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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第八章 不落城にて
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8.2.山本……


 既に異形たちが居を構えているであろう一山を見据えながら、山本は腕を組んで鼻を鳴らす。

 あの異形が下級とはいえ妖を倒す力を身に付けているというのは純粋に驚いた。

 いつまでも影に隠れていると思われたが……そうではなかったようだ。


 しかし人間の驚異が二つとなった今、やはり楽観視はしていられない。

 一刻も早く異形は強い存在になった、と周知しなければならないのだ。

 なめてかかると足元を掬われる。


 急に強い風が吹く。

 木々や篝火が大きく揺れて、再び静かになった。

 どうやら緩んでいた結界を元に戻す事ができたらしい。

 流石萩間だ、と山本は小さく笑う。


 それと同時に凛とした気配を感じとる。

 ゆっくりと後ろを振り向いてみれば、美しい巫女がそこに立っていた。

 この辺りでは見たことのない巫女なので山本は少し訝しんだ。


「巫女がこのような場に何用か」

「私は萩間さんの専属巫女としてここに居させてもらっています。雪野です」

「雪野殿? ほぉ……萩間からは何も聞いていないが……」

「多分私が金巫女だからじゃないでしょうか」

「……ほぉ。我は山本。以後お見知りおきを」


 山本から見て雪野の目は非常に綺麗だった。

 なんでも見透かしてしまいそうなその瞳は、本当にすべてを見ているのかもしれない。


 もしかすれば、全てを分かって近づいてきたのかもしれなかった。

 若干の不安が山本を襲う。

 このような気分は非常に久しぶりで、どう言葉を紡げばいいか困ってしまった。


「山本……さん。……山本さん。私、友達がいてその人は妖怪の事についてとっても詳しいんですよ。有名な妖怪だったら私も知っています」

「そのような友がいるか。良いではないか」

「貴方はどうしてここに居るんですか?」

「度胸のある問いだな。捉えようによっては無礼に当たる。言葉遣いには気をつけよ?」

「いえ、そうではなく……。妖怪である貴方がどうしてここに居るのか聞いているんです」


 風が止む。

 世界ですら『今その言葉を口にするのか』と驚いたかのように静まり返った。

 久しく感じていなかった激しく脈打つ血肉に目を瞠る。

 それが正体を言い当てられたことによるものであると勘違いされてはいるようだったが、山本にとってそれは些細な事だった。


 どう答えたものか悩んだ山本だったが、ふと周囲を見渡す。

 誰も居ないことにまず安堵しながら雪野を見た。


「周りに誰も居なくてよかったな。フハ、まっこと度胸のある小娘だ」

「山本……。山本五郎左衛門ですよね」

「いかにも。だがその名を他の者がいる前で口にするのはやめよ。我がこの場に居られなくなる」

「どうして人間側に?」

「……友との約束なのだ。この答えで雪野殿は満足か?」


 もっと深く事情を知りたいと思ってしまった雪野だったが、山本の口調にはこれ以上詮索しないでほしいという感情が伝わって来た。

 人に化けて、人を味方する最強の妖怪。

 彼の答えは人間側につく理由としては薄い気がしたが、味方なのであればいいのかもしれないと雪野は考えた。


「そうですか」


 山本は胸を撫で下ろす。

 話の分かる人間でよかった。


「やはり金巫女には隠し通せぬようだな。いつから分かっていた」

「お姿を見た時から。随分……気配が大きいようで」

「銀巫女には気付かれなかったのだがなぁ……。ふむ、弱みにしてくれるなよ?」

「山本さんが寝返らなければ」

「本当に度胸のある……。その自信はどこからくるのだ」

「私……今ちょっと機嫌が悪いんです」


 たったそれだけの理由で?

 山本は素直にそう思ってしまった。

 妖怪の中でも強い力を持っている山本。

 正体を言い当てることでこの場にいる理由がなくなり暴れられるとは思わなかったのだろうか。


 もし、彼女の言うように機嫌が悪いというだけで軽はずみな発言をしたならば……危ういと思った。


「雪野殿は我を押さえる力があるか?」

「あると思います。というか、ないといけません。じゃないと旅籠さんは連れ戻せない」

「……巫女としての素質はあるようだな」


 いい覚悟だ。

 巫女の力は自信があればあるだけいいし、こうした明確な覚悟を持っているならば更に強い力となる。


 まだ彼女の力は見ていないが、それでも山本が驚異であると感じるほどの素質を持っていた。

 巫女は見た目によらないというのが恐ろしいところだ。


「……して、雪野殿は我がこの場にいると知って来たわけか」

「いいえ。違います。私の友達は異形たちとどこかに行ってしまいました」

「ほう……。その者が異形を強くしたようだな」

「かもしれません」


 そう言って雪野は背を向けた。

 結局なぜこんなところに来たのか教えてくれなかったが、些細なことなので山本も追求しなかった。

 遠くなっていく彼女の背中を見届けたあと、山本は再び一山に目を向ける。


 妖怪の気配が一切しない。

 本当に異形は妖怪を倒してしまったらしい。

 そして、血の臭いがここまで漂ってきた。


「一山に挑んだ秋と冬の衆か……。どうやら、帰ってはこれぬようだな。……人間すら簡単に殺すか。奴らの異術……やはり、驚異だな」


 そう呟いたあと、若い声に呼ばれた。


「こんにちは」


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