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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第八章 不落城にて
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8.10.彼らの動向


 一山の麓に群生しているススキが激しく揺れ動いている。

 今日は一段と風が強く、山の木々も大きく揺さぶられていた。


 山から下りてくる風は冷たい。

 この辺りは一山以外にも山が近くにあり、盆地のようになっている。

 もう少し寒くなれば明朝に霧が発生するだろう。

 朝露がおりてきており、地面に生えている植物はしっとりと濡れていた。


 早瀬が連れていかれてから四日が経った。

 雪野は最前線の屋敷で世話になっており、毎日結界術と守の御力の特訓を繰り返している。

 今日はふいに目が覚めてしまったので朝早くに外に出て特訓をしているところだ。

 白い息を吐きながら、手の中に小さな結界を作り出す。

 これを様々な形に変えてみる。

 星形、球体、正方形、長方形、台形など、思うままに作れるようになってきた。


 この中で最も強度が高いのは球体だろう。

 水族館や飛行機にも楕円や球体の窓が使われるくらいなのだから、全体的な強度はこれが一番高いはずだ。

 しかし広範囲に展開できないという欠点もある。

 使い分けと、その判断が重要になりそうだと思いながら結界を解く。


「……何もない……。変だよ……」


 異形がこの不落城を攻めて来てから長い時間が経った。

 未だに一山の開拓は進んでおらず、秋の颪と冬の颪から入山禁止令が発令されている。

 秋の風たちが苦労してろくろ首衆を討伐したというのに、一山の開拓に着手できないことに業を煮やす風たちもいるようだ。


 だが雪野が疑問に思っているのは別の理由がある。

 あの異形の能力があるのに、不落城に攻めてこないことが不思議なのだ。


「……あの子……」


 旅籠がいなくなったあの瞬間を思い出す。

 継ぎ接ぎだらけの女の子。

 あれと全く同じ継ぎ接ぎが地面に伸び、開き、異形たちはそこに入っていった。


 瞬間移動、ワープ。

 あれにはそんな能力があるとみて間違いない。

 一瞬で移動をすることが可能なのであれば、逃げることも、攻めることも容易になるはずだ。

 それこそ一晩……いや、数分で不落城に侵入することすら可能。


 異形たちは攻める準備さえ整えば、いつでもどこでも出現できる大きなアドバンテージを持っている。

 だが、彼らは未だに攻めてくる様子がない。

 雪野はこれを疑問に思っていた。


「戦力が足りてないのかな。……あの子の力を無力化しないと、絶対に勝てない。旅籠さんもすぐに逃がしちゃう……」

「……雪野様?」

「え? ……御代ちゃん!」


 突然声をかけられたので振り向いてみれば、そこにが銀巫女である御代の姿があった。

 長く艶のある髪の毛は相変わらず美しい。

 幼さの残る容姿は可愛らしく愛らしい、と表現するのが最も適切だ。


 二人は最近知り合ったばかりだが、同じ萩間専属の巫女としてこの場に立っている仲間だ。

 金、銀巫女ということもあり話が何となく通じ合った。

 年は雪野の方が上ではあるが、言葉遣いが丁寧なので時々同世代くらいに錯覚してしまう。


 しかしこんなにも朝早くに外出するとは思わなかった。

 すぐに駆け寄って笑顔を見せる。


「おはよう、御代ちゃん。寒くない?」

「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。……こんなに朝早くにどうされたのですか?」

「私も同じ事聞こうと思った~。私は結界術の特訓。御代ちゃんは?」

「……あれから眠れなくて……」

「ああ……」


 御代のことは萩間から聞いている。

 一時的ではあったが錯乱状態になったことがあり、それからというもの寝るのが怖いとのことだった。

 なので何度か一緒に寝ていたりしたのではあるが……未だに恐怖心は払拭されていないらしい。


 雪野は……御代が感じ取った気配の存在と実際に対峙した。

 なので彼女が怖がる理由が良く分かる。


 傍に寄って背中をさすると、若干強張っていた表情が柔らかくなる。

 彼女は今人と触れあうことで安心感を得られるらしい。

 ほっとした笑顔を向けられると、こちらも笑ってしまう。


「怖かったらまた言ってね」

「ありがとうございます。でも……どうして、まだ動きがないのでしょうか……」

「御代ちゃんもそう思う?」

「はい……。あれだけ強大な力を持っているのに攻めてこないというのは……気掛かりです……」


 二人は奇しくも同じ懸念を抱いていたようだ。

 これなら一緒に考えることができるかもしれない。

 そもそも雪野はまだこの世界について詳しくないため、推理できることに限りがある。

 だが御代は詳しいはずだ。


「どうして攻めてこないんだと思う?」

「ううん、詳しくは分かりません……。でも地震を引き起こせるのに攻めてこないって言うのがやっぱり……」

「戦力不足が原因ではないってこと?」

「彼らは質が高いです……。それこそ、妖怪以上に……」


 雪野は首を捻った。

 確かに彼らの力は強大であり、戦力としては十分だ。

 それ以外に攻めてこれない理由があるのだとすれば……。


 と、ここで行き詰まる。

 どうしてもここから先は推理ができない。

 この世界のことを知っていればもう少しなんとかなるのだろうが……。

 御代に何を聞けばいいのかもわからない状況だ。

 これ以上は考えても無駄かもしれない。


「何を考えているんだろう、旅籠さん……」

「でも……一山まで来たんですから、妖怪たちには狙われているでしょうね……」

「……あ」


 これは古緑から聞いていた。

 九つ山にはいくらかの妖怪が住んでおり、それを全て倒しながら彼らはこの不落城に訪れた……と。


 これを思い出した雪野は顎に手を添えて考える。

 急に真剣な様子で黙った彼女に気づき、御代は小首を傾げた。


「どうしたのですか?」

「……私たちは、異形についてなにも知らない……」

「……確かに……」

「継矢家の文献はここにないですよね」

「な、ないと思います……。萩間様が最もよく知っているかと……」

「会いに行きましょう。聞かなきゃいけないことが増えたわ」

「わ、わかりました!」


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