6 ちょび髭宰相
まず、彼が王子なのにもかかわらず、人気のないところでひっそりと訓練していたこと。王子みたいな高貴な身分の子だったら、隠れてやらなくても、権力と義務があるから専門家が付けられるんじゃないだろうか。それなのに、彼には教師どころか場所も与えられなかった。しかも隠れてやらなければならない状況なんておかしい。
次に、居ないことに長時間気付かれなかったこと。放っておかれたのは昼食の時間を挟んだ半日ほどだと聞いた。つまり、昼食に現れてもいないのに、家族たちにも気にされていなかったと云うことだ。そう云えば、わたしが目覚めてからここへ来たコスプレ集団は、見た通り使用人や衛士たちだったらしい。家族は半日経った今でも一人も会ってはいない。この体の主は三兄弟の末っ子らしいから、両親と兄2人が居るはずなのだけれど。
うんうんと首をひねっていると、涙ぐんでいたメイドの一人がノックの後、室内へやって来た。
「コルネリウス王子……宰相様がご両親の代わりに様子を見に来られました。お加減も優れないところ申し訳ないのですが、お支度をさせていただいて宜しいでしょうか……」
気弱そうに伝えて来る彼女は、わたしよりも幾つか年上に見える。わたしの体調を慮って恐縮しているみたいだけど、支度を進めようとするのは断れない相手だということだろう。熱も無ければ、だるさも無いわたしにしてみれば、この世界のことを知る良い機会だ。なので、「どうぞ」と伝えれば、逆に彼女の方がさらに恐縮し、訪ねて来た宰相のことを「もう少し王子のことを思い遣ってくださってもいいのに!」などと憤慨して言うほどだった。
そして案内されて来たのは、厭味ったらしい様子の黒ちょび髭だった。
「末っ子の三男坊様は重責もなく、こうしていつまでも横になっていても咎められることも無い。優れた王族皆様の愛情を、享受されるばかりで羨ましい限りですな。王族は皆様お忙しいものです。このままお休みになられるのなら、しかるべき手続きをなさってからに願いたいものですね」
大体、この部屋に入るなり「おや?やはりお怪我など気のせいでしたか?」なんて言った奴だ。許せん。王子様なのに敬われてないだけじゃなく、良識ある大人が子供に向ける言葉でもない。もう一度言う、許せん!
『 私のために怒ってくれるのだな 』
ぷんすこしてたら、超至近距離から男の子の声が聞こえた。