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第十一話  急展開にも程がある

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 最愛の人であるイーリャの額に口づけをしたフォルハス将軍は、カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めながら起き上がる。


 ルシタニア王家が貴族や官僚、商人や守護兵士を連れてコンドワナ大陸に移動して以降、戦争省長官という職を与えられ、軍の全てを任される事となったが為に、頭を悩ませる日々が続いている。


 今日もやる事が山積みで、

「あなた、もう目が覚めたの?」

しっとりした色気を漂わせながらこちらを見上げる妻を見下ろして、その唇に自分の唇を重ね合わせる。


「何を考えていたの?」

「ヴィトリアの事を考えていた」

「ヴィアはカルダスに向かったのよね?」


 妻は頬を赤く染めながら憂いの瞳を向けて、

「手紙にはヴィアの婚約者がペリグリン様だという事になったというのでしょう?本当にそうなってしまえば良いのにね」

と言ってホッとため息を一つ吐き出した。


 普段、いくら仲良くなったとしても、ある一定の距離を取って行動をするヴィトリアが、

「すっごい人を見つけたんだよ!」

と、瞳をキラキラさせながら言い出したのは、メロヴィング軍が我が国に攻め込んできた真夏の暑い日のことだった。


「野砲の扱いがめちゃくちゃすごいっていうか、ちょっと指示を出しただけで敵方へ砲弾が落っこちていく。元々、港湾に停泊中の船の砲撃が得意だっていう話は聞いていたんだけど、天才か?奇跡か?ってくらいの腕で、さすがインディな帰りっていうの?スゲーーッ!マジでカッケーッ!」


 その技倆を見込まれて准将の地位に就く陸軍将校は、司令官として派遣されたウェストウィックの秘蔵っ子と呼ばれる人物で、閣下についてインディナの戦線に参加して名をあげたという人物でもある。


ウェストウィックがルシタニア王国に送り込む諜報員がペリグリン・グレヴィル・プレンストン准将であると聞いた時には、

「ちょうどブリタンニアに行く用事があるし!行きまーす自分が補助要員として参加しまーす!」

と、ヴィトリアは飛び上がりながら名乗り出た。


 准将に対する憧れが凄いなと呆れ返っていたら、

「貴方、行かせましょう。アンドレを付けておいたら心配ないわよ」

と、妻が言い出した。


「あの子があんなに夢中になるなんて、愛の匂いがぷんぷんするわ」

 妻は愛とか恋とかいう話が大好きなのだ。


「若い娘の憧れは恋に転換しやすいのよ?ヴィトリアにもようやっと遅めのラブが訪れるなんて!母として感無量だわ!」

「そうなのだろうか・・・」


 憧れは憧れで終わるんじゃないのかと思ったが、機動力のある商会の人間が絡んだ方が動きやすいだろう。そう考えて、ブリタンニアにヴィトリアとアンドレを送り込んだのではあるが、こんな事になろうとは思いもしない。


「閣下が求めていたのがヴィトリアだなんてなあ」

 もっと早く言ってくれれば良かったのに。

「ねえあなた、思惑のすれ違いなんてテンプレ展開そのものじゃない」

 妻の言っている言葉は時々わからない。


「ハーッ、とにもかくにも、ムーア将軍が早いところ正気に戻って兵を引き返してくれれば良いのだが、ペリグリン殿は間に合うのだろうか」


 メロヴィングの指揮官はヘボだが、皇帝は決してヘボではない。アレクサンドルが率いた途端にメロヴィング兵の士気は高くなる。命令系統も簡略化され、全ての人間が皇帝の意思に従って動き出す。


 決して侮ることなど出来ない状況だというのに、ブリタンニアのムーア将軍はのこのこと自軍を率いて北へと向かう。ブリタンニアへ密使を送り、将軍を止めるように願い出てはいるものの、音沙汰なしのまま今に至る。


「サブヒロインが当て馬となって悪役令嬢とヒーローが盛り上がるなんてありがちな展開じゃない?私、ワクワクしてきちゃうわ!」

「君は呑気でいいねえ」


 絶対にここから動かないと言ってルシタニアに居続ける妻の姿を見下ろすと、やっぱり安全のため、新大陸へと移動させなくてはいけないという思いと、絶対に側から離したくないという思いがせめぎあう。


「二人でカルダスを脱出してムーア将軍を止め、大勢の命を救ったみたいな展開がいいわよね?」

「それもいいが、二人でブリタンニアに移動して結婚して幸せになるという展開でもいいんじゃないか?」

「まあ!もう結婚までいっちゃうの?」


 妻との戯言はどこまでも楽しい。



     ◇◇◇



 恋だの愛だの言われているなどとは知りもしないヴィオは、馬を走らせてカルダスの一つ手前の街であるガエリラスまで来ていた。ここから右に曲がればカルダス、左に曲がればオビドス、二つの街は馬で走らせれば1時間とかからない距離にある。


 小さな商店の前でタバコを吸っていたピオーリョはヴィオの姿を見ると立ち上がり、

「ちょうどご主人様が通りかかるっていうんでお迎えにあがりました〜」

と、言い出した。


 しっとりとした黒髪でそれほど背が高くもないピオーリョは顔色の悪い男で、今日は弟を連れず一人で待ち受けていたらしい。


「ルシオから手紙を受け取ったよ、ペリグリンさんはカルダスの領主館に行って、レイチェルさんはオビドスの修道院で待っているんだろう?」


 馬から降りながら問いかけると、ピオーリョは答えた。

「弟のケイショは悪目立ちをするんで、女と一緒に修道院の方に置いてます」

「それで?ペリグリンさんはヴィトリア嬢に会えたのか?」

「そこが良くわかんねえんですけど、ご主人様がヴィトリアで、領主館に居るのもヴィトリアなんでしょ?」

「名前が一緒なだけだよ」

「姓も一緒なんて事があるんすかね」


ヴィオは顔を顰めた。


「話せば長くなるから今、説明している暇はないんだがな」

「それじゃあ、ありのまま、起こったことを説明しますけど、カルダスの領主館に居たヴィトリアは行方不明となりました」


「はあ?」


「ベッドは血まみれ、本人の姿は見えねえ。おそらく殺されたんじゃないかと言われています」

「なんだって?」


「更には、同じ時間帯に領主館を取り仕切るババアも殺されました」

「はあ?」

「これは遺体が残されています。胸をひと突きだったみたいで、ババアを刺したナイフと思しきものが、ヴィトリアの使っていた枕にぶっ刺さっていたみたいです」

「なんだって?」


 意味がわからない、どういう事だ?


「それで、二人を殺した犯人はペリグリンさんだっていう事で、今、奴は領主館の地下倉庫に囚われておりまして」

「はああああああああ?」


 マジで意味がわからん。

 どういうことだ?


「それでどうします?これからカルダスに向かうか、オビドスに向かうか、とりあえずペリグリンの野郎は生きています」


「どうしてそんなことになってるんだよ!ペリグリンさんは早急にエスパンナに行かなくちゃいけないのに!」

「そんな事は知りませんや」


 ぶっきらぼうに答えるピオーリョの顔を見つめると、

「メロヴィングの作戦じゃねえ?」

「マジこれ1万7千のブリタンニア人、見殺しの刑じゃない?」

と、二人の部下がヴィオの後ろで言い出した。



ここまでお読み頂きありがとうございます!

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