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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第九章 怨念の乱
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9.6.次の標的


「のっぺらぼうを倒そう!」


 旅籠の言葉に、誰もが大きく頷いた。

 岩の異形たちは帰還し、持ち帰った物資を褒美として渡してやると大変喜んでくれて、体がさらに大きくなった。

 異傀儡衆はまだ異術に目覚めていないらしいが、何やら集団で集まっている光景をよく見る。

 言葉が通じないので何も聞けないが、少なくとも悪いことではないと思うので放置していた。


 さて、とりあえず戦力は集まった。

 そこで月芽と黒細から話を聞き、のっぺらぼうたちの存在を知ったのだが、向かわせた三人だけでも始末ができる相手だということが分かったので、次の相手に丁度いい。

 今回は名付けをしている彼らには補助に回ってもらうことにして、まだ活躍できていない異形たちを前線へ向かわせる予定だ。

 死傷者は少なくとも出てしまうだろうが、彼らを強くするには死線を超える必要がある。


 仲間と共に戦い、共に支えあう戦場では必ず成長することができるはずだ。

 無論極力戦力を減らしたくはないので、サポートとして名付けした異形たちも前に出る。

 戦闘に極力参加することはないが、これだけで不安の種が減るというもの。


「と、いうことで作戦を立てるぞ!」

「旅籠様。もう少しで五昇が帰ってきますが、どうされます?」

「あ、そっか。もうそんなに経つのか。まぁ五昇は索敵に徹してもらえばいいし、木夢はやんちゃだから私の護衛に回ってもらうかな。だから作戦は今立てよう」

「了解しました。黒細、地図を」

「承知しやした」


 大きな木の皮に描いた地図を、えっさほいさとから蜘蛛兄弟が持ってくる。

 のっぺらぼう衆がいる場所の大まかな地図が描かれており、地形を把握することはこれだけで可能だ。

 まず、奴らは盆地に本拠地を設置しているらしく、その中央には山がある。

 まるでドーナツのような地形だな、と旅籠は思った。


 黒細は細い手を使って中央を示す。


「まず、のっぺらぼう衆は十山城と似た山城を本拠点としていやす。その周囲を城下町が多い、山の中で絹や食料などを作っているとのこと」

「人間みたいな生活してるんだね」

「奴らの主食は果実でさ。人間は趣向品とされていやす。そして、この地図全土に奴らの生活の基盤があるでさ」

「広いな……」


 まるで一国だ。

 これを攻め落とすことができなければ、不落城も落とすことはできないだろう。

 前哨戦。

 旅籠は真剣にその地図を見てどこかに抜け道がないか探した。

 だがこの地図のどこにどのような施設があるのかが分からないので、流石に決め手に欠ける。


「蛇髪。ワタマリの数は?」

「異端村で増えたものを合わせますと、七百程度ですかな」

「異形たちの数は?」

「異端村、石積村、崩落村をすべて合わせて五百程度ですじゃ」


 異端村二百、石積村三十、崩落村二百七十。

 追加でヤガニ衆が大体一千。

 やはり、地上戦力が大変心許ない……。


 これをどうにかするために戦力の拡充は必須だったが……ううん、今はこれ以上無理だよね。

 だって異形の村見つかってないし……。

 たったら、少数精鋭に育てるしかない!

 育成ゲームとかやったことないけど、名づけと褒美で何とかなることは分かったし、なんとでもなるだろう!

 多分!!


 最悪名付けしてる異形たちに殲滅してもらえばいいしね。

 まぁそれだと他の異形たちが強くなれないので、本当に最終手段だ。


 とりあえずのっぺらぼうと戦った黒細と月芽の意見を聞こう。

 布房にも聞きたいけど……口が利けないからな。


「どうだった?」

「感触としては、二口衆よりも強かったでさね」

「ええ。あ、でも二口の大将って程度ですよ」

「そんな感じでさ!」

「うん、なるほど!」


 育てようとしてる異形にぶつけていい相手じゃねぇ!

 これは作戦を考え直さなければ……!


