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第二十四話  愚かな奴

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 身動きが取れない患者が立て篭もっている鉱泉病院や教会は無視して、ほぼ全ての兵士をカルダスの領主館の前へと集結させたボンパル侯は簡単に領主館を制圧できると考えていた。


「我らは正義の使者なのだ!王家に見捨てられたこのルシタニアを正しき道に戻すために立ち上がった正義の使徒である!カルダス領民に告ぐ!今すぐ領主館から出てくるのなら!我々はあなた達を傷つけない!保護する事を約束する!」


側近の男に、領民にもわかりやすいように説得を試みさせたようだけれど、反応が全くないのを確認して、大きな丸太を準備させた。カルダス領主館は南の城門が馬車が出入りするための大門となるため、ここを破れば館を制圧したも同じことなのだ。


「そおれっ!」


 ボンパル侯は小柄で頭の禿げ上がった爺だが、馬上から旗を振って自ら指示をすると、滑車に乗せられた巨大な丸太が勢いをつけて走り出す。そうしてカルダスの鉄の門へと衝突すると、上から大量の油が撒き散らされて、投下された火種によって真っ赤な炎をあげて燃え上がる。


 城門が木製ならば丸太も有用だけれど、鉄扉で出来た城門相手に大木ではあまりにも分が悪過ぎる。滑車を押して前へと出てきた兵士たちが銃弾を受けて倒れていく中、その倒れた兵士に見向きもしないボンパル侯は、

「梯子隊を前へ!」

再び旗を振って指示を出すのだが、その指示自体があまりにも前時代過ぎる。


 城壁の前は穴を掘ってぬかるんだ土を投入しているので、すぐにくるぶし上まで足がぬかるみの中へと沈んでいく。梯子を運んで走ってきた兵士たちは、城壁に梯子を立てる事も叶わずに、すぐさま後退をしていった。


 観察する限り、野砲部隊が見当たらない。


「嘘だろ・・・」


 今のところメロヴィング軍は後方に下がっていて戦闘には加わってはいない。どういうつもりで奴らがここまでやって来たのかがヴィオには理解出来なかった。



「ご主人様よ、どうやらメロヴィング側は砲兵部隊を連れてはやって来なかったみたいでさあ」


 外に出て敵の情報を仕入れてきたピオーリョは、うんざりした様子で言い出した。


「ボンパル侯は五倍の戦力だったら簡単に素人軍団など捻り潰せると考えているらしいな。ボンパル侯所有の野砲部隊が居るには居るが、進軍速度に合わせられず後方80キロの位置までようやっと来たところだってよ」


「アホだな」


 敵だってカルダスの強みは籠城戦だということは分かっているだろうに、城壁をぶち壊す野砲を待たずに戦いを始める愚かさよ。


「ヴィオ様!鉱泉病院まで食事を届けて来たけど!向こうも大きな衝突は今の所無いって言っていたよぉ!」


空のバスケットを抱えて声をかけて来たのは、アパレッシーダの末の息子のフリッツだ。この領主館には秘密の通路が幾つかあるのだが、その一つが鉱泉病院の地下まで繋がっている。


「向こうの爺どもは大丈夫そうだったか?」

「火炎瓶のアルコールでいいからこっちに回してくれってさ」

「アル中爺どもめ」


 病院の扉を開ける開けないで小さな戦闘があったようだが、大した怪我人も出さずに今は小康状態らしい。敵としては病院なんかに関わっている暇があったら、屋敷の方を先に片付けてしまいたいらしい。


「アパレッシーダのところへ行っていいぞ」

 フリッツの頭を撫でて送り出すと、ピオーリョが大きなため息を吐き出した。


「ご主人様よ、逃げるなら今だぞ?」

 ピオーリョはしっとりとした漆黒の前髪を自分の指へくるくると巻きつけながら言い出した。


「メロヴィングの野郎どもには何かの策があるんだろうよ。タイミングを待っている間は、ボンパルとかいうバカな爺の好きにさせようって事なんだろうさ」


 皇帝が居るエスパンナの王都を離れて、わざわざここまでやって来たのだ。手練れの騎兵部隊なのは間違いないだろうし、策があってこそここまでやって来たのは間違いようのない事実。その裏にはコーランクールが居るのは間違いないのだが、奴は今、姿を消していると報告が来ている。


「ルシオに私の身の安全を第一に考えろとでも言われたのか?だけど私はここから移動しないよ」

「ああ、そうかよ」


 眉を顰めるピオーリョを無視しながらヴィオは思考の中に沈み込む。

 カルダスは重要な拠点ではあるが、わざわざ五千も兵を用意して無駄な攻城戦を始める理由がわからなかった。本格的に潰したいのなら、やはり砲兵隊が連れて来るべきなのだ。


「大砲がなくても、鉄の門を開けさせる策を持っている?」

 ヴィオは顔を顰めながら言い出した。

「潜入したスパイが怪しいよな」


 カルダス領主館には、メロヴィング側のスパイが侵入しているのは間違いがない。


「ヴィオ、裏庭から侵入してきた奴らは、粗方罠に掛かっちまっているんだけどどうする?怪我をしているのも、死んでいるのも、全員ルシタニア人なんだよ。こっちも対応に困っているんだけどね?」


 数では圧倒的に不利でも、こちらには地の利がある。舐めてかかっても良いことなど何もないのは敵も分かっているはずなのだが。


 こちらの方へフリッツと一緒にやってきたアパレッシーダが声をかけて来たので、

「死体はいつも通りに塀の外に投げ捨てて、怪我人は納屋に集めておいてくれる?」

そう指示を出しながら、

「悪いんだけど、ここにベアトリスを呼んでくれるかな?」

と、お願いをした。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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