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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第九章 怨念の乱
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9.3.蹂躙


 大地に真っ赤な液体が大量に付着する。

 それと同時に臓物も転がり出た。

 体に不自然な傷跡を負ったのっぺらぼうが地面に倒れる。

 その死体は思い切り踏み潰れ、次の相手に向かって何かが飛翔した。


 腕を大きく広げて風を掴み、八本の日本刀を乱回転させて武器を持ったのっぺらぼうを切り伏せる。

 頭部はあるが、顔にぽっかりと穴が開いている布房(ぬのふさ)が刀に付着した血を払う。


 その横を黒細が高速移動しながら横切った。

 細い腕は一匹ののっぺらぼうを串刺しにしており、それを壁にぶつける。

 体の中をかき回しながら腕を引き抜くと、次の相手を見つけてにんまりと笑う。


「怯むな怯むな! 数ではこっちが上なんだ! 武器を持て! 矢を放てぇ!」

「いいでさねぇ! やりがいがありやすなぁ! これなら雪女を諦めた買いがあるってもんでさぁ!」

「……」


 のっぺらぼうは、思っている以上に人数が多かった。

 全員が武具を身に纏い、武芸もそれなりに秀でているので黒細と布房は満足しながら戦っている。


 ここ、崩落村に丁度攻め込んできた彼らと、異形たちが今戦闘を繰り広げていた。

 崩落村には小さな異形が多く住んでおり、草をかき集めてそれを体にしている個体や、石ころを集めて体にしている個体、土、宝石、木の根、草の茎を体にしているらしい。

 体の中心には心臓となる動く石が埋め込まれているらしく、それが破壊されない限りは不死身だそうだ。


 しかし、その大きさは人間の手のひら大程しかないので、簡単に蹂躙されてしまう。

 布房、黒細、月芽が少しでも到着が遅れていれば、彼らを救うことはできなかっただろう。

 まだ弱い彼らを守っている月芽が、二人に指示を飛ばす。


「お二方! あまり遠くに離れてはいけませんよ!」

「分かってるでさぁ! 布房! どっちが残りやすかぁ!?」

「……(黒細に切っ先を向ける)」

「ハハ、布房も戦いたいんでさねぇ~? じゃああっしが弓兵を始末しやす! それまでは譲っていただけやすか!?」

「……」


 少し悩んでいたようだったが、渋々といった様子で頷いた。


「ちゃーんと残しておきやすから! では!」


 黒細の合図と同時に、布房は月芽の方へと下がった。

 飛んできた矢を打ち落として崩落村の異形たちを完全に守る。


「ありがとうございます布房! もう少しで避難が完了しますので、もう少しお願います!」

「(日本刀を打ち鳴らす)」

「頼みます!」


 八本の日本刀で空を切る。

 扇状に広げられたその構えは、まるで仏のようだった。


 一方、飛び込んだ黒細はごり押しの戦法で蹂躙を開始していた。

 彼は硬く、ほとんどの攻撃は効かない。

 数十体ののっぺらぼうに包囲されたが、攻撃を完全に無視して鎧の隙間を狙って腕を振るっていく。

 相手は弓兵なので鎧の面積が少なく、倒しやすい。

 彼らは刀で応戦して黒細に攻撃するが、刀が折れたり、逆にこっちが怪我をしたりと散々だった。


「た、倒せない……」


 一体ののっぺらぼうがそう呟いた。

 これを聞いた他の者は頷き、冷や汗を流して一歩下がる。


 のっぺらぼうはこの世界の中でもまだ弱い方ではあるが、組織的な戦略、戦術を得意としている手の目衆とほぼ同等な知能を有していた。

 モノ作りがそこそこ得意で、そんじょそこらの妖には引けを取らない。

 九つ山の山姥でさえ相手にできる戦力を持っていた。


 だがこれはどういうことだ。

 そもそも攻撃が効かない相手など、どう相手取ればいいというのだろうか。

 次第に絶望が伝播していく。

 あと一つ、何かきっかけがあれば破裂してしまいそうなほど不安定になっていた。


 士気が、持たない。

 奴らを倒すにはのっぺらぼうたちの実力では敵わないことが、分かってしまった。

 今指揮を執っている者もそれには気づいている。

 だが、自尊心が撤退を邪魔した。


 最弱と謂われた異形に、背を見せるなどしたくない!

