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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第九章 怨念の乱
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9.1.言伝

第九章です

全17話構成となります

異形陣営のお話ですよっ


 しっとりと濡れた地面をなにかが駆け抜ける。

 未だに降り続いている雨は優しく山を覆ってり、山に群生している植物たちを潤していた。


 足場が滑りやすくなっているが、それを物ともせずに突っ走るのは木夢(もくむ)だ。

 その背中には五昇(ごのぼり)が乗っている。

 二人は山を素早く駆け抜けて一山にいる落水と案山子夜の場所へと向かっていた。


 本当であれば月芽の能力で移動すればいいのだが、木夢は獣の気が強い。

 定期的に体を動かしたいらしく、今回はこうして走らせることになったのだ。

 だがそれにしても速い。

 一ヶ月かけて移動した九つ山を、たった五日で移動しきってしまう。


 背中に乗っている五昇が手を鳴らす。

 音の振動で二人のいる場所を探ると、一人……知らない奴がいる。


「誰でしょ?」

「カコロッ?」

「案山子夜さんと落水さん以外に、もう一人誰かいるんですよ」

「ガラコココ……」

「警戒しないでください。戦っている様子はありませんので」


 それを聞いて木夢は静かになる。

 五昇の言うことには意外と忠実だ。

 

 そのまま走っていくと、ようやく一山に入ることができた。

 彼らは山の中腹で人間の城を見張っているらしく、とりあえずそこまで木夢を向かわせる。


 到着すると、案山子夜は木の上で監視をしており、落水ともう一人はその木の下で休んでいた。

 見知った顔が来たことで、案山子夜は少し声色を上げて二人を出迎える。


「おお、五昇! 木夢! よく戻りましたな!」

「カラコロッ!」

「しばらくぶりです。そちらはどうですか?」

「一度人間が来たが全て始末した。一山の守りは続いている」

「左様ですか。……して……そちらは……?」


 五昇がもう一人を指差す。

 彼女は一見人間のようではあったが、その目と口を見れば人間でないということは分かる。

 薙刀を肩に担ぎながら軽く会釈をした。


「どーも初めまして。異形鬼の赤雪常夜で~す」

「五昇です。異形鬼というのは初めて聞きました」

「鬼人が魂蟲を食べるとこうなりますよ~。無論異形には負けませんよ」

「へぇ?」


 二人の間でバヂリと火花が飛び散ったような気がした。

 五昇は仮面を少しだけずらしてその顔をしっかりと拝んだ。

 自在に拡大したり縮小したりする眼球が覗く。

 彼女の口元は骨になっており、ピラニアのような牙が並んでいた。

 天狗の一撃を耐える鱗は美しく、時々シャリッと音を立てる。


「やってみますか?」


 尻尾でズダンッと地面を叩く。

 大木に繁っている葉っぱが大きく揺れた。


「異形とは戦ってみたかったんですよね~」


 シュボッと音を立てて赤雪の回りに炎が舞った。

 黒い歯が彼女の笑みを不気味にさせる。


「やめんか。あほらしい……」

「赤雪殿。味方でありたいならば喧嘩を売るのはやめていただきますぞ」

「「チッ」」

「何で相性悪いんだこいつら」

「カコロロ……」


 とは言う落水だったが、実はこの二人の戦い方を見たかったりする。

 久しぶりに会った赤雪と、異形の戦い方を見られるのは大変勉強になるからだ。

 流石に最前線で暴れられては困るので今回は止めたが……。


 案山子夜が咳払いをして仕切り直す。

 五昇がここに来た理由を聞き出した。


「言伝を預かって参りました」

「誰からのですかな?」

「旅籠様です」


 思わず『おお』と声を漏らす。

 他二人はそんなことは言わないが、案山子夜のこの反応だけで忠誠心の高さが読み取れる。


「内容はなんですかな?」

「『お疲れ様。本陣は十山城にしたから覚えておいて。本隊はこれから周辺の妖怪を倒して戦力強化に取り掛かる。一山の防衛を引き続きお願いしたい』……とのことです」

「なるほど。承知しましたぞ」


 簡単に引き受けた案山子夜に、落水は待ったをかける。


「安請け合いするな案山子夜……」

「できぬわけではありますまい? できぬならばわてとて妥協案を出しますぞ」

「俺はお前の本当の実力を知らんのだ」


 誰が、何を、何処までできるのか。

 進化した異形たちの実力は、恐らく旅籠ですら完璧に把握していないはずだ。

 判断材料が少なく慎重に判断せざるを得ないこの状況で、軽々しく首を縦に振るものではない。


 呆れるようにそう言えば、案山子夜と五昇が笑い始める。

 これには赤雪ですら首を捻った。


「何が可笑しい」

「カカカカ、いやなに……。心配性だなと思いましてな」

「フフ、確かに慎重すぎますね」

「分からぬ」

「「主がやれと申されているのです」ぞ」

「……ああ、はいはい……」


 有無を言わさぬ物言いに、落水はすぐに身を引いた。

 これは話が通じる相手ではない。

 説得しても無駄だろうと思い、傍に寄ってきた木夢を撫でた。


(え、こいつらやばぁ……)


 この驚異的な忠誠心。

 彼らの心をここまで掴んだ旅籠と言う人物に、なおのこと会いたくなってくる。

 これは楽しめそうだ、と小さく笑った。


「それで案山子夜。何か必要な物はありますか?」

「ワタマリが欲しいですな。四匹いれば十分ですぞ」

「では帰ったら月芽に伝えておきます」


 五昇はそう言ったあと、木夢に乗った。

 また走って帰るつもりらしい。

 それが嬉しいのか木夢はやる気満々といった様子で地面をひっかいた。


 足に木材の棘を生やしてしっかりと地面を踏ん張れるように変形する。

 木夢は大きくなれるだけではなく、体に生えている木の板や肉体を若干変形させることもできるようだ。


 だがやはり忙しない。

 早く走りたくてうずうずしているようで、地面をひっかいているはずがすでに地面を幾らか掘っていた。

 カラコロと体を震わせて五昇の合図を待っている。


「待ちきれなさそうなので行きますね。ではこの場はお任せいたします」

「任されましたぞ! 旅籠様によろしくお伝えくだされ!」

「はい」


 コツンッと木夢の体を叩けば、それを皮切りに爆速で地面を駆けていく。

 あっという間に見えなくなった木夢の姿を感心するように見届けた赤雪は、少しもの惜しそうに人差し指を口に押し付けた。


「ねぇ落水~! やっぱり私、異形と戦いたい!」

「だ、そうだが?」

「わてですかな?」

「うんそっちでもいい! 全然いい! 強くなった異形とかすっごく気になるし!」

「……まぁ、ええですぞ」


 案山子夜が槍を持ち上げた。

 まさか受けてくれるとは思っていなかった落水は顔を上げる。


「いいのか?」

「カカ、馬鹿にされているのも癪ですからな。わてのこの力も使いたかったので、丁度いいですぞ」

「やったぁ!」


 薙刀を大きく振るうと、炎がボンッと弾けて周囲の雨を蒸発させた。

 なかなかの熱量だ。

 案山子夜は片足で立って首を傾げながら槍を振るった。

 雨を斬ったその鋭さを見た落水は、顎に手をやって結果を見届ける。


 時間にして二分。

 落水は目を見開いてその光景を見ていた。


「大したことないですな。人と鬼と異形が混じった混ざり者など」

「カッ……。うっそ、でしょ……」


 ボロボロになって地面に転がった赤雪の上に、義足で立って腕を組む。

 やじろべえのように揺れている案山子夜は、濡れた稲の髪の毛を振るって水気を払った。


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