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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第九章 怨念の乱
128/142

9.10.平将門


 第二陣の動きは完璧だった。

 第一陣が動き出して数分後、のっぺらぼう衆が続々と異変に気づいて動き出したところを、反対側から強襲。

 それは見事に刺さり、多くののっぺらぼうは訳が分からぬまま異形たちに殺されていった。


 木夢が大きくなって注意を引き、他の異形たちが前に出て暴れまくる。

 家屋は壊れ、大地は抉れ、多くの被害を出しながら山城へと向かっていたその時だった。


 紫色の火の玉が、木夢の目の前に来た。

 なんだこれ、と首をかしげて数秒後。

 衝撃波が生じて木夢はすっ飛ぶようにして転倒してしまった。

 幸い、これにより潰された異形はいなかったのだが、次もどうなるか分からなかったので、木夢は自分の判断で身を小さくしてしまう。


 第二陣、第三陣営は巨大化した木夢が転倒したところをしっかりと確認していた。

 あれは倒れたのではなく、何者かに倒されたのだ。


「な、なんだ!?」

「木夢!」


 第二陣の後方に待機していた第三陣営。

 木夢の異変をより正確に捉えていた私たちは目を見張る。

 小さくなっていく木夢を心配したが、動いてはいたので死んではいないだろう。


 五昇はすぐさま両手を合わせた。

 パァンッと乾いた音を立てて数秒、顔を上げて状況を報告する。


「木夢は無事です! こちらに走ってきております!」

「敵は!?」

「一名、妙な奴がおります……! 布房が近くにおり、対峙しているものかと! 蛇髪様も急行しておられます!」

「私たちも行った方がいいな! 月芽!」

「はい! 五昇、場所の指定を!」

「木夢の足元……。あの方へ一里と五町!」


 指示を聞いてすぐさま継ぎ接ぎを伸ばす。

 がばっと開いたそこに多くの者たちが入っていった。


 飛び出してみれば、木夢が五メートルほどになって継ぎ接ぎを守ってくれている。

 それと同時に凄まじい金属音が聞こえていた。

 なにごとかと周囲を確認してみれば、日本刀を八本振り回して暴れている布房がいる。

 だがその攻撃のすべてを敵は受け流し、はじき返し、さらには攻撃へと転じている男がいた。


 布房の攻撃速度を凌駕する一本の太刀。

 平安時代の佩くタイプの日本刀であり、それを扱っている人物も平安時代で戦に使われていた鎧を身にまとっていた。

 大鎧……。

 肩に垂れ下がっている大袖、頭にかぶっている兜、何枚も重ね着している濁った白色の衣服。

 重いはずの鎧を身に着けてなお、その動きは卓越しており疲れすら見せていない。


 息を整えるたび、若干発光している紫色の煙を口から吐いた。

 男の周囲には三つほどの火の玉がおり、これも若干発光しており、ゆらゆらと揺らめいている。


 ギリ、と日本刀を握ったと同時に、大きく踏み込んで布房の攻撃を全て弾き返した。

 大きくのけ反った布房はすぐさま地面を蹴って後退したところ、その場に鋭い一閃が走る。

 一瞬の静寂。

 斬られたことに気づいた空気が、振動しながら甲高い音を立てた。


「ッッ……!」

「布房! 無事か!?」

「(刀を打ち合わせる)」

「大丈夫みたいです!」


 声に気づき、男が顔を上げる。

 バッと手を伸ばしたかと思うと、周囲に浮かんでいた火の玉がこちらに飛んできた。

 すぐさま五昇と無形が前に出てそれを打ち払おうとするが、意外と小回りが利くようで、放たれた矢と地面から伸びた腕を簡単に回避する。


 攻撃を回避されたことに気づいた五昇はすぐさま撤退するのだが、どうやら追尾してくる性能すら持ち合わせているらしい。

 五昇に着弾しそうになった瞬間、それはふっ……と静かに消えてしまう。

 強い衝撃に身構えていたが、何も起きなかったので周囲を見渡す。


「……? 蛇髪様か!」

「気を付けなされ」


 ゆったりとした歩調で蛇髪はこちらに歩いてきており、片手に緑と水色が混じった炎をまとわせていた。

 手を払ってそれを消すと、祈るように手を合わせる。


 ほかの異形たちは距離を取ってこちらを見守るしかできることがなかった。

 今しがた、異次元の戦いを見せつけられたのだ。

 自分たちが飛び込んでも邪魔にしかならないということを理解している。

 そんな彼らを、月芽が動かす。


「全軍! のっぺらぼう衆の殲滅を! こちらは我々……家臣たちで何とか致します! 行きなさい!」

『『ロー!』』


 指示を聞き、異形たちは全員のっぺらぼう衆の山城へと向かって行った。

 この指示は正直有り難い。

