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何でも短編集  作者: ぬえさん
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「愛している」

 時節「愛している」という言葉が頭に浮かぶ。

愛してる、愛してる。そうやってずっとずっと誰かに向かって言っている。

 誰に向かって言っているのか想像してみたこともあった。だけど、どうやってもその相手は想像できなかった。虚空に愛を伝える脳。私の頭は一体全体どうしてしまったのだろうか。

 そうだ。迷路を進むようにゆっくり道を辿って考えてみよう。そうだな。愛しているって伝えたいってことは好きな人ってことだよね。あれ? でも、私好きな人とかいないな。じゃあ、他に愛してるって気持ちが溢れる人がいるってこと? 誰だろう。別に愛しているだから、恋愛感情がなくてもいいよね。

お母さん? お父さん? それとも猫? 仲良くしている友達? それぞれ想像して愛していると言ってみる。だけど、これだという満足感は誰からも得られなかった。

 愛してる。どうして愛しているっていう言葉なんだろう。別に好きとか大好きとかでも好意は十分に伝えられると思う。でも、愛しているじゃなきゃダメなんだ。

 どんな愛しているなんだろう。恋愛的な愛してるじゃなくて慈愛の愛しているな気がする。優しく、抱きしめて、いいんだよっていう愛している。

そんな愛しているを渡したい人。どんな人なんだろう。優しくしたい、抱きしめたい、そんな風に思う人。子供かな。でも、私には子供はいない。他に優しくしたいと思うようなのは、大切な誰かを亡くした人とか、悲しいことがあった人とか? でも、他人を抱きしめたいとは思わない。相手だって驚くだろう。

 そう考えると身近で優しくしたい人。愛している、愛。愛が足りない人? 私が愛が足りないと思っている身近な人。私が愛していない人。


 歩を進めていた足が止まる。


     ああ、私だ。


 私はずっと私に愛してるって言いたかったんだ。私はずっと私に優しくしたくて、抱きしめたくて、いいんだよって、あなたはあなたでいいんだよって言いたかったんだ。

 私の脳はずっと無意識に私を愛そうとしていた。私の心が私を愛さないから。


 黒い石に覆われてしまった地面がじんわりと歪んでいく。そして、目から重量感のある水が頬を伝わず、零れ落ちた。


 何て言葉にしたいいのか分からない。

ただ、愛そうとしない自分に対して、愛してほしいと泣いている自分がいて、それを愛そうとしていた自分がいた。

 それに全部気づいていなかったことに対して悔しさと怒りが込み上げてくる。愛せない自分に対して、愛してほしいと願っていたのに気づけなかった自分に対して、そして愛していてくれてたのに気づけてあげれなかった自分に対して。

 怒りと申し訳なさと、自分の無力さに涙が溢れて止まらない。


 ごめんね、私、愛してあげられなくて。ごめんね、私、愛してほしいと思っていたのに。ごめんね、私、ずっと愛してくれてたのに。


 私は涙を隠すように蹲って、肩を抱いた。どうして、私は一人なんだろう。もう一人私がいたら、私のことを抱きしめてあげられるのに。

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