7 王子様のせいで幽閉は御免です
「はぇぇっ!?」
超至近距離からの声に、ぎょっとして大きな声が出た。当然、ちょび髭宰相だけでなく、部屋に控えていたメイドさんや衛士さんに注目されたけど仕方無いよね!
「誰っ! おかしな冗談をっ」
ふざけた子供が、後ろから声を掛けたんだと思って振り返ったけど、人影すらない。ベッドから飛び降りて、ジャンプして上を見ても人影なし。下を覗いても人影なし。
「コルネリウス王子!?」
「コルネリウス王子、お気を確かに!」
宰相以外の人たちが慌てて寄ってきてわたしをベッドの上に連れ戻そうとする。
「ねっ……ねえ! 少年の声がしたんだよ! 誰かいるっ」
姿なき声に恐怖したわたしが、必死で周りの人たちに訴える。けれど、メイドと衛士は困惑の表情を浮かべるばかりで、宰相だけが意地の悪い笑みを浮かべて口を開いた。
「コルネリウス王子、いくらお寂しくても嘘はいけません」
「は?」
「この部屋に来る少年など、居ないことはお分かりでしょう。剣術も魔術も兄君たちに劣る貴方様のために割く時間など勿体ない。そんな当然の理由は、分かっておいでですよね?」
「なにそれ」
呆然とするわたしに、宰相は慇懃に礼をすると「では私も多忙な身でありますので」と告げて退出してしまった。
『 ごめんね急に話しかけちゃって 』
「なっ」
再び声が響いて、飛び上がりかけるけど、不安げにこちらを見るメイドさんたちの反応に、ぐっと堪えた。
『 あぁ、そのまま何も言わずに私の言葉を聞いて? 君がおかしくなっちゃったって思われて、今度は幽閉されちゃうから 』
幽閉なんて冗談じゃない。わたしは大人しく口をつぐんで、見えない声の主へ了解の意味を込めてこくこく頷いてみせた。
『 よかった、落ち着いて聞いてもらえて。どうやら私は君の中に居るみたいなんだ 』
ちっともよくない!! 声の感じからいって、響いてくる声は見ず知らずの少年だ……けど、何だか聞き覚えのあるような……?
『 そうだね、君が私の体を動かしてるみたいだから。さっきから君が話す声は私の声だね 』
やっぱり―――!?
なんとなく予感はしていたものの、衝撃の告白に叫びそうになる。けど『幽閉』の二文字がポンッと頭に浮かんで、グッとこらえる。
『 君の考えてることは伝わってくるから、言葉にしなくても分かるよ 』
どうやら身体を動かす主導権はわたしにあるけれど、持ち主である王子さまの魂も一緒に在るらしい。分かったからと言ってどうしようもない事実がハッキリした。