 なぜなら、恐らく今から始まる戦いは、これまでとは比べ物にならないほど苛烈を極めるからだ。

 月芽は異形たちに役割を与え、この場から逃がしたのである。


 男はこれを追いかけることはしなかった。

 雑魚には興味がないといった様子である。


「んでぇ……? あれは何?」

「人間の姿をしているようですが……人間ではありませんね。妖怪です」

「人間の姿をした妖怪ね。心当たりが多いけど、あの大鎧は平安時代とか鎌倉時代とかの代物。その時代の妖怪ってことは……」

「平将門」


 蛇髪が答えを口にする。

 やっぱりか、と苦笑いをして将門を見た。


 なんで胴体があるんだよ。

 日本三大怨霊の一人……平将門。

 まったくとんでもないのがいたもんだな!


「蛇髪。平将門はどれくらい強いのかな?」

「普通の天狗よりも強いですな。野槌と同格じゃ」

「野槌と同格なの!!?」


 待て待て、野槌って見たら死ぬって言われてる妖怪だぞ!?

 あ、いや違うか。

 転がってくる野槌に当たったら死ぬって言われてるんだっけ。


 いやどんな速度で転がってくるんだよって話だけども。

 それ以前に見つけられただけでも病気とかにかかるんだったか。

 そんなやべぇ奴と同格ってどうなってんだ。


 いやまぁ……解釈一致とは思うけど。

 嬉しくねぇ解釈一致だな!


『……貴様が、異形の頭か』


 濁った声を出しながら、ゆらりと動いてこちらを向いた。

 まさか喋ることができるとは思っていなかったので、私はもちろん他の異形たちも驚いた様子をしている。


 平将門は、ゆっくりと脇構えを取った。


『その首、もらい受ける』


 旅籠に向かって全力で走り出す。

 その速度は目で追えないほどのものではないが、鎧を着ても尚大人が全力で走った速度を有していた。

 さすが、布房の攻撃を全て凌いだだけのことはある。


 前に布房が立ちふさがったが、それを紫色の火の玉で吹き飛ばす。

 衝撃波が軽々と布房を退場させた。


「布房!」

「お下がりください旅籠様! 無形!」

「っ!」


 ぶわっ……と黒い煙を足元に広げたと同時に、大量の腕が飛び出した。

 その隙間を縫うようにして五昇が矢を放つ。

 前方を埋め尽くさんばかりの黒い腕と、明らかな殺意を持った矢が歯を鳴らしながら接近していく。

 これに平将門は若干速度を緩めたが、すぐに煙を吐いて小さく笑った。


『これよ。(いくさ)は』


 無形が顔をしかめる。

 五昇が驚いたように顔を上げると、無形が出した腕は吹き飛ばされ、五昇が放った矢は地面にたたきつけられた。


 剣圧。

 たったこれだけで二人の攻撃を完全にいなした。

 そして無形は横に出現した紫色の火の玉に気づいたが、その時にはすでに遅かった。


 パァンッ!!!!

 鋭い衝撃により体が地面に叩きつけられる。

 無形の下半身は地面に埋まっているような状態になっているため、吹き飛ばされはしなかったものの、頭が地面に突き刺さっていた。


 続いて木夢が走り出す。

 自らを覆う木材の毛を速度重視のしなやかな根のような姿に変え、ガラゴロと音を鳴らして接近した。

 平将門は接近にこそ気づいたが、速度重視の木夢に対応することはできなかったようで、鋭いかぎ爪に変形させた木材で殴られる。


「ガラガガガガラッ!」

『……ッぐぬぅ、ハハ。名のある異形は違うな。ではこうしよう』


 平将門は自分の前に紫色の火の玉を持ってきた。

 それを見た木夢は急いで距離を取る。

 だが、その火の玉は衝撃波を放った。


「!?」

『首、もらい受ける』

「んな……!?」

「旅籠様!!」


 平将門が、旅籠の真横に来た。

 彼は攻撃するのではなく、移動するために紫色の火の玉を使用したのだ。

 木夢と無形を殴り飛ばすことができるほどの衝撃波を放つのだ。

 一瞬で移動することは、簡単だった。


 手に持つ日本刀をきつく握りしめる。

 空を切る音と同時に風圧が周囲に襲い掛かった。

 これを止めることは誰もできず、ただ旅籠が斬られるのを見ていることしかできなかった異形たちは、言葉すら発することができない。


 しかし、平将門の刀は妙な位置で止まった。


『……!?』

『我が主殿に何をしてくれる。平将門』


 旅籠は……もといシュコンは、人差し指と中指で日本刀の切っ先を挟んで止めていた。

 これに平将門は本気で驚いているようで、目を見開き、動揺を露わにする。


『貴様……! シュコン……!?』

『この無礼者が!!!!』


 シュコンの掌底が、平将門の兜を木っ端微塵にした。


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