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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第九章 怨念の乱
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9.8.作戦開始


 虫が真っ暗な森の中で歌を奏でており、それらは音を立てているというのに静かな空気を醸し出していた。

 気配に敏感な彼らは天敵が来るとすぐに息を潜めるのではあるが、今回は誰も気づくことができず、歌を奏で続けている。

 小さな足跡が地面についた。

 それは次第に増えていき、最後は大きな足跡がそれらを潰す。


 第一陣、異傀儡衆と石の異形たち。

 彼らはワタマリを肩に乗せて気配をかき消しながら突き進んでいた。

 これを見破れるものは誰もいない。

 虫ですら彼らが通過したことに気づくことができなかった。


 異傀儡衆は体が小さいので、三人で一匹のワタマリを担いで移動している。

 少しばかり成長したワタマリは音や気配を食べる量もそうだが、口にすることができる範囲も増えているらしい。

 多少離れたとしても問題なく気配を食らうことができるようだ。


 無事に目的地までたどり着いた彼らは、武器を構えて準備を整える。

 石の異形たちは自前の体を振り上げて準備運動をし、異傀儡衆は小さな武器を持ってぴょこぴょこ跳ねた。

 彼らの護衛を任せられている空蜘蛛兄弟と黒細、そしてタマエキは後ろに待機している。

 この間にもタマエキと楽は毒煙入りの風船を作り続けていた。


 戦闘準備はすぐに完了する。

 これを確認した黒細は楽に合図を出した。

 それに気づいて大きく頷いた後、大きく息を吸って思いっきり吐く。

 口から紫色の弱体化毒煙が大量に吹き出し、そこそこ広範囲に広がった。


「突撃でさぁあ!!」

『『『『ローーーー!!!!』』』』


 まず飛び出したのは異傀儡衆だ。

 彼らは体が小さいのでそれなりの機動力を有しており、その辺にある家屋の中に侵入してはすぐさまのっぺらぼうを仕留めて回った。

 出遅れた石の異形たちは更に前線へと出て目立つように動き回る。

 家屋を破壊したり、道具を破壊したりととにかく音を立てて注意を引いた。


 奇襲は完全に成功したらしく、物音や騒動を聞きつけたのっぺらぼうが急いで集まってくる。

 非戦闘員は逃げ回っているのと同時に、このことを報告しに中央へと走り出していた。


「異形か! 鐘鳴らせぇ!」

「あいよ!」


 すぐさま現状を把握したのっぺらぼうの一人が指示を飛ばして味方を動かしていく。

 動きが早い。

 指示通りに動くのっぺらぼうも役割をしっかりと理解しているようで、混乱しているとは思えないほどの動きで情報を伝達していった。

 そのおかげか武器を持った味方が続々と集結し始めている。


 明らかに今まで戦ってきた妖とは質が違う。

 思わぬ動きの速さに面喰い始めていた異形だったが、黒細が一つ激励して士気を高める。


「旅籠様の期待に応えるでさよ」


 たったこれだけ。

 だが己らに救いの手を伸ばしてくれた旅籠へ報いるため、ギッと睨みを利かせて作戦を実行する。


 異傀儡衆が毒煙入りの風船を投げ飛ばす。

 それが割れると同時に煙が周囲に充満する。


「なんだ!?」

「……いや、なんともないぞ」

「はったりか! 目くらましのつもりか? 夜にそんなことをしても意味はないぞ!」


 あざ笑うようにそう言い放ち、ようやく走って向かってくる。

 異形たちもそれに合わせるように突撃していく。


 このぶつかり合う瞬間が、一番犠牲が出る。

 長物を持って振るうのっぺらぼう衆は、訓練により洗礼された動きで槍を突き出したのだが、ここで大きな違和感が襲う。


 武器が……重い……!


 突くことができず、地面に穂先が突き刺さる。

 刀にしてもそうで、まず抜刀ができなかった。

 なんとか無理やり刀を抜いて構えようとするが、重すぎて満足にふるうことができない。

 まともなぶつかり合いができなかった。

 それを、異形は見逃さない。


「ダアアアッ!!」

「ゴゴゴゴロッ!」


 岩の腕がのっぺらぼうの顔面を捉える。

 小さな武器が彼らの足、体を突き刺しまくった。

 一方的な戦況に成す術もなく倒れていくのっぺらぼう衆に、後続は驚いて思わず足を止めてしまう。


 足元に紫の毒煙が停滞していた。

 無臭のそれに気づくのが遅れてしまい、違和感によってようやく異変に気付くことができる。

 重くなった武器に足を取られたり、体勢を崩してしまったりと散々だ。

 何とか立ち上がろうとしたころには……大きな岩の腕がこちらに振り下ろされている。


「はっはっはっはー! ええでさねぇええでさねぇ~!」

「流石兄ちゃん! 効果抜群じゃないかー!」

「へへへへ~もっと褒めてもいいぞ~! でも、今一番すごいのは格上であったはずののっぺらぼう衆に果敢に立ち向かってるあいつらだよ」

「違いないでさね」

「頑張れぇー!」

「ニニー!」


 四人が異形たちを応援していたその時、山城の反対側で巨大な何かが立ち上がった。

 それを確認して角はにんまりと口角を上げる。


「向こうも始まったみたいだよ」


 ガラゴロゴロガラガラッ!!

 響き渡るような轟音が大地を揺らす。

 最大にまで巨大化した木夢は大きな口を開けてのっぺらぼう衆に絶望を与えた。

 第二陣がこちらへの増援を少しでも減らすため、注意をひいているはずだ。


 この間にこちらは更に深部へと突き進む。

 目指すはのっぺらぼう衆の山城山頂。

 城下町で戦闘が起こるかもしれないが、この調子であれば全く問題はないだろう。


 毒煙入りの風船のストックはまだまだ沢山ある。

 第一陣は一度陣形を整えるために集結したのち、のっしのっしと城下町へと向かって突き進み始めた。


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