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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十章 攻略準備
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10.2.異傀儡衆の力


 そこにいたのは数名の異傀儡衆だ。

 全員で六名いるのだが、それぞれが違う種類の材料で肉体を構築していた。


 植物、雪、木、水、石、土。

 丸っこい体の中にあるコアは、それぞれの属性によって色が異なるらしい。

 これは敵に弱点がどこか発見されないようにするためのものだとか。

 なので植物であれば緑色、雪であれば白色、木であれば濃い茶色……といった風に同化している。

 とはいえよく見ればどこにコアがあるのかわかる程度の同化具合だ。


 さて、彼らもこの城を落とすのに大変貢献してくれた。

 シュコンが言っていたことも気になるし、とりあえず一人に名前を与えることにする。

 と、いうより異傀儡衆っていう総称があるから……漢字を宛がうのができないんだよね。

 名前しか与えられないけど、まぁいいだろう。


 旅籠は植物で体を構築している異傀儡を指さす。

 大きな陣羽織を頭にかぶっている姿はなんだか可愛らしかった。

 黒細の話では彼が最も敵の首を取っていたらしい。

 なんなら異傀儡衆の指揮も行っていたらしく、その動きには目を見張るものがあったのだとか。


「じゃあ君。六人の代表……。うーん。…………壱成(いちなり)

「ズゾゾゾ……」

「おお!?」


 名前を与えた瞬間、姿が変化した。

 既に体を構築していた植物が一気に成長し、草の仮面が作り出される。

 それは目にしか穴が開いておらず、口元を見ることはできない。

 成長したおかげでコアが完全に体の中に隠れてしまった。


 体は百四十センチほどに大きくなり、人間の子供と同程度となった。

 植物の髪に植物の腕。

 衣服は先ほど褒美として回収した陣羽織を着ており、それは少し大きくて地面を引きずっていた。

 体の隙間から植物が顔を出しているが、それを気にすることなく旅籠の前に跪く。


「異傀儡衆筆頭、草傀儡。御身より名を賜り、壱成と名を改めまする」

(あっ。種族名あったんだ)


 壱成が手に草で槍を作り上げ、ズンと地面に突き刺した。

 すると遠くの方で待機していた草の異傀儡たちに変化が訪れる。

 ザザッ……と草が成長し、壱成に近い姿となった。

 だが草の異傀儡が全員そうなったわけではなく、ある一定数の草の異傀儡が成長したといったところだ。


「おお!?」

「我ら異傀儡衆。大きく分けで二つございます。一つは私のような武に長けた異傀儡。もう一つは、それらを生み出す異傀儡にございます。丸い異傀儡がそれに当たりまする」

「……あ! シュコンが言ってたのってそいうことかぁ!」


 異傀儡衆は異形の戦力の要。

 数を無限に増やすことができる異形だ。

 確かにこれであれば戦力を増やすことができる。

 戦力の要であることは間違いなかった。


 すると壱成が再び頭を下げる。

 片腕を伸ばして集まっていた残り五体の異傀儡を指す。


「我ら異傀儡衆。先祖が人間に仕えていたために、代々名を継承してきました。私、壱成は初めて名を賜りますが、この名の力は他の者にも与えられまする」

「え?」


 途端に五体の異傀儡の肉体に変化が起きる。

 雪、石、土の異傀儡はボコボコと肉体を肥大化させて姿を作り、木、水の異傀儡は地面から何かを吸い上げるようにして徐々に身長を伸ばしていく。

 壱成と似たような身長になった彼らは、属性を全面的に出した姿をしていた。

 壱成は彼らを一人一人紹介してくれる。


 雪の異傀儡、氷進(ひょうしん)

 雪で作られた仮面をしており、綺麗な着流しの衣装を身に纏っている。

 だがその実戦い方は奇襲を得意としているらしく、滑るように移動して素早い制圧などを担うことができるらしい。

 ほかの雪の異傀儡と違い、氷進は頭に髪飾りを付けている。


 木の異傀儡、陰影(かげかげ)

 木樹とは異なり、根ではなく木材で体を構築している。

 その姿は精巧なからくり人形であり、ところどころで急に成長した枝が伸びて葉を付けていた。

 若干案山子夜に似ているだろうか?

