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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第七章 味方を求めて
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7.10.鯛の刺身


 木樹に紅葉のまな板を作ってもらい、それで早速鯛を捌くことになった。

 ついでに簡易的な調理台も拵えてもらったので調理はとてもやりやすいと月芽から好評だ。


 鱗を剥ぎ、頭を落として内蔵を取り出し、血合を取って三枚に卸して皮を引く。

 確保していた湧水できれいに洗ったあと、刺身盛りを作ってくれた。

 小皿はないのでまな板の上で食べることになったが充分である。


「お待たせしました!」

「おおー……! 醤油がないのが残念だけどこれでも全然いい! いただきます!」


 箸はないので素手でいく。

 食べてみると鯛らしいこりっとした食感がした。

 しかし……味が変だった。


 白身なのでそもそも味は薄いのだが、それとは違う変な不味さがある。

 泥臭いとか、青臭いとかそういうのではなく……鉄っぽい血不味さが際立った。


「……?」

「どうですか?」

「な、なんか……んん?」

「あれ、お口に合いませんでした?」


 月芽もぱくっと食べてみると、彼女も眉を潜める。

 刺身なので月芽の技量は関係ない。

 となるとこれは……鯛が悪いのだろうか……?


「不味いですね……」

「そ、そうなんだよね……。なんだろ、これ。魂蟲でいいや……」

「私も苔がいいです」


 思ったより残念な味で肩を落とすしかなかった。

 醤油があったとしても美味しくはなかっただろう……。


 とはいえ食べないのはもったいない。

 側で様子を見ていたタマエキに食べるかどうか聞いてみると、ぽよぽよと跳ねて意思表示をしてくれた。

 手にとって食べさせてみると、スライムのような体の中に吸い込まれてゆっくり消えていく。


 見ていてなかなか面白い。

 一定の感覚で鯛の刺身を頭の上に置くと、ゆったり沈んでゆっくり溶けていった。


「……あ、あれ? なんか……赤くなった?」

「本当ですね。ほんのり赤いです」


 タマエキの変化に月芽も気づいたらしい。

 他の個体と比べるとよくわかるのだが、やはり赤みがかっている事が分かる。

 妙な現象だ……。


 体に異変はないのだろうか。

 しかしタマエキは元気に跳ねており、鯛の刺身を食べて大喜びの様子。

 ……ちょっと待てよ?


「もしかしてこれ……褒美になった?」

「あっ」


 次の瞬間、タマエキが立ち上がった。

 体内に仕舞ってあった日本刀をしっかりと手で握っている。

 上半身は人の姿に近い形を取ったようではあるが、まだ不格好で歪んでいた。

 四本の足を地面に突き刺しながら歩くようで、先っちょは鋭利に尖っている。

 アラクネに近い姿だ。


「ニッ!」


 赤いタマエキはペコリと頭を下げる。

 喋る事はできないが、意思表示が読み取りやすくなった。

 褒美をくれたことに感謝しているのだろう。


「ありゃー。やっちまった。でも鳴き声可愛いな」

「ニニッ」

「旅籠様が直接手渡してしまったことが要因でしょう。とはいえ戦力が増えましたよ!」

「他の異形たちに申し訳がたたなくなるから気を付けないとね……」


 すると、蛇髪が歩いてきた。

 タマエキを見て一度首を傾げたが、月芽が苦笑いをしていたのでなんとなく状況を察したらしい。

 小さく頷いて見なかったことにし、旅籠に話しかける。


「次に向かうのは渡村ですじゃ。二口が管理していた村ですな」

「月芽、場所は分かる?」

「はい! すぐに行けますよ!」

「よーし……皆集まれー! 移動するぞぉー!」


 呼び掛けると異形たちはすぐに集まってくれた。

 こうしてみると大所帯になったものだが、まだまだ増やさなければならない。

 今から行く村でまた戦力を増員できれば……言うことはない。


「先鋒は黒細。次に五昇が出て情報収集。情報が確定次第岩の異形たちを中心に前に出る。イワクニ、ここで活躍してね」

「ギョイニ……」

「布房、ケムジャロ、タマエキは護衛よろしく」


 三体は大きく頷いて武器を手に取る。

 この三体がいれば何が起きても問題ないだろう。


 準備は整った。

 月芽に合図を送ると、ダンッと地面を踏んづけて継ぎ接ぎを伸ばす。

 ガバッと開いた地面に黒細と五昇が飛び込んだのを確認して一時的に待機する。

 暫くすれば二人が連絡を寄越してくれるはずだ。


 十秒後。

 ひょこっと継ぎ接ぎの割れ目から五昇が顔を出した。


「旅籠様……」

「どうだった?」

「……誰も、おりません」


 五昇が口にしたのは、一番聞きたくなかった言葉だった。


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