1.13.自信復活作戦会議
さすがに全員を家の中に入れると、いよいよ床が抜けそうなので外に集まってもらうことにした。
集まってくれたのは二十七名の異形たち。
彼ら全員が、あの場で真っ先に立ち上がった者たちである。
勢いで呼んでしまったが、やばいことをしようとしている自覚はある。
普通の人間、ましてや異形たちにとってはまったくの部外者である自分が、この輪の中央に立っていていいのかという疑問はあった。
しかし、旅籠は彼らがあのままの姿でいることが我慢できなかったのだ。
ダンッと地面を蹴り、注目させる。
こんなリーダー的な立ち位置は柄ではないが、未だに胸の内にある怒りがそれを可能にしていた。
「妖……。あいつらが前に立ちはだかる限り、私もこの世界から脱出できないと分かった。皆も妖がいる限り、この境遇から脱することはできないと思う」
「旅籠様」
ツギメがすすっ……と近づいて来た。
最初の内はおずおずとしていたが、すぐに切り替えてぴしっと背を伸ばす。
「戦うおつもりなのですね?」
ツギメの言葉を聞いて、驚く者はいなかった。
ここに居る者たちが、同じ志を持って集まってくれたのだ。
何を今更怖がる必要があるのか。
彼らは旅籠から明確な意思を聞きたいらしく、次の言葉を今か今かと待っている。
私は大きく頷き『そうだ』と答えた。
それしか、ない。
恐らくここに来た渡り者全員が、異形たちと協力して戦うという選択肢は取ったことがなかったはずだ。
だからこそ、ツギメも何か期待しているのかもしれない。
帰る方法がないのであれば、作ればいい。
その方法が戦うという手段になっただけだ。
己で切り開かなければ、その道は生まれない。
この選択が正解かどうかは誰も答えてはくれないだろうが、その意志に応えてくれる者たちは旅籠が思うより多かった。
皆、各々思うことがあったのだ。
「柄じゃないし、私もまともに戦えはしないけど……。それしかない気がする。とりあえず聞くけど、私以外の渡り者が戦いを選んだことってある?」
「いいえ、御座いません」
「じゃあ、これが成功したら私も帰れるかもしれないし、皆も変われるかもしれないってことだ」
全員が一斉に頷く。
これは旅籠の為であり、異形の為になる大きな一歩になるだろう。
だが、人数は正直言って少ない。
二十七名だけで人間より強いとされている妖を倒すにはどうすればいいか。
それを考えなければならない。
そして異形は自信というものを失っている。
これを復活させ、更に立ち上がることができる異形を増やすにはどうすればいいのか。
難しいが、策がないわけではない。
妖が人間を食うのであれば、やりようは色々ある。
とはいえそれが成功するかどうかを見極めるには、やはり正確な情報が必要だった。
「旅籠様」
「なんだい?」
「少し、お話を聞いてください」
「うん」
改まってなんだろう、と小首を傾げていると、ツギメは手の平を見せてきた。
そこには継ぎ接ぎが幾つかある。
痛々しいが、やけに綺麗な手である。
「人間は剣術、槍術といった武器を使う術に長けており、鬼はとんでもなく力持ちです」
「……? うん」
「一方力のある妖は妖術なるものを駆使して戦います。炎や水、雷といった物が多いですね。他にも毒や煙など様々です」
これはこの世界の一般知識なのだろう。
そう思って聞いていると、ツギメがこちらに向けている手の平に目玉が出現した。
「うぉお!?」
「……私たちも、何かしらの異能を持っております」
「まじで!? そういうの早く言ってよ!」
「ですが戦闘には特化しておりません。私、ツギメの異能は体の継ぎ接ぎに自らの目を移動させるというもの……」
ツギメの手の平に現れた目玉が、継ぎ接ぎを経由していろんなところに顔を出す。
確かに戦闘には適さない異能だ。
そうか、この世界にも魔法的な力はあるんだ……。
人間は使えないらしいが、異形たちであれば地味だけど何かしら持っている。
例えば粘液質系の異形であれば姿を変えられる、などといったものでトカゲであれば尻尾を切り落としたり、蜘蛛に近い異形であれば糸を吐くといった異能がある。
この辺りは旅籠が知っている昆虫の特徴と同じものだ。
分かりやすくていい。
蜘蛛や木樹たちは使いやすいが、そのほかの者たちは決して戦闘向きではない。
であれば、その異能を使わない方向で二口に勝つ方法を思案する。
「うん、分かった。よし……。ツギメ、空蜘蛛。二口について詳しく教えてくれるか?」
「承知しました!」
まずは、二口の能力と“立場”を理解しておかなければならない。
他にもいろいろと聞きたいことはあるが、最初はこの辺りでいいだろう。
必要な情報以外を入れると脳内のキャパがパンクする可能性もあるので、ゆっくり覚えていくことにする。
さぁ待ってろよあのくそ神め……。
私はこいつらと一緒に、人間の地に向かって元の世界に帰ってやるからな!