1.1.自殺スポットの神社にて
どうもお久しぶりです、真打です。
長らく活動してなかったけど、長い時間使って書き溜めていました。
ではどうぞ、お楽しみください。
寒空の下、木枯らしが周囲を寂しく思わせる。
樹木に青々とついていた木の葉はどこへやら。
今は枯れて大地に舞い降り、還っていくのを待っている。
天高く伸びようとススキが柔らかな綿をつけて風に揺られていた。
秋の神社らしい風景だな。
ここが有名な自殺スポットとか……。
祀られてる神様は恵比寿様だぞ……。
福を届けてくれる神様だっていうのに、どうして憂鬱になりそうな名所になったのさ。
胸の内で世間から嫌な名所として認定されたこの神社を歩きながら、若い男が白い息を吐く。
ざくざくと枯れ葉を踏み、手に手帳を持ってなにかを記す。
そして首に下げていたカメラを手に取り、写真を撮った。
カメラを弄って撮影したデータを見直してみると、木枯らしの景色によく映えていた神社が鎮座している。
お、いい感じ。
私の写真術の腕も上がってきたかな?
いい写真が取れた。
しかしはたから見ると自分も自殺志願者に見えるのだろうか……。
ここに来たのはオカルトサークルの仲間内で、遊び半分でここに取材……というかネタ集めにために来ただけなんだけどな。
因みになぜ私が一人でいるのかというと……じゃんけんで負けたから。
誰もこんな所一人で来たいわけないじゃんね……。
「……白骨死体とかないよな……?」
いくらオカルト好きだといっても、怖いもんは怖い。
自分の専門は日本の神様だったり妖怪、地獄のなにそれや中国の幻獣、怪物の類いだけ。
西洋の架空の生物については専門外です。
ピリリリリ!
突然ポケットの中に入っていたスマートフォンが着信を教えてくれた。
「どぉおわああああ!?」
ビックリするに決まってんだろ!
それを乱暴に取り出し、いったい誰が連絡を寄越してきたのだ、と画面を見てみればオカルトサークルで活動している一人の友人だった。
苛立たし気に通話に出る。
「はいもしもシィ!? こんなタイミングで電話かけてくるんじゃねぇよ! ふざけんな!」
『あ、ビックリした?』
「クソびびったわ! で!? 何の用だ早瀬ぇ!!」
電話をかけてきたのは早瀬陸。
私の同級生だ。
この神社に誰が行くかを提案した張本人であり、私の数少ない友達だ。
別に長い付き合いとか、そういうわけではないのだが……。
同じオカルトサークルに所属しているので、話などが非常によく合う。
大学生らしく一緒に馬鹿をすることができる男でもあった。
なので私がどれだけ怒りに任せて文句を言おうが、それは冗談からの怒りであると彼も理解しているはずだ。
電話越しから笑い声が聞こえている。
『はははは! いやごめんごめん。ちゃんと行ってるかなーって思って』
「まったく……。まぁ私も気になってた場所だからな。で、何て名前の神社だっけ?」
『富ノ裏神社。で、で? 今どんな感じ? 白骨死体とか使用後放置された首吊り紐とかある感じ!?』
「ねぇよ」
あったら困るわ……。
見る限り手入れはされていないが、何かの死体、腐臭、縄やら刃物などは落ちていない。
発見後、速やかに回収されるのだろう。
ここは神社なのだし、そういう不吉なものとか不気味なものがあっては困るのだろうけど。
だけど……ちょっと気になったことがある。
ここまでは長い階段を上らなくてはならず、車、もしくは自転車などは入れそうにない。
死体を発見したあと、運ぶのにずいぶん苦労しそうだ。
そう考えながら周囲を見渡していると、早瀬がとんでもないことを口にした。
『あ、神社の裏手とか見た?』
「…………」
『見てね☆』
「ぶち転がすぞてめぇ」
男が可愛く言ったってなんにも可愛くない。
というか自殺スポットの神社の裏手とか死んでも行きたくないんだが?
「そんな話なかったろ!」
『ネタになるぞ! ほらもういくしかねぇよなぁ旅籠守仲さんよぉ!!』
「お前帰ったら覚えとけよ水風船背中にぶちこんでやるからな!」
『甘んじて受け入れよう……。お前が裏手の写真十枚撮ってきたらなぁ!』
「あー言ったな? いいましたね早瀬君? んじゃ撮ってくるから保冷剤二袋買って帰るわ」
『えっちょっと話が』
プツッと通話終了ボタンを押し、会話を強制的に終わらせる。
さて、帰りにコンビニに寄って保冷剤……もしくは氷を買うのは確定として……。
逃げないように助っ人を呼んでおかないとな。
だがそれは同じオカルトサークルに所属するもう一人の仲間に手伝わせればいいだろう。
女性だから力はなさそうだけど、協力すれば動きを封じることくらいは簡単だ。
さて、と一度気合を入れる様に胸を叩く。
できるだけ下は見ないようにして、神社の裏手へと回る。
冬も間近となり枯れている草を搔き分けるのは非常に容易い。
無駄に生い茂った低木もなさそうなので、そのまますいすいと奥へ進んでいく。
まぁ……早瀬の言う通りこの場所はネタになる。
自殺志願者以外誰も近寄らない場所なので、ここに訪れたことのある人は限りなく少ないだろう。
あるとすれば……仏さんを発見した人か、もしくはその処理を手伝った人たちくらいだ。
拝殿を横切り、本殿を眺めながら草を搔き分ける。
草を足で踏みつぶせばもう起き上がっては来なかった。
これによって帰り道は確保されているので、あとはカメラを手に取って十数枚の写真を収めて来た道を戻るだけだ。
「殺風景だなぁ」
富ノ裏神社の裏手は木々が数本立っているだけで、それらも付けていた葉をすべて散らしている。
乾燥して茶色くなった枯葉が、風に吹かれて地面を撫でてどこかへと滑っていく。
意外と風の通る場所だ。
長い階段を登ってきただけのことはある。
標高はそこまで高くないはずなのだが、この辺りは高い建物がなく海が見えるところだ。
風の通りがいいのも納得できる。
「……面白い本殿だな……」
この神社、本殿の裏側にも出入り口がある。
山の上にある小さな神社であれば、拝殿の後ろに本殿への入り口があり、その中へ入ると祀られているご神体が鎮座していることが多い。
ご神体の後ろは壁となっていることが基本だったはずだが……。
この富ノ裏神社には裏口が取り付けられるようにして、観音開きらしき木製の扉が設置されていた。
珍しい。
これは写真に収めておかなければ。
帰ったあとでもいいから、早瀬にこの本殿の設計について調べさせてみよう。
そんなことを考えながら、取り回しがしやすい様にカメラストラップを首から外した。
脇を締めてカメラを固定し、覗き込む。
シャッターに指をかけて押すか押さないかといったところで、バン、と大きな音が鳴った。
「え」
カシャー。
カメラ越しに見えたのは、本田の裏口から伸びて来たやせ細った老体の巨大な腕だった。
それは即座に私を捕らえた。
「う、うわああああああ!!?」
強引に引き込まれたその腕は、私……旗後守仲を握ったまま本殿の中へと引きずりこんだ。
重力に従って地面に落ちたカメラだけが、小さな音を立ててその場に転がったのだった。
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