第三十四話 一緒に行こう
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本当にピオーリョって有能だよなあ、込み入った話になると分かったら、さっとレイチェル嬢を連れて行ってしまうんだから。レイチェル嬢はなんか大きな声で文句でも言っているようにも見えたけど、何を言っているのかは良くわからない。
すまん、こっちも仕事なのだ。イチャイチャするなら後で存分にしてください。
「ヴィオ、それでヘンリーの手紙についてなんだけど」
「はい?」
「ヘンリーはコーランクールに殺された訳だろう?だったら、何故、殺された時にコーランクールに手紙を押収されなかったのかなと思って」
ペリグリンさんは真面目だな。愛しい女性が目の前にいても、仕事については忘れないだなんて。
「ペリグリンさんは手紙について聞きたくて、わざわざ教会までいらっしゃったんですね?これはうちの諜報活動にもつながるので内密に願いたいのですが」
「うん、内密にする」
「ルシタニア王国では伝文を秘密裡に運ぶ時には、紙をこう、こより状にいたしまして」
ヴィオはポケットに入っていたメモ紙をくるくると巻き込んでコヨリ状にしてみた。
「これを襟の間に仕込んだり、髪の長い人は髪紐と一緒に結んだりして運ぶのです」
「へー、初めて見たよ」
「我が国は幹線道路を中心に道路を整備していて、馬車でもスムーズに移動しやすくしています。大小の都市に郵便局を設けて郵便事業に力を入れるようにもしています」
「うん、画期的だよね?」
「画期的だとは思ったんですけど、重要な書類なんかを郵便局内で荒らされるという事が何度か続いたんです。それで、特に重要な暗号文なんかは手紙に仕込まずに、こういう風に利用するようにしたんです。そのことをヘンリーさんは知っていたようで、襟の間に仕込んでいたのをピオーリョが見つけたみたいです」
「そうか、あの暗号文はメロヴィング以外の手に渡ればそれで成功だっただろうから」
「そうですね、あの手紙がなかったら、我々は指を加えて取引現場を見ているより仕方がない状況に陥っていました。彼が残してくれた手紙のお陰で、ウィリアム殿下を引っ張り出す事に成功したのですから、彼は間違いなく英雄ですよ」
「そうか・・そうだな・・・」
ペリグリンは感極まった様子で、鼻を啜理ながら海を眺めた。
丘の上に建つ教会から眺める町の眺めは美しい。
太陽の光を反射させながら白い泡を無数に弾けさせる紺碧の海の上を、白い帆を張った戦艦が滑るように移動していく。
しばらく二人で海を眺めていると、馬に乗って坂を駆け上がってきたルシオが私たちの前で馬を停止させると、
「ヴィオ兄、うちの商会の人間から連絡が入った」
と、言い出した。
「コーランクールはやっぱり外洋を泳ぎきって西の浜辺から陸に上がったようだよ!」
「そうか」
やはり外洋を泳ぎ切ったか。
入江は断崖絶壁に囲まれているため、入江から脱出するには、蟻の子一匹通さぬ警戒網を敷いている浜辺からの上陸を果たすか、外洋を泳いで自力で這い上がれる場所を探すかのどちらかとなる。
日が登ってからも浜辺にコーランクールの姿は現れなかったため、溺れて死んだか、泳ぎ切ったかのどちらかだろうとヴィオは考えていたのだが、まんまと皇帝の懐刀は逃れ切ったということになるのだろう。
「ブリタンニアの王子らしき人物たちは南へ、エスパンナ方面へ馬車で移動しているし、コーランクールはルシタニアの北部へ向かい始めたみたいだけど」
「捕まえられそう?」
「無理!軍用馬を用意されていて、もう追いかけられない」
「ルシタニア国内を北へ向かったんだよね?」
「そうだよ」
北といえば王都リジェがあるが、おそらくコーランクールは王都など目指さない。おそらく向かうのは、異母妹ベアトリスが居る女王領カルダス。
「この事、バンデイラ要塞の方へは?」
「他の奴を報告に向かわせた」
「そうか、ありがとうルシオ」
コーランクールが外洋に逃げ出すことも考えた為、近くの浜辺に監視の人間を置いて待ち構えてはいたのだが、一番配置人数が少ない入江から陸に上がったようなのだ。
こちらも馬を用意してはいたが、軍用馬を使われては太刀打ちできない。
コーランクールを捕まえるチャンスだったけれど、やはりうまくはいかなかったようだった。
ウェストウィック閣下からは、武器の横流しの摘発と、ルシタニア人女性をブリタンニアまでお連れする手助けを頼まれている。
ヴィオはその女性が王都からもほど近い、城塞都市オビドスに居るという報告を受けている。
「ペリグリンさん、不穏な動きもありますし我々はウェストウィック閣下の大事な人を保護するために、今すぐオビドスへと向かおうと思うのですが、いかがでしょうか?」
オビドスはカルダスの隣街だ、途中でベアトリスに会うために別行動をしても問題ないだろう。
「うん、僕はそれで構わない」
「移動の際には、先ほど一緒にいらっしゃったレイチェル・ワトソン嬢もご一緒したらどうかと思うのですが」
「レイチェルを?」
「ええ、その方が知らない人間にブリタンニアまで連れて行かれるよりも、良いのではないかと、レイチェル嬢も安心して移動されるではと配慮したのですが」
愛する女性と一緒に移動だぞ!さあ!喜べ!そして有難がって私を敬うがいい!
ヴィオは胸を張ってふふんと鼻を鳴らしたのだけれど、
「なんでレイチェルを?」
と、ペリグリン自身が納得出来ていないらしい。
とりあえず、ヘンリーの手紙に名前が載っていたこともあるので、スパイ容疑があるうちはコメルシオの商船には乗せられない。こちらとしては、リジェの港に行って、ブリタンニア海軍の船で帰してしまいたいと考えている。
「だって、ペリグリンさんと非常に仲が良さそうだったじゃないですか!」
ヴィオのダメ押しに、
「はあ・・・」
と、ペリグリンは気の無い返事をかえした。
何故に?解せぬ!
「ペリグリンさん、おそらく僕たちと来た方が彼女は安全だと思いますよ」
ルシオもレイチェル嬢は一緒に移動に同意らしい。
「彼女はペリグリンさんの御実家で雇われていたと聞いておりますし、その方が彼女も、娘さんが誘拐されて心配しているご両親も安心するんじゃないですか?」
ルシオが理路整然と説明する。
ルシオは十二歳なのにしっかりしているなあ。
ペリグリンは少し考えたようだけど、
「そこまでご配慮いただきありがとうございます、さすがルシタニア陸軍といった所でしょうね」
苦笑を浮かべながら答えた。
「それじゃあ、ピオーリョ兄弟も連れていこうかな」
「あ、それ、僕も思っていました」
ルシオも同意見らしい。
ピオーリョ兄弟は使える、特に兄の方はかなり使える。
「ピオーリョ!話があるんだが!」
レイチェル嬢に捕まったままのピオーリョはこちらを振り返ると、本気で嫌そうな感じで顔を顰めて見せた。
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