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第二十二話  ヒロイン・ベアトリス

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「ヴィオ、お嬢さんは綺麗に体を清めて、食べ物も与えておいたけれどねぇ、随分と衰弱しているようなのよ。ここに置いておくのもどうかと思うんだけど、もう、移動は出来ないんだよねぇ?」


 カルダス女性支援会の会長をしているアパレッシーダが、ヴィオを部屋に招き入れながらそう説明する。すると、使用人部屋のベッドに寝かしつけられていたベアトリスが、真っ青な顔でヴィオの顔を仰ぎ見たのだった。


傍から見てもわかるほどに怯えた表情を浮かべながらガタガタと震え出すとベッドから転がり落ちるようにして床に座り込み、額を床に押し当てながら頭を下げた。


「いったいどうしたんだい」


 びっくりした様子でアパレッシーダが近づくと、ベアトリスはあからさまに怯えながら、

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

怯え、震え、憐れみを乞うような涙声で訴える。


 隠し部屋から解放された女性を介抱していたアパレッシーダには、彼女が完全なる弱者で、ヴィオが彼女を今から痛ぶろうとしている悪役にしか見えないだろう。


「私が悪いんです!悪いってわかってます!だからもうやめて!」


 彼女の魂胆は丸わかりです〜。

 本物の公爵令嬢が現れたわけだから、偽物なのにのうのうと領主館で生活していたお前は誰なんだってなるわけで、少しでも自分の立場を良くするために、アパレッシーダの前で悪者認定をするつもりなんでしょう。


「きゃあああ!やめて!やめて!やめて!」


 ヴィオが一歩近づくごとに、怯えて泣き叫び、悲劇のヒロインさながらの庇護欲をそそる表情を浮かべた。ここにアパレッシーダではなく、男の世話役の人間が居たとしたら、ベアトリスは何かの事情があって、こんな事をしていた可哀想な人認定をされるだろう。


 彼女を責め立てようとするヴィオは悪い人、という感じで認識を塗り替えられる事になる。


 ベアトリスの胸ぐらを掴むと、ヴィオは頬を平手で殴りつけた。

 もう一発、平手で殴りつけると、ベアトリスはわーっと声をあげて泣き出す。


 アパレッシーダは止める事もせずに、大きなため息を吐き出すと、扉の近くに椅子を置いてどかりと音がするような大きなお尻を降ろして座り込んだ。


「喉が渇いた?衰弱してるだって?たった一日二日でしのごの言っているんじゃないよ。男に陵辱されただ?相手をするのはたった一人だったんだろ?」


 もう一度、頬を殴りつける。


「お前が私と入れ替わったわけだから、私は奴隷商人とやらに売り飛ばされるわけだよ。お前にだって十分に理解できるだろ?売り飛ばされたらどうなるかってさ」


ヴィオの言葉を聞いたベアトリスはぴたりと涙を止めると、短く髪の毛を切ったヴィオの顔を真っ青な顔で見上げた。


「奴隷商なんて聞いてない」

「尋ねなかっただけだろ?」

 もう一度、頬を殴りつけると大声を上げた。

「これくらいの事で、グダグタ言ってんじゃねえよ!お互い同じ境遇のタンポポ友の会だろ!」

「タンポポ友の会ってなによ!」


 髪の毛をぐちゃぐちゃにしたままベアトリスが怒りの声をあげた。


「訳わかんない!全然意味わかんないんだけど!」


「タンポポ友の会ってのはな、国旗にライオンを使っているあの国のクソ野郎が、ヨーロニアのあっちこっちで種を飛ばして歩いた所為で、現地で生まれて育ったタンポポが集まって協力しようぜという意味で結成された会の事なんだよ」


 タンポポは花の形がライオンの鬣みたい見えるからライオンと掛けてよく使う花となる。風に乗って遠くまでタネを飛ばすしね、洒落た名前を考えたもんだ。


「あんたの他に会員なんていないじゃないのよ!」

「ラムエスブルグ家の姫の一人が会員だよ」

「なっ!」


 ラムエスブルグ皇家は高貴なる血筋の家だからね、あそこまで飛んで行ったの〜って感じだよ。


「そういうお前も会員だろ?仲良くしようぜ」

 そう言って腕を掴んで引き起こすと、

「お屋敷で見たお嬢様じゃない・・・」

ベアトリスは愕然とした声を上げた。


「私はタンポポ友の会の副会長だぞ?タンポポはいくら踏まれても絶対に屈しない、雑草魂を持っているからな」

「会長は?」

「ラムエスブルグの姫君だよ、中にはオラスムニアの姫もいるぜ。年齢は私より上だしね」

「じゃあ、私はみんなの子分でいいわ」


 ベアトリスはあっさりと降伏宣言をした。


「お前はタンポポに誓えるか?」

「はあ?」

「これ以上、敵国に寝返るようじゃ困るんだよ」

「だから、タンポポってなんなわけ?」

「種を飛ばして歩いたクソ野郎が皇帝派として動いている」


「はあ?」

 ベアトリスは琥珀色の瞳に怒りの炎を燃やすと言い出した。

「だったら絶対にメロヴィングに協力はしない」


 お前の母はクソ野郎を待ち続けたものな。他の男に組み敷かれながら待って、待って、結局は、娼館で悲惨な最後を迎えたんだから、お前はそう言うだろうとは思っていたよ。


「我らがタンポポと同じ意見で良かったよ」


 ヴィオはベアトリスと握手をした。


「ここでは私をお嬢様と呼ぶなよ?私はお前に名前を奪われたので、ヴィオ・アバッシオと名前を変えている。コメルシオ商会の会長で、ルシタニア国軍で働くアバッシオ少尉となっているからな」

「全く意味がわからないわ」

 ベアトリスは視線を左右に彷徨わせると言い出した。


「あの・・本当にごめんなさい・・私・・貴女が奴隷商人に売られるだなんて本当に知らなくて・・・私なんかよりも、よっぽど辛い目に遭っていたなんて・・・」

「ああ、奴隷商人には売られていない」

「はあ?」


「入れ替わりをした後に、殴り倒して、武器も服も馬も奪って逃げ出したからな。弱い奴らで良かったよ」

「わ・・わ・・私の反省の気持ち・・返してくれない?」


「お前な、私と身分を入れ替えるだなんて相当な事なんだぞ?ヒロインに言われてやったにしても、今まで処分なしなのは私のお陰なんだからな?敬ってくれてもいいんだぞ?」


「敬えない・・全然敬えそうにないんだけど・・・」

「なんだ?ベアトリス?うん?何か言いたいことでもあるのか?」

「ないです・・・」


 ベアトリスが黙り込んだのを確認すると、


「それじゃあ、この娘は台所で働いてもらうんでいいんだよね?」


よっこいしょと言いながら立ち上がったアパレッシーダが問いかけてくる。

「ああ、こき使ってやってくれよ」

 ヴィオの言葉に、ベアトリスが頬を引き攣らせた。



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