8 人ならだれでも・けど大問題
困った。
わたしは今、猛烈に困っている。ここまでなんとか誤魔化してやってこれたけど、そろそろ限界が来そうだ。その事実は認めざるを得ない。
その事実――いや、認めたくない問題とは、生きている人間なら誰にでも生じる生理的欲求……トイレだ。
『「困った……』」
頭の中とわたしの声がシンクロした気がする。
どうしたら、どうしたらっ……!
考え込んで歩いていたのが悪かったんだろう。いつの間にか、わたしの足は思いもよらない方向へ向いていたようで――
ぼふん
「んぎゃっ」
「は!? お、王子!?」
柔らかい壁に正面衝突した・と思ったら、やけに筋肉もりもりの大きな男の人のマントだった。周りの景色も、華やかなレリーフや天井画のある豪華すぎる廊下や部屋から、もう少し簡素な柱の立ち並ぶ廊下に変わっている。柱の間からは平らな白い石畳のグラウンドみたいな広場が広がって、目の前の男の人ほどではないにしても、胸当てや小手を身に付け、剣を持った筋肉質な男の人たちが、組手をしたり、打ち合いをしたりと訓練をしている。
どうやらこれが、ちゃんとした鍛練場ではないだろうか。こんな風にちゃんと整備され、広さも充分な設備があるのに、どうして使えなかったんだろう。そう疑問に思ったけど、すぐに答えは出た。
「なんですかな? お優しくお育ちの王子が、我が隊にいくらお越しになられても、わたしが施せるのは厳しい鍛練だけです。高貴なお方の視察であっても、観光の様に上品にご案内差し上げることは出来かねます。更に場所にそぐわぬ脆弱な輩に、我らが誇りを持ち、心血を注ぐ訓練の場をふらふらと歩き回られますと、全体の士気が落ちてしまいます」
どうかお引き取りを……とまではハッキリ言われなかったけど、これは確実に邪魔にされているわね。腹の奥がカッカと熱くなるのは、きっと生理現象のせいじゃない。
『 っ…… 』
悲痛な声が、頭に響く。けど、わたしは――
「はぁ!? 失礼しちゃわ……だな!」
色々とギリギリになってきたわたしの出した声は、意外に大きく響いた。掛け声かけつつ練習してるスポ小女子なめんな。いや、それ以上に、限界間近で腹に力が入ってる今は、いつも以上に張った声がでる。
「そんなでっかい大人と、10代そこそこの子供とで、全く同じ動きが出来るわけないでしょ! 筋肉量が違うんだからさ! 子供と大人を同じ舞台に並べて比較して貶すなんて、子供よりガキね!」
びしり、と大男を指さして宣言した。