 木の仮面と忍び装束から見るに、隠密を得意としているということが分かる。

 壱成も陰影のことを隠密部隊の隊長だと教えてくれた。


 水の異傀儡、壁持(かべもち)

 腰にしめ縄を巻いているのだが、体が水なのでびしょびしょになっていた。

 綺麗な水の仮面をしているのだが、水なので透明だ。

 素顔とコアがよく目立つ。

 だが水の異傀儡は水の壁を作ることができるらしく、防御面では輝くだろうと壱成が教えてくれた。


 石の異傀儡、遠石(えんせき)

 削って何とかこしらえた石の仮面をつけており、大小さまざまな石が集まった姿をしている。

 そのためコアが一切わからない。

 ほかの石の異傀儡も似たような姿だが、遠石だけは襟巻をしているのでわかりやすい。

 彼らは投擲を最も得意としているらしく、その命中率は高いとのこと。

 どれだけの距離を投げられるかで運用方法が変わりそうだ。


 土の異傀儡、土丹(どたん)

 土塊ではあるが意外と人間の姿を保っており、綺麗な泥団子のように艶もある。

 数珠を首に巻いているのが土丹の特徴だ。

 彼らは探知を得意としているらしく、五昇ほどではないが地面のわずかな振動を読み取って敵の位置を教えてくれるとのこと。

 おまけに再生能力が高いので、異傀儡の中で最もしぶといらしい。


 全員の紹介が終わる前に、後方の方ではそれぞれの属性の異傀儡が成長を遂げていた。

 この六名が全員をまとめてくれる筆頭となるらしい。


 異傀儡衆筆頭、植物の壱成。

 異傀儡奇襲頭、雪の氷進。

 異傀儡隠密頭、木の陰影。

 異傀儡防壁頭、水の壁持。

 異傀儡投擲頭、石の遠石。

 異傀儡索敵頭、土の土丹。


 なかなか格好のいい衆になった。

 だが一人に名前を与えただけで、他全員が影響を受けるとは思わなかった。


 もしかしてこの子たち……個じゃなくて集か。

 そうか、ヤガニ衆も個じゃなくて集ではあるのか。

 てかやべぇ!!

 なんかすごいことなってもうた!!!!


「月芽ーーーー! つーーきーーめーー!!」

「はっ、はいはい! どど、どうされました旅籠様!」

「やったかもしらん!!」

「え? うわぁ……」


 異傀儡衆の目覚ましい成長を見て、月芽は初めて引いた顔をした。

 やめてくれ。

 ごめんて。


「旅籠様……? 名を何名に……?」

「一人だけ……」

「正直に……」

「嘘じゃないって!! 嘘じゃないのよ!! だよね黒細!」

「ま、ま、まぁ……そうでさね……」


 隣ですべてを見ていた黒細だったが、驚きすぎて言葉を失っていたらしい。

 声を掛ければハッとしてようやく反応をしてくれた。


 疑っていた月芽だったが、壱成に説明されて納得をしたようだ。

 彼らは過去に、先祖が賜っていた名がある。

 それを継承し続け、旅籠が褒美や名を与えてくれたからこそ、昔の力を取り戻したのだと教えてくれた。


「異傀儡衆筆頭の名の下に、嘘偽りはないと誓いましょう」

「そこまで言うなら、信じましょう。前例のないことでしたので驚いただけです。旅籠様。疑って申し訳ありません」

「ま、まぁ~……紛らわしい私も悪かったしな……。いや、うん。こうなるって予想はできなかった……」


 とりあえず話がまとまったところで、物資を回収し続けている異形たちに視線を向ける。

 ほかの名のある異形たちも彼らと共に作業を行っており、好きな物を身に纏ったりして楽し気にしていた。

 その一方で無形だけがのっぺらぼう衆の遺体の片付けと、仲間の遺体を埋める穴を掘っていた。

 数ある腕を使っててきぱきと作業をこなしている。


(無形は他の異形たちとは考えが違うのかもな)


 私は無形の下へと急ぐ。

 その道中で立てかけてあった鋤を握って肩に担いた。


「旅籠様?」


 月芽と黒細が顔を合わせて追いかけてくる。

 無形の下へと辿り着いた私は、一緒になって穴を掘り始めた。


「!」

「大事なことだもんな。皆でやろう」

「旅籠様……! 私も手伝います」

「ありがとう月芽。あ、黒細は蛇髪呼んできて。弔ってもらおう」

「了解したでさ」


 やることはまだ多い。

 だが、今やるべき事がある。

 誰にも言われず、それを一番わかっていなければならないのは自分であるべきだった……。


 上に立つ難しさというのを再確認しながら、戦いで命を落とした異形たちを弔った。


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