10.1.褒美
第十章です
全18話構成となります
異形たちがどんどん準備を進めていくようだ
いつの間にか不気味な空は綺麗な夜空へと姿を戻していた。
今日は天の川がよく見える。
周囲が暗いということもあって、上を見上げれば遠くの星々が空を淡く照らしてくれているようだ。
今日は新月らしく月が見えない。
このまま森の中を歩くのは相当危ないので、木夢の背に乗ってゆっくりと山城の方へと降りていた。
異形たちは残党狩りを行っているらしく、隠れているのっぺらぼう衆を引きずり出しては仕留めていた。
捕虜にする予定など一ミリもない。
隠れられ、どこかで誰かが傷つけられるのは嫌なので、徹底的にこの山城から排除する方針で異形たちに指示を飛ばした。
この城は様々な施設があるので大量の褒美を異形たちに与えることができる。
手始めに、この戦いに参加した異形たちには、この城にある好きなものを褒美として与えることにした。
それぞれの姿に見合った衣服や武器などを、各々が見繕っていく。
ついでに残党狩りも行っているので、今日中には完全に異形の支配下に置かれることになるだろう。
さて、平将門なのだが……。
仲間に入れるかどうかは“保留”という形を取っている。
本人曰く肉体がないと戦闘はもちろん、妖術も扱えないらしいので今は完全に無害とのことだ。
彼の管理は無形に任せている。
不要な時は靄の中に仕舞ってしまうらしい。
平将門はめちゃくちゃ嫌がっていたが、我慢してもらおう。
「さぁ~~て! この城どうしよっかな!」
「でもあっしらにこの城まで管理できる力はないでさよ?」
「そ~なんだよね~」
そこでシュコンが言っていたことを思い出す。
黒細には人間の城を与えなければならない。
つまりあの不落城を褒美として与える必要があるので、この山城では意味がないだろう。
それに黒細の言う通り、ここを管理できるだけの力は今の異形たちにはない。
正直放置でいいかな、とは思っている。
未だにヤガニ衆からの連絡も来ないし、追加で異形を発見するのは難しそうだ。
となればここにあるものを可能な限り十山城へ持っていくのがいいかもしれない。
だが待てよ……?
将来的に何かしら生産の知識も付けておいた方がいいのだろうか?
今は戦っているだけでいいけど、今後戦いが落ち着いてきたら生活のためにいろいろ工面しなければならないことも多いはず……。
となれば、十山城からこっちの城に乗り移るべきかな?
いや流石に無理だな。
不落城を落とすっていう目標もあるわけだし、生産とかの知識はそっちでゆっくりできる。
それにそんなのに回してる戦力もないしね。
平将門レベルの敵が攻めてこられたら守れないだろうし……。
……そうなんだよ。
平将門一人に対し、こっちはメイン三人、後衛三人で事に当たった。
それであの様なんだよなぁ……。
異形たちはまだまだ弱いってことを再認識させられた戦いだった。
妖怪にも勝てる力が必要なんだ。
「てことで、名づけを行います」
名前を与える予定の異形たちをかき集めてもらった。
まずは……布房。
平将門との戦いで最後のとどめを刺し、ズタボロになりながらも戦ってくれた。
漢字を宛がっていたが、無口三強の中で唯一名前を与えていなかったので、この機会に名を与えることにする。
どんな変化が訪れるか楽しみにしながら、考えていた名前を口にした。
「布房改め……。布伝」
名を聞いた布伝は、深々と頭を下げた。
それからゆっくりと顔を上げるのだが、その間に変化が起きる。
大きなローブが作り出し、それを目深にかぶった。
相変わらず顔だけは空洞になっているがローブで完全に見えなくなる。
ローブのある大きめの和服を羽織り、それには雑巾のように絞られた腕が通っていた。
腰には旅籠から賜った直刀が一振りだけ帯刀されており、まるで布で作られた武士のような出で立ちとなって顕現する。
人間の姿に近しくなった彼は満足げに胸を張った。
「おお、かっこよくなったね!」
「(素早く会釈する)」
「もう刀はいらないの?」
「(頷く)」
「そっか」
八本から一本に。
ずいぶん手数が減りそうだけど、あの戦いを見てたらこれでも大丈夫だと謎の自信が湧いてくる。
これからも頼むぞ、と腕を軽く叩き、次の名付けへと移行する。
そこにいるのはクニイワだ。
黒細からその活躍ぶりをしっかり聞いている。
先陣を切って敵の攻撃を岩の異形たちで受け止めたらしい。
自分たちの力をしっかりと理解し、これを組み込んで作戦を立てて実行に移し、それらの指揮を全て担ってくれたのだから、褒美を与えるのは当然だ。
「国岩。これからも岩の異形たちを任せるよ」
「御意ニ」
「お、ちょっと聞き取りやすくなった」
ガゴッと音を立てて変化が始まる。
デコボコした姿が削り取られて滑らかになり、間接部位も可動域が広くなったらしい。
錐三角形だった顔はトカゲに近い姿となったが、鼻先は鋭いままだ。
これがなかなかカッコいい。
鱗も表現されているらしく、まるで石の彫刻のようだった。
鋭くなった尻尾を軽く振って調子を確かめる。
自身の成長を噛み締めるようにして目を閉じた。
「旅籠様」
「ん?」
「岩ノ異形ニ、異傀儡衆ノヨウナ、総称ヲ頂キタク……」
「ああ~! いいね!」
旅籠は腕を組んで考える。
総称なので個人への褒美にはならないだろうし、若干影響があったとしても彼らの働きをもってすればこれくらいは妥当だろう。
何がいいかな、としばらく考え込んでいると、パッと名前が浮かんできた。
「不動衆とか」
「! アリガタク……!」
岩は動かないものだ。
ということで不動という言葉を使って、それを総称にする。
国岩も気に入ってくれたようなので、これで統一することにした。
これを伝えに行くため、国岩は仲間たちの下へと戻っていく。
それを見送ったあと、隣にいた異傀儡衆に視線を向けた。
「次は君たちだね」
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