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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第八章 不落城にて
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8.4.きっかけ


 早瀬は腕を組んで頭を捻る。

 まだ自分の流派というものを見つけられていないので、若干焦りが生じ始めていた。

 どうすればいいのか皆目検討がつかない。

 だが鍵城から貰ったアドバイスは、自分に足りない何かを掴みかけようとしている気がした。

 

 対、妖……。

 これから相手にするのは人間ではなく妖怪だ。

 もしかすれば異形も相手にするかもしれない。

 常識が通用しない世界で、普通の人間を相手に考案された剣術などほとんど意味をなさないのではないだろうか。


 そう考えると萩間が使っていた流派も豪快さがあった。

 鍵城は様子見を続けていたような気がするので、恐らくあれが本気ではないだろう。

 萩間も、あれが全力ではないはずだ。


「……本気の萩間さんが見たいな」


 自分に足りないものはこれなのではないだろうか。

 まずこの世界で妖怪を見たことがないし、それらを相手取る人の姿を見たことすらない。

 そう考えるとまだまだ課題が多い。

 妖怪を見ても怯まず戦えるのか。

 本当に刃を振り下ろすことができるのか。

 そして……最初の課題でもある流派を考えることができるのか。


 どう考えてもできないことが多い。

 経験不足、知識不足。

 それが今の早瀬にはのっかっているようだった。


「んなぁああああ……どうすりゃいいってんだよ!」


 感情に任せて足元にあった小石を蹴り飛ばした。

 意外と威力が強かったようで、瓦礫の山にぶつかって大きな音を立てる。


「……どうしようかな……」


 もう一度古緑に話を聞きに行ったほうがよさそうだ。

 確か前線に向かったはずなのでそちらに向かうことにする。

 片づけを行っていたので近場にいた人に感謝をされながら、早瀬は足早に目的地へと向かった。



 ◆



 鍛練がてら走りながら前線へと向かった早瀬は、家屋の多くが崩れていることを再度確認した。

 あれは地震ではなく異形……大きなムカデが引き起こしたものであり、炎を使う異形鬼が被害を拡大させたものだ。

 しかし誰もその事実を信じてはいないらしい。


 そんなことを考えている内に目的地へとたどり着いた。

 早く古緑を見つけてこれからの方針を確認したい。

 帯刀している人たちを通りすぎながら歩いていると、雪野が誰かと話している姿を発見した。

 丁度会話が終わったらしく雪野がこちらに歩いてくる。


「おおーい」

「あ、早瀬さん。お手伝いは終わったんですか?」

「数件手伝って切り上げた。萩間さんに聞きたいことがあるし。そういえばさっきのは誰だ?」

「古参の侍らしいですよ。山本さんっていう方」

「へぇー」


 彼の姿を見てみれば、日本刀を腰に携えている。

 その出で立ちはなんだか格好が良い。

 姿から強さを感じられた人は初めてだな、と早瀬は思った。

 ……山本に話を聞けばなにか気付けるかもしれない。


「いい人?」

「うーん、多分」

「ちょっと話聞いてくるわ」

「えっ」


 予想外の答えに雪野は小さく驚いた。

 だがそれに気付けなかった早瀬は足早に山本に近づいて声をかける。


「こんにちは」

「む? 何用か、若僧」

「早瀬です。早瀬陸」

「……山本だ」

「初対面でこんなことを言うのは変かもしれませんが……。俺、渡り者でして。友達を連れ戻すために強くならないといけないんですけど、いまいち自分の流派っていうのが作れなくて」

「……我に助言を求めに来た、と」

「そんなところです」

 

 山本は雪野をちらと見た。

 すると彼女は小さく頷く。

 たったそれだけのやり取りではあったが、山本は意図を汲んで腕を組む。


 (はは、厄介な女に目を付けられたものよ。断れば何をしでかすか分からぬ。痛い弱みを握られたなぁ……。だが、これも人か)


 諦めるように息を吐くと、山本は刀を鞘ごと抜いて早瀬に手渡した。

 急に持たされた日本刀を見てぎょっとしたが、すぐに真剣な表情に切り替えてしっかりと握る。

 真っ黒な日本刀。

 ……そういえば、初めて日本刀を持った気がする。


 その反応を山本は見逃さなかった。


「そこからか。早瀬よ。貴殿は初めて日本刀を手にするな?」

「あ、はい……」

「重いか?」

「あー……いや、そこまで」

「では抜刀し振ってみせい」


 言われるがまま早瀬は日本刀を鞘から抜き放つ。

 鞘は山本が回収し、手で合図して『振ってみろ』と促した。

 不格好な構えから何度か日本刀を降ってみる。

 力を込めて降った日本刀は、ピタッと止めたい場所で止まらず少し下に落ちる。


「おっも……!」

「我が日本刀は刀身を分厚く作っている。それにあわせ茎も長い。早瀬に合わぬ刀ではあるが、振ったときの重さは大差変わらぬ。ではここで聞こう」


 山本は早瀬から日本刀を受け取って納刀する。

 それから目を合わせた。


「刀に振り回されているならば、それに見合った流派を考案せよ」

「……なるほど」

「話はそれからだ」


 そう言い残し、山本は雪野の一瞬目を合わせてからその場を離れた。

 少ない教えではあったが、早瀬の中ではなにかに気づくことが出来たらしい。

 雪野に向き直って声をかける。


「萩間さんどこかな?」

「この辺にいるはずだから、一緒に探しましょ」

「よし!」


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