8.1.緊急事態
第八章です
人間勢力のお話となりますよっ
新しいお話も書きたくなってきたのですが、なかなか完結まで漕ぎ着けず難儀しています
とはいえやりたいことは既に決まっているので、後は書き起こすだけですね
作品自体は今年中には完結するはず(全て公開するのは来年になりそう)
現在は14章まで書いているので、私が忘れない限りは二日に一回投稿を継続できそうですガンバッテルワタシ
大地震と大火災があった不落城は避難活動や炊き出しなどが行われながら、着実に復興作業が行われていた。
瓦礫や廃材の撤去を始め、石垣補修や建築作業。
それらが既に始まっており早く建て直そうという民草の底力が垣間見えるような気がした。
本来であれば秋の風たちは既に帰省するのだが、今回ばかりは復興作業に従事してもらうため古緑が呼び止めた。
そのおかげもあって人を派遣できる場所が増えているらしい。
不落城の危機に、全員が対応してくれている様だ。
しかし不満の声も出ていた。
折角秋の風が一山に住まうろくろ首衆を打ち取ったというのに、一山の開拓がまるで進んでいない。
放置し続けているわけにはいかないだろう、と古緑と孫六へ直談判をしに来た者もいたが、民草が多く住まうこの不落城を優先させた。
だが彼らは勝手に一山へと向かって行ってしまったとの報告を後日受け取り、二人は大きなため息をつくことになる。
今行っても、殺されるだけなのだ。
一山には既に異形たちが居を構えている可能性が高い。
奴らの力を知らず無策にも挑んでしまったのであれば……帰ってくることはできないのだろう。
「馬鹿共が……」
「まさか……これ程の被害を出したのが異形だと誰も信じないとは思いませんでしたよ……」
「ぬはははは! 我もまだ信じ切れておらぬからなぁ!」
一報を受けて嘆息する萩間親子と、豪快に笑う山本。
最弱と言われ続けている異形が一国を潰してしまう程の火災や地震を発生させられる筈がない。
その認識が根深すぎたのだ。
実際に怪蟲を見たものですらも『あれは異形ではない』という始末。
皆が一応に妖怪の仕業であると思っているのだ。
誰に話しても信じてくれない。
つまり、話にならないのだ。
「して山本殿の方は……」
「無論、一蹴された。此度はまれにある地震と火災が重なり合っただけ。巫女は動かさぬとのお達しだ」
「この状況を誰もが楽観視している……。父上、山本殿。滅多なことは言いたくはないですが、不落城……このままでは落城しますぞ」
「私も同じ意見だ」
置いてあった湯呑を手に取り、中に残っている茶を全て飲み干した。
すぐに孫六が茶を注ごうとしたが中には既に少量の茶しか入っていない。
湯呑の半分にも満たない量を注ぎ、諦める様にして机に戻した。
不落城の崩壊から二日。
見た目ほどの士気の低下は見られないが、やはり楽観視している民草が多い事には懸念を示さざるを得ない。
「して? 冬の風はどうなった」
山本が古緑に問う。
腕を組みながら眉を顰める姿を見て、あまりいい話し合いはできなかったと察することが出来た。
だが、どうも違うらしい。
「話はしてきた。私の言葉には耳を傾けてくれた故、他の者共よりかは話が通じる。だが……此度の冬の風は数が少ない様だ」
「数が少ない? 何故だ」
「到着が遅れている。それまでは可能な限り秋の風に残ってもらうよう通達している。……その内のいくらかは無謀にも一山へと向かったらしいがな」
「それまでに異形が攻めてこなければいいのだが」
すると山本が急に目つきを鋭くした。
カタッと脇に置いている日本刀に手をかけようとしたところ古緑が止める。
「萩間家の手の者だ」
「そうだったか。すまぬな、忍びよ」
視線を向けると、部屋の片隅に黒装束の女忍びが跪いている。
もう動けるようにまで回復したか、と古緑は安堵しながら声をかけた。
「滅相もございません」
「津留。あれからどうだ」
「ハッ。傷も癒え、本調子にまで戻りました」
嘘だな、と思ったが口にはしないことにした。
とはいえ再び顔を見られたのはいいことだ。
よほど医者の腕がよかったのだろう。
「ならばよい。また頼む」
「……早速ですが、一つ急を要する話を……」
嫌な予感がする、とこの場にいた三人は思った。
だが聞かない訳にもいかないので話を急かす。
「銀巫女、御代様の一件です」
「御代様? どうした、何があった」
「それが……何かに酷く怯えておりまして……。萩間様、お手数ではありますが御代様と話をしていただけませぬでしょうか……。結界が……脆くなっておりまして」
「それほどか」
前線の結界は御代一人で管理している。
これがあったからこそろくろ首衆は一山を突破できなかった。
だがそれが脆くなっているとなれば……非常にマズい。
古緑はすぐに立ち上がる。
これに続いて孫六と山本も立ち上がった。
「場所は」
「前線のお屋敷にございます」
「分かった。孫六は共にこい。山本殿、前線を任せても良いか?」
「無論。では参ろう」
三人はすぐに屋敷から飛び出し、前線へと向かった。
途中で山本と別れて二人で屋敷まで行くと、使用人たちがオロオロとして頼りない姿が目に入る。
萩間親子が到着したことである程度の安心を得たらしく、あからさまに表情が緩んだ。
どうやら状況は思っている以上に深刻らしい。
二人は顔を見合わせてから屋敷の中へと入る。
使用人に案内されて向かった先には……幾重もの布団をかぶさって部屋の隅で震えている御代の姿があった。
人の足音、襖の開く音一つ一つに怯えているようで、何度も声を上げている。
二人は刺激しないように近づいた後、優しく声をかけた。
「御代様。御代様。どうなされた」
「……この、声は……? 萩間様……ですか?」
「左様。萩間古緑と孫六です」
御代は名を聞いた途端に布団を全て押しのけ、古緑へと縋り寄った。
その顔は泣きはらんでおり、眉は酷く下がって常に体は震えている。
今も尚ぽろぽろと涙をこぼす彼女を宥める様に背をさすった。
「ここ、ここに、此処に居てください……! お願いします……お願いします……!」
「ふむ……。御代様、話をしてくだされ。一体何に怯えておるのですか?」
「い、以前……。以前伸びてきた……細い気配……。お、覚えて……おられますか?」
「無論」
あれは旅籠がこの地にやって来た時だったか。
御代が何かに気付いて夜に出歩いていた時だ。
細い気配が伸びてきてすぐに引っ込んだ、と聞いた記憶が残っている。
「それが、どうされた」
「同じ気配でした! 同じ気配だったのです! でもその大きさが……! 大きさが全然違って……! まるで……山の、山の様で……!!」
御代はその時の事を思い出す。
この部屋で静かに月を眺めていところ、細く長い気配が不落城に入って来た。
そしてガバリと何かが開いたのだが、その時の気配は怒りと怨みを強く持った何かであり、他にもいくらかの気配が不落城に侵入した。
この時最初に出てきた小さい気配。
体は小さいはずなのに有している力は妖の何倍、何十倍もあり、あり得ない程の強い気配が御代を押し倒した。
「あれには、勝てません……! 私の力では勝てません! 妖も、人も……あれには勝てません!」
「……妖ではない?」
「異形です!!!!」
御代が初めて恐怖した対象が異形だったことに、二人は目を丸くした。
【お願い】
広告下の『☆☆☆☆☆』より評価してくださると創作活動の大きな励みとなり、作品の今後に繋がります。
「応援したい」「続きが楽しみ」「おもしろい」
と思ってくださった方は、評価してくださると幸いです。