第三十三話 お兄様はお好きなのでしょう?
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「レイチェルさん、用意した服は着れそう?大丈夫かしら?」
「大丈夫ですぅ!ありがとうございます!」
陸に上がったずぶ濡れの淑女たちは荷馬車に乗せられて、一番高い丘の上に建つ教会へと移動した。誘拐された淑女たちが怯えないようにという配慮から、教会の建物の中には男たちは一切入らず、外で警備をしてくれているのだった。
体を洗い、衣服を着替えたら、スープとパンが配られた。少しでも体を横に出来るようにと言って、毛布とシーツを貸し与えられたのだった。
「あのお、どうしてルシタニアの人達は私たちに、至れり尽せりしてくれるですかあ?」
レイチェルが通りかかったシスターに問いかけると、シスターはちょっと驚いたような顔をしながら振り返り、親切に答えてくれたのだった。
「私らはいつでも、どこでもこんな風に、女性の保護に乗り出しているんですよ」
「ええ?」
「私なんかはポルトっていう北の街の教会にいたんですけどね、昨年の戦争がはじまるっていう時期に、南まで船で移動してきたんですよ。どうしても戦争になると被害を受ける女性や子供が多くなるからね」
すると通りかかった痩せた修道女が言い出した。
「戦争ってなると、今のあなた方みたいに、若くて綺麗な女性がまず狙われるのよ。子供も連れて行かれてしまう事が多いしね、それで年寄りなんかは面白半分に殺されてしまうのよ。まあ、面白半分に凌辱されるよりかはマシかもしれないけれどね」
「そういったわけで、王家とコメルシオ商会が協力して、戦いが始まったら老人、女子供はすぐに避難できるように、避難基地って私たちは言っているんだけど、そんなものを作り上げてくれたの。商会の倉庫や工場、教会なんかを中心にして作ってくれたんだけど、やっぱり助けきれない人間も多いし、女なんか連れて行かれた日には、目も当てられない有様で帰ってくるの。そんな女性たちを保護するのがコリント教ルシタニア修道女会の役割なのさ」
「この世界は男を中心に回っているようで、とかく私たち女性の人権が蔑ろにされているのです。神は一人の男神を選びましたが、その男神を支えるのは何も弟子ばかりではありません。我々女は子供を産み、育てる事で世界を支えているのです」
全体を見て回っていた一番年寄りの修道女様は足を止めて皆を見回すと、
「私たち女も、子供も、何も物言わぬ、姿見えぬ人々にしてはいけないとある方がおっしゃいました。その意見にルシタニア王家の方々も同意してくださったのです。尊き方々は新天地へと居を移しておりますが、今も遠い地から私たちを導いてくださっているのです」
そう言ってシワシワの顔をクチャリとさせて、にこりと笑った。
わからないわ・・わからない・・本当にわからない〜!
戦争が色々なところで起こっているっていう話は聞いた事があるわ!だから、軍の人たちは銃を持って戦いに行くのよ!ちょっと前には船の戦いで大勝したって聞いたわ!さすがブリタンニア海軍だって思ったもの!
だけど、戦争ではたくさんの人が死ぬし、たくさんの人が泣くことになる。戦争って本当に良くないって思っていたけど、そこで女性や子供が大変な目に遭うなんて考えたこともなかったわー!
レイチェルは保護された女達のようにとても眠ることが出来ず、少しだけ外を見て回りたいという欲求のままに立ち上がると、教会の外へと抜け出したのだった。
すると、後から肩をたたかれて、
「ヒャン!」
レイチェルが後ろを振り返るとペリグリンがいたのだ。
「教会にヴィオが来ているって聞いたんだけど、レイチェルはどこに居るか知っているかい?」
そうして、優しく問いかけて来たのだった。
◇◇◇
ルシタニア王国南部地域での任務は完了した。
次は公爵令嬢であるヴィトリア・デル・フォルハス嬢を、悪感情を抱かれないように配慮しながらブリタンニアへお連れしなければならない。
メロヴィング側の意図としては、三国同盟を結んでいるエスパンナとブリタンニアの分断を煽るために、ブリタンニア海軍が運ぶ武器弾薬の横流しを水面下で押し進めた。
おそらく最初は下っ端兵士による微々たる横流しだったのだろうが、そのうちに軍の幹部から海軍卿まで引き込んでの大々的なものとなってしまった。手遅れとなっていれば、ブリタンニア海軍は敵国の指揮下に落ちていただろう。
ヘンリー・ベルナドッテがラゴス入りしていた事と、ペリグリン自身が武器横流しを摘発するためにラゴス入りしていたことが重なったのは、神の差配とも言えるかもしれない。
もしブリタンニアの戦艦を使って第二皇子となるフリューゲル殿下がアルジェイーナへと向かっていたら、スキャンダルどころの話ではない。ヘンリーは英雄と称えても過言ではない。ブリタンニア王国としても、ここが大きなターニングポイントだったのは間違いない。
今後の行動をお互い話し合う為に、ペリグリンはヴィオを探していたのだが、
「教会にヴィオが来ているって聞いたんだけど、レイチェルはどこに居るか知っているかい?」
たまたま異国で再会した乳母の娘ははしゃいだように言い出した。
「まあ!お兄さま!ちびっ子将校様に会いにいらっしゃったのね!まあ!まあ!まあ!お兄さまがちびっ子将校様を気になさるなんて!ラブね!」
「レイチェル、ヴィオはああ見えてもルシタニア陸軍の少尉様なんだから、ちびっ子将校という呼び名は不敬と取られる事にもなるんだから、やめたほうがいいよ」
「そ・・そ・・そうですわよね!」
レイチェルは口をモゴモゴ動かすと言い出した。
「わかりました、ヴィオ様がどこにいるのか探してくればいいんですよねぇ?ペリグリンお兄さまが愛する人ですもの、即座に見つけて参りますわぁ」
「は?」
「だって、あんな風に海に飛び込んで追いかけていたじゃありませんかぁ」
レイチェルは腰をクネクネくねらした。
「いっつもタンパクな態度、無関心そのもののお兄様が、あんなに必死になって追いかけていくだなんてぇ、私初めてお見かけ致しましたわぁ!つまりはそういうことってわけですわね!」
そういう事ってどういう事だ?
「あ・・でも・・お兄さまったら・・・」
レイチェルは何かに考え至った様子で、大きな紺碧の瞳をきょときょとと動かすと、唐突にペリグリンの両腕をつかんで、
「お兄さま!あの・・私・・・」
両目をうるうるさせながら見上げてきた。
レイチェルは乳母の娘で、彼女が赤ちゃんの時から知っているけれど、とにかくドが付く天然でおバカキャラなのだ。見かけは美しい娘に成長したのだが、中身がおバカすぎて、ペリグリンの実家でもペット枠で温かく見守られている。
「また、何を言えば良いのかわからなくなったのかい?」
「質問したい事は決まっているんです!だけど言い出しづらいんですぅ!」
と、真っ赤な顔でレイチェルは言い出した。
ペリグリンが本気で困り果てていると、
「ご主人様よ、そろそろ出て行ったらどうなんだい」
というピオーリョの声と、
「邪魔したら悪いだろ!」
というヴィオの声が教会の壁の向こう側から聞こえてきた。
どうやらレイチェルの力を借りずにヴィオを見つける事が出来たらしい。
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