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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第九章 怨念の乱
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9.13.怨念の乱③


 紫色の炎を纏った平将門。

 怨念を宿した亡霊として顕現した彼は、近くにいるだけでその影響を及ぼしてくる。

 空気がどっしりと重くなり、心なしか足が重い。

 それに加え……異術の発動が鈍くなった。


 これに最初に気づいたのは蛇髪だ。

 防御のために張っていた結界が歪み、気を抜けば崩れてしまいそうだった。

 五昇も気づいたようで、自分が造った矢を見てみると、矢尻が動いていない。

 これでは……矢が泳がない。


「これは……」

『これが平将門の真の妖術よ。得手の押し付け……。今の彼奴に異術はもちろん、妖術も効かん。彼奴と対等に語れるのは武芸のみ』


 すと……と地面に着地する。

 気配が次第に膨張しており、それは周囲の色合いを変えてしまうほどの力があった。

 気づけば空は赤紫色に染まっている。


 足元から浮かび上がって消えていく負の文字の色が変わっていく。

 黒から赤に、赤から暗い緑に、そして再び黒となる。

 平将門が地面に足を付けたと同時に、それらは真っ赤になって狂気を孕んだ。


 怨念の化身。

 音が鳴るほどに日本刀を握りしめると、静かに八双の構えを取った。

 濃いオーラがぶつかってくるが、踏ん張ってそれに耐える。

 明らかに強化されてしまった格上に、異形たちは冷や汗を流した。


 戦わなければならない状況ではあるが、今の陣形には前衛が木夢だけだ。

 遠距離、異術を拒否しているため有効なのは接近戦だけである。

 その場合ここにいる多くの異形は無力であった。


『では、あとは任せる』

「えっ?」


 旅籠の体が跳ねる。

 すると目の色は元に戻り、いつもの旅籠が戻ってきた。


「旅籠様!」

「……皆に任せることしかできない私を許してね。……布房ぁ!!!!」


 旅籠が叫ぶ。

 それに応えるように、吹き飛ばされた布房がボロボロになりながらも戻ってきた。

 すばやく移動して木夢の横に立つ。

 やはりまだ生きていたことに安堵しつつ、旅籠は自分が腰に携えている直刀を放り投げる。


 布房はそれをしっかりと手に取った。

 驚いているようでこちらに体を向けているが、日本刀が全て折れてしまったのにこれからどうやって戦うというのか。

 旅籠は剣術をうまく扱うことはできない。

 であれば、予備の武器として布房に与えるのが最も良い選択だと考えた。


「無形!!!!」


 名を呼ばれて立ち上がる。

 足を引きずるような動きでこちらに近づき、布房と同じように木夢の横に立つ。

 未だに腹部に激痛が走っているのか、四本のうち一本は腹を抑えていた。


 衣服の装飾品として飾り付けていた数珠を引きちぎる。

 それをぽーんと無形に放り投げて渡すと、真ん丸の目をこちらに向けてきょとんとしていた。


「布房。それを使え。無形。お前の名前は無を形にするんだ。そんな単純な技しか持ってないわけじゃないよね?」

「「!」」

「それと木夢。本気出していいよ」

「カコココココ!」


 三人の様子が変わった。

 それに気づいた旅籠はすぐさま蛇髪に指示を飛ばす。


「蛇髪! 私たちの前に結界を作って! 防壁必須!」

「御意に……」


 右手に緑と水色が混じった色の炎を宿し、二つ印を組んで結界を作り出す。

 淡く光る白い結界だ。

 それはゆっくりと時計回りに回転していた。


 結界越しに、三人を見る。

 布房は一振りの日本刀を振るためだけに体を構築しなおしていた。

 布を幾つもだらりとたれ下げて、手数重視の肉体とは一変。

 余分な布を全て仕舞込み、雑巾をきつく絞った姿に腕や体を変形させた。

 両腕は筋線維のように絞られており、旅籠から賜った直刀をしっかりと握りこむ。


 無形は体を霧散させた。

 無いものを形にする彼の名前は、姿を消すことで実現できると考えたのかもしれない。

 形があるから、怪我をする。

 なければどうだ?

 考えるまでもない。


 木夢は旅籠にストッパーを解除されたらしく、歯をガチガチと鳴らして笑うようにガラゴロと音を立てた。

 主は分かってくれていた、と心底嬉しそうに軽く飛ぶ。

 それだけでは何ともないのではあるが、やる気を表現するために少しだけ地面をひっかけば、その後ろで爆風と砂煙が舞い上がる。

 旅籠が蛇髪に結界を張るように頼んだのはこのためだ。


『……なんだと?』


 脅威度が変わった。

 そう平将門は感じ取る。

 取るに足らない力だった布房は、彼でも警戒しなければならないほどの力強さがあった。

 姿は消えたのに未だにそこにいる無形は、周囲に展開している靄で何かをしており、それに鋭い殺意を感じる。

 元気に跳ね回る木夢は、ようやく本気を出せる、とこちらに狙いを定めていた。


 あの人間はなんだ?

 たったあれだけのことで、異形たちをここまで強くしてしまうのか?


 平将門が驚愕しながら旅籠を見やれば、彼はこちらに指をさしている。


「おい平将門!」

『……』

「お前が怨念の化身であることはよーく分かった! だけどなぁ! 妖怪が異形にした仕打ちは! お前が抱える恨み怨念よりもどす黒いぞ!!」

「「「……ああ、そうでした」」」


 言われて気付く。

 月芽、五昇、蛇髪は口を揃えてそう呟いた。

 黒塗りにしてしまうほどの凶悪な影を落とした三人も、何か別の力が目覚めようとしていることを平将門は感知する。


 仕留めなければ。

 この場で、なんとかして、仕留めなければ……。

 己が、恐怖する前に!!


『かかってこい異形共!!!!』


 乱暴に振りぬいた日本刀が、剣圧だけで大木を両断した。


「覚悟しろ!! 平将門!!!!」


 この言葉が、合図だった。

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