 それだけが皆の士気を紡いでおり……勝てぬとわかっていても飛び掛かる。

 いうなれば、死兵。

 その覚悟を持って彼らは武器を掲げ、賢明に黒細に対峙した。


「ハハハハ! そろそろあっしもこれをやりやすかねぇ!」


 ビッと腕に付着した血を払ったと同時に、背に担いでいた日本刀二振りを握る。

 乱暴に引き抜いて構えを取ると、目の前にいたのっぺらぼうを武器ごと両断した。


「ガッハ……」

「旅籠様には言っとりゃんせんがね。あっしの力は、物を鋭くするってことにありそうでさよぉ~!」


 因みに、これは黒細も先ほど知ったことである。

 布房と使っている日本刀は同じはずだが、その切れ味に違いがあった。

 暫く隣で戦っていてそれが確信に変わり、武器ごと両断してみたところ、見事に切れたというわけだ。


 己は硬く、敵は柔い。

 いい力だ、とさらに口角を上げた黒細は弓兵を集中的に狙って切りまわり、目視できる範囲で最後の一体を斬り飛ばしたところで、急速に後退する。

 約束を違えるのは許されない。


「布房! お待たせしたでさぁ!」

「……!」

「ここは変わりやす! あとは任せやしたぜ!」


 日本刀同士をこすり合わせてやる気を示す。

 大きく腕を広げたまま突っ走っていくと同時に、目の前に現れたのっぺらぼうを八つ裂きにした。


 布房は、とにかく器用だ。

 八本の日本刀を自由自在に操るのはそうなのだが、彼の体が布という特性を存分に発揮している。

 攻撃時は日本刀を振るうが、わざと布を絡ませるのだ。

 それはまるで鎖鎌のようであり、絡まったとしても別の腕を作って持ち替え、絡まった腕はすぐにほどいてしまう。


 布房の腕は、布の数だけある。

 やろうと思えば十本でも二十本でも日本刀を持つことができるだろう。

 しかし、日本刀の扱いは中々にぞんざいだ。

 先ほどのように日本刀をこすり合わせたり、叩いて音を鳴らしたり、乱暴に扱うことが多い。


 だがこれには理由がある。

 布房は切れ味を悪くさせて、自らを切ってしまったときのダメージを軽減させているのだ。

 もちろん切らないように努めるのだが、鎖鎌の分銅のように扱っているのだからたまに切ってしまう。

 であれば鉄の棒などを使えばいいのだろうが、布房が日本刀の格好を気に入っているので、これは外せない要素らしい。


 とはいうものの、最近は自らを切ることはなくなった。

 再び日本刀を振り回し、乱暴に攻撃をしながらのっぺらぼうを蹂躙していく。


 その後方で避難に努める月芽は、一つの気配を感じ取る。

 のっぺらぼうの奇襲部隊が後方から迫ってきていたのだ。

 武器を振りかざして突撃してくる彼らに気づき、黒細が急行しようとしたが、こちらにも敵が迫ってきており手が離せない。


「月芽! 任せやした!」

「はい!」


 ダンッと地面を踏んづけると、継ぎ接ぎがババッと伸びていく。

 それがのっぺらぼうの足に繋がった瞬間、彼らはビダーンと転倒する。


「ぐぁ!?」

「だっ! な、なんだ……!?」


 継ぎ接ぎはすぐに腹部まで到達する。

 鋭い違和感に彼らが鎧の下を確認しようとするが、そう簡単に外れるものでもない。

 彼らが違和感の正体を明らかにしようとしている間に、月芽は握りこぶしを広げた。


「さようなら」


 ベバリャッ!!!!

 血の池が一瞬で作られ、肉塊がその辺に転がった。

 その様はまるで、トマトシチューの具材が地面に落ちているかのようだ。


 月芽の殲滅力はほかのどの異形よりも高く、強力な異術。

 おそらく、現異形たちの中で最強なのは彼女である。


 奇襲を仕掛けてきたのっぺらぼうを始末した月芽は、異形たちの避難作業を完全に終わらせた。

 移動先はもちろん十山城であり、今は麓の方で他の異形が引率しているはずである。

 最後の一体を送り届けたところで後ろを振り向けば、のっぺらぼうの大将と布房が戦っていた。

 しかし勝負は一瞬。

 八本の日本刀が同時に振りぬかれ、八つ裂きにされて沈黙した。

 と、同時に黒細も最後ののっぺらぼうを仕留めたらしい。

 真っ二つに両断して切り捨てている。


「お疲れ様です。黒細、布房」

「あいや、そっち行けんですいやせん……」

「構いませんよ。さ、私たちも戻りましょう! 新しい異形たちです! 旅籠様に報告しますよー!」

「そうしやしょう!」

「!」


 地面伸びた継ぎ接ぎに三人は飛び込み、十山城へと戻ったのだった。


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