 若干引きつった笑顔をしていると、そこで空蜘蛛兄弟の兄、楽が腕を上げた。

 テコテコと近くに寄ってくる。


「旅籠様~」

「ん?」

「僕の能力で何とかなるかもしれませんよ」

「ああーそういえば聞いてなかった。空蜘蛛兄弟の能力って何?」


 そう聞くと、元気よく飛び跳ねて弟の頭に乗った。


「僕、兄の方は毒煙で」

「僕、弟の方は毒の糸」

「楽が毒煙で、角が毒の糸ね?」

「んで、僕の毒煙は場を有利にさせる毒を撒きます」


 数名が首を傾げる。

 確かにこれだけ聞いてもすぐに理解はできなかった。

 更に説明を求めると、自信満々に胸を張る。

 ……というより、頭を上げただけではあるが。


「弱体毒煙! これが僕の最も得意とする能力です!」

「弱体化の毒! どれくらいの効果があるの!?」

「初めて使ったのは先の遠征、女郎蜘蛛の子蜘蛛退治の時です。彼奴らは火を噴くとのことでしたが、僕が毒煙を使ったところ火を噴かなくなったし、壁を登らなくなりました!」


 予想外の効力に幾らかの異形が拍手する。

 旅籠も思わず感心して手を叩いた。

 異形には効かないということを聞き、更に関心が集まる。

 この毒を有効的に使えるのであれば、まだ力の弱い異形でものっぺらぼうを倒すことができるかもしれない。


 となると考えなければならないのは、この毒の運搬方法だ。

 毒煙は気体なので何かに入れて持ち運びたい。

 だがそれを可能とするも異形は近くにいなさそうだった。


「ううーん、毒煙を異形たちがそれぞれ持ち運べるようになればいいんだけど……」

「風を起こせばよいのでしょうが、そういった異形も居ませんね」


 誰もがそれに頷いた。

 木樹に箱を作ってもらいという手もあるが、使い捨ての道具になるので作ってくれないかもしれない。

 ほかに何かいい方法がないかと考えていると、ツンツンと肩をつつかれた。


「ニー」

「タマエキ?」


 いつの間にか後ろにいたタマエキが、ポコッとシャボン玉を作り出した。

 それは旅籠の手の上に静かに降りてくる。

 触ってみると結構弾力があるが、力を入れればすぐに割れてしまいそうなものだ。

 風船のような質感に気づき、旅籠はハッとする。


「これ行けるかも! 楽! 毒煙出してみて! タマエキはそれを包み込んで!」

「お、了解です!」

「ニニッ」


 楽が毒煙を出したと同時に、タマエキがそれを包み込んで風船にする。

 中にはしっかりと空気が入っており、毒煙も目視できた。

 パンッと割ってみると、そこからは圧縮された毒煙が周囲に散布される。


「おお! 成功!」

「ってわああああ! 旅籠様は人間ですから僕の毒効きますよ!?」

「えっ」


 その瞬間、布房が数十枚の腕を使って風を起こした。

 強い風に毒煙はすぐに霧散したが、旅籠は明らかに毒を吸っている。


 しかし、別に何ともない。

 魂が減ったわけでもなければ、歩けなくなるということもなく、弱体化の影響は一切受けていないように感じられた。

 体をまさぐってみても異常は見られない。


「……うん! 大丈夫!」

「大丈夫だったとしてもこっちは心臓に悪いですよぉ!!」

「んなははー! ごめん!」

「ま、まぁ弱体化の毒だし……そこまで影響はなかったと思うよ! 多分!」

「なかったでしょうな」


 蛇髪もそう口添えしてくれたので、楽から詰められることはなくなった。

 とはいえこちらも軽率だったので、今度から気を付けようと思う。


 でもなんで効かなかったんだ?

 そう首を傾げていると、月芽が教えてくれる。


「おそらく、旅籠様が異形人であるからかもしれません」

「あ、そういえばシュコンからそんな話を聞いたな。てことで大丈夫だよ! 楽!」

「知らない身にもなってくださいませ!!」


 すまんかった。


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