11 体力と剣の腕自慢、次男トンスラの言い掛かり
目が覚めると、今日はわたしのターンだったみたいで、思う様に身体が動くようになっていた。
けど変わったこともある。
「いいか、環奈! 風呂とトイレは俺が変わるから、絶対に!」
「分かってる!」
ちなみに、今の声は二つともコルネリウス王子の口から出ているけれど、話している意識が違う。最初のが蓮で、後のがわたしだ。
『 私としては、末永く共に在る最愛の女性に全てを捧げること。それに何の異存も無いのだがな 』
「ちょっとは恥じらってください!」
どうやら、あのトイレの一件以来、わたしと蓮は自由に主導権を入れ替えることが出来るようになったらしい。コルネリウス王子は相変わらず脳内に響く声だけで、身体を動かすことは出来ないみたいだった。
そして、蓮と交代しつつ身支度を整えたわたし達は、国王からの呼び出しに応えて、国王の執務室へ向かうところだ。
「私の息のかかった近衛隊長に、随分と偉そうな態度を取ったようだな」
通された執務室で口火を切ったのは、国王ではなく、コルネリウス王子の2番目の兄だった。
そこには、父親である国王の他、次男のトンスラ王子、そして彼に寄り添う赤い縦巻きドリルヘアーの可憐な女性が同席している。吹き出しそうになったところを、咄嗟に蓮が入れ替わってくれたお陰で、コルネリウス王子自身は人好きのする愛想のいい笑みを浮かべているだけの状態だ。さすが強メンタル。
『 兄上…… 』
頭の中では、本人の悲痛な声が響いている。仲も良くないみたいだし、むしろ苦手なんだろう。表に出ているのが本人だったら、苦痛な表情になっていたことが容易に想像できる。
「トンスラ殿下っ、生意気な弟を増長させてはなりませんわ。 もし許せば、私たちの治世に、従順な臣下とはなり得ませんもの。きっちり教育いたしませんと!」
キンキンと高い声を響かせて、縦巻きドリル令嬢こと、トンスラ王子の婚約者リビアンが意地の悪い笑みを向けて来る。
「そうだな、皆の前で教育を施せば、更にわたしとの力の差を示す良い機会にもなるだろう。どうだ、近衛隊長には10年と言ったな? ならば私との年齢差は8年。釣りまで来るし、試合うに問題はないだろう?」
こちらもニヤリと嫌な笑いを浮かべて、ねっとりとした視線を向けて来た。