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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第七章 味方を求めて
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7.15.共闘


 金属がぶつかり合う音が聞こえたと思ったら、肉を切り裂く音がすぐに聞こえた。

 悲鳴すら上げられないまま斬られた人間はその場に倒れる。

 一気に動揺が広がって数歩引くと、気の弱さを感じ取った男が瞬時に間合いを詰めた。


「引き身の者は弱いぞ」


 次の瞬間、水が小さな刃となって密集していた人間に直撃する。

 散弾のように射出されたため多くの者たちに被害が出たようだ。

 何よりその攻撃力は尋常ではなく、爪ほどの大きさであるのにも拘らず腕を切り飛ばすほどの切れ味があった。


 水の異形人、継矢落水。

 飛ばした水を再びかき集めて自分の中に吸収していく。

 草花から水分を頂戴している様はやはり異質で、水気もないはずの場所から水滴が立ち上がって浮遊している。

 彼の異術の範囲内は……あり得ない程の広く、強力だった。


 だが彼の強さは異術だけではない。

 その剣術も並外れた実力を有しており、彼は未だに両手で日本刀を握っていなかった。


「ば……化け物め……!」

「言い得て妙。ほれ人間共。巫女を連れてこい。それでトントンだ」

「舐めたことを……!」

「ああ、言っておくが……。巫女を連れてトントンというのは、巫女と貴様ら全員で俺一人相手にできるという意味だからな」


 秋と冬の風連合軍が歯を食いしばった。

 ろくろ首衆に勝利して調子に乗ってしまった彼らは、異形など取るに足らないと言い放って独断でここまでやって来た者たちだ。

 彼らは今……その愚かさを理解した。

 そしてその代償を支払っている最中である。


 冬の風が遠くから飛んできた。

 何度か地面を跳ねて転がり、低木の中に突っ込んでようやく勢いを失ったらしい。

 男は既に絶命しており、胸に大きな穴が開いていた。


 びょうびょう、と鋭い音を立てながら暴れ回っている異形がいる。

 自前の槍を巧みに操って数十人を一人で相手取り、鋭い足のかぎ爪と木の義足を使って蹴り飛ばしていた。

 槍は三本目の足となっているようで、その動きは目で追えない時がある。

 身軽な体を使う戦い方。

 時々稲の髪の毛からいくらかの籾が零れ落ちる。


 カコッと義足を地面に突き立て、かぎ爪の足で義足を握って天狗のような片足立ちで静止した。

 穂先は下段に向けており、いつでも三本目の足として動かせるように待機している。


 案山子の異形、案山子夜の周囲には二十人近くの人間の死体が転がっていた。


「なんだ案山子夜。張り切っているな?」

「それは違いますぞ。旅籠様はすぐに陣を張りましょう。故にこの場は死守せねばなりませぬ。張り切る……などという安い言葉でこの場を守っているのではありませぬぞ?」

「言いよるわ」


 落水が日本刀を血振るいする様に振るうと、パッと水が浮遊する。

 案山子夜が槍の石突で地面を叩けば、ぞわっと森がざわめいた。


「「まだやるか?」」


 たったそれだけの言葉だったが、人間を恐怖させるのには十分だったようだ。

 慌てて敗走する人間だったが……それを許さない者がいた。


 逃げようとする者たちの前に、炎が着弾する。

 森を燃やすほど強い炎ではなかったが、人間一人を行動不能にするには十分な火球。

 足を止めた彼らが見たのは……世話になったこともある人物だった。


 綺麗な歩き方でこちらにゆったりと近づいて来る。

 薙刀を横に伸ばして刃先を地面すれすれで維持していた。

 たったこれだけで姿が大きく見えるのだから不思議なものだ。


 黒い瞳に真っ赤な眼球。

 ニタァと笑う口は真っ黒で明らかに普通の人間ではないということがよく分かる。


「赤雪……殿……?」


 風たちの表情が強張る。

 長年に渡り、共に城を守ってきた彼女が今……仲間を殺したのだ。


「共闘と行きましょうか。落水(らくすい)さん?」

「チッ」


 落水(おちみず)が舌を打つと同時に周囲に居た人間全員を炎が飲み込んだ。

 声にならない悲鳴を上げながら転がり回る彼らをよそに、赤雪は近づいて来た。


 案山子夜が警戒する。

 しかし落水がそれを止めた。


「良いのですかな?」

「敵ではない。こいつは異形鬼だ。鬼と人間の間に生まれた鬼人が魂蟲を喰らった存在」

「角が生えておりませんぞ?」

「切り落としたんですよ~」


 ぺろっと額当てを捲って切り落とした二本の角を見せつける。


 ボスッ……と燃えていた炎が一斉に消え去り、真っ黒になった塊がバタバタと地面に倒れ伏す。

 その内の一体を踏みつけて更に近づいて来た赤雪は落水に顔を近づけた。


「お久しぶりです~! ら~くす~いさんっ!」

「その名は捨てた。落水(おちみず)と呼べ」

「漢字は捨ててないじゃないですか」

「それすら捨てると記憶が消える。貴様もその口だろうが赤雪」

「なはは~! 名は魂を象る、ですからねぇ~! まったくむず痒いものです」


 赤雪は面倒くさそうにため息をついて空を仰ぐ。

 無駄に動きの多い女だ、と案山子夜は目を細めた。


 異形、元人間、元鬼人。

 妙な三人が集まってしまったが、一応この元鬼人は仲間であるようだった。

 落水の知り合いなので油断することはできないが……彼女の力は案山子夜にとって脅威だ。

 無論、相性だけで勝敗を決めつけるわけではない。

 だが稲はよく燃える。


 案山子夜はこの赤雪について詳しく知っておかなければならなかった。

 本当にこちらの陣営に招き入れていい人物なのか。

 なにせ……旅籠を半ば裏切ったような落水の知り合いなのだ。


「して、貴方は何故こちらに来たのですかな?」

「ん~? 落水さんと目的が近しいから。長年人間に紛れて暮らしてたから不落城についてはよく知ってるよ~。攻め落とす時は助けになるから」

「……私が独断できることではありませぬな。旅籠様に判断を仰ぎますぞ」

「異形の総大将? そっかそっか。じゃあそれていいよ~」


 軽い調子の彼女の反応に再び目を細める。

 がさ、と笠を被り直して遠目から様子を見ることにした。


「おい、赤雪。こちらに来たならば何か教えろ。今人間はどうなっている」

「攻め込むなら今なんだよね」

「何故だ」


 赤雪はにかりと笑った。


「銀巫女の御代(みよ)が怯えてるんだ」

「なににだ」

「クフフフ。あんたの妹」


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