうがいい。
「ですが数が足りないという話だったのでは?」
「いい質問だね、楽。異傀儡衆にこの城を任せようと思ってるんだ」
「なんと!」
これに反応したのはもちろん異傀儡衆筆頭の壱成だ。
数を増やせるのであれば、この城を任せることができる。
流石に新参者である彼らには荷が重すぎる話かもしれないが、旅籠としてはどうしても彼らに任せたかった。
「異傀儡って分身じゃないよね」
「え、ええ……。母体から生まれ、一つの自我を持って己の足で立ちまする」
「先祖が貰った名前を継承し続ける力と記憶力があるんだ。君たちならいろんな技術を学び、吸収して継承し、次に繋げることができると思うんだけど、どうかな?」
おそらく、あの名前は本当に継承し続けたものだ。
そうでなければあそこまで姿の変化はなかっただろう。
それに、姿も人に近いし、指先も細く、木の異傀儡に関しては体のつくりから繊細なので適任だ思うのだ。
加えて異傀儡を生む母体の住処は欲しかった。
それを守るのも彼らの仕事になると思うので、全てを彼らに任せられるようにしておきたいのだ。
壱成はしばらく悩んだが、すぐさま両手の拳を床につけて頭を下げる。
「その任。謹んでお受けいたしまする!」
「城下町は燃えていないから、多分道具は残ってると思う。それを見ながらやってくれると嬉しいな」
「はっ! 主戦力の増強及び、武具衣服などの生産に尽力いたします!」
「この城の名前は傀儡城にしようか。わかりやすいしね」
「いいと思いますよ!」
月芽が肯定したのに続き、他の異形たちも頷いて肯定してくれた。
ではこの城は今から傀儡城と呼ぶことにする。
さて、褒美をもらったことで異形たちがさらに力を付けた。
名を与えた不動衆と異傀儡衆によって戦力と戦術の幅が大きく広がり、できることが増えたような気がする。
そろそろあの不落城を落としに向かってもいい頃合いだ。
しかし、肝心の戦力は未だに不足している。
旅籠は壱成に聞いてみた。
「壱成。兵士を一人作るのにどれだけ時間がかかるの?」
「母体となる異傀儡は、あの丸い姿をした異傀儡になりまする。兵士と母体を生みだす力を有しており、母体一体につき、一日一体を生み出すことができまする。生み出した子は二日あれば戦力となりまする」
「母体の数は?」
「先の名づけにより数が減り、今は属性別に十二程度……」
「六種類だから、全部で七十二か」
確かに少ない。
一日に七十二体しか兵士が増えない、となると効率が悪い。
まずは母体を増やしてもらった方がいいだろう。
壱成もその方針で進めたかったらしく、この場で許可を取ろうとしていたらしい。
考えが同じだったので、これを報告して指示を飛ばしに行くため、壱成はこの場を後にした。
「……あの草の異傀儡。案山子夜の配下に良さそうですのぉ……」
「え? あー、まぁ確かにちょっと似てるかも。そういえば案山子夜と別れて随分経つなぁ……。向こう、大丈夫かな」
「私が見に行った時は元気そうでしたよ。異形鬼も居ましたが」
「ああ、そういえばいるんだっけ。変なの」
「はい。変なのが」
一応五昇からその話は聞いている。
まだあったことはないのでわからないが、五昇いわくあまりいい印象を受けなかったとのことだ。
出会って早々喧嘩をしそうになったと言っていたし、相性が悪いのかもしれない。
そんなのと一緒にいる落水と案山子夜は大丈夫なのだろうか、と少し心配になった。
「あっちにも味方を送ったほうがいいかな?」
「ワタマリを送ったので一応問題はないかと。不要な戦いはしないでしょうし」
「月芽、この後様子を見てきてもらっていい?」
「承知いたしました」
定期的に連絡は取っておいた方がいいだろう。
とりあえずこれは月芽に任せるとして……。
……戦力は増えたが、異傀儡衆の数が増えるまでは待機になりそうだ。
まずは母体の量産を急ぐことになるので、戦力となる兵士の増強はもう少し先になるだろう。
となると不落城を攻め落としに行くのも、もう少し後になりそうだ。
すべては異傀儡衆の増え方次第といったところだろう。
「よし! んじゃ一旦十山城に戻ろうか」
「異傀儡衆だけでは、まだこの城を維持できないでしょう。誰か残しておいた方がいいと思いますが……」
「あーそうだね。んー、じゃあから蜘蛛兄弟。任せていいかな?」
「「お任せくだされー!」」
二匹はスタターっと移動して姿を消してしまった。
流石蜘蛛。
動きが早い。
すると継ぎ接ぎが足元に開く。
月芽が十山城へ繋げてくれたらしいので、私たちは全員そこに入ったのだった。