第二十三話 対峙
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「あははっははは!」
コーランクールは堪えきれないといった調子で高らかに笑う。
ヴィオはこの男を、いつも遠くから観察するだけに留めていた。背が高く、筋肉質ではないものの、すらりとした体型の持ち主で、鼻筋は通り、薄い唇が酷薄な性質を表しているように見えた。頭上の炎を浴びて漆黒の髪がキラキラと輝き、翠色の瞳が仄暗い怒りで燃えているように見える。
ひとしきり笑ったコーランクールは言い出した。
「ストーリー通りに進まない時には悪役令嬢の影ありか!まさにその通り!お前の所為でことごとく上手くいかない!」
「え?もしかして前世知ってる系?ゲーム知ってる系の人?」
彼も前世の記憶を持っているという事だろうか?ヴィオの問いかけに大きなため息で応えると、
「やはりコンプリ経験者とやらか、煩わしい」
コーランクールは苦虫でも噛んで飲み込んだような表情を浮かべて言い出した。
「私は前世持ちではないが、この世界の理については説明を聞いている」
「もしかしてベネディッタ嬢から聞いたの?」
「娘の事を知っているのか!」
ケースを抱えてコーランクールの後ろ隠れていたボルボーン男爵はよろけるようにして前へ出ると、
「娘は?娘はいったいどうしているんだ?コンドワナに連れて行かれたんだよな?」
と言い出した。
「娘がどうなったのか教えて欲しかったらこっちに来てよ!」
ピオーリョの合図を受けて、ケイショが海に飛び込んだ。これでここに残ったのはピオーリョとヴィオだけだ。
「娘は生きているんだよな?なあ?」
ジョゼリアン殿下の暗殺がばれて即座に自分だけ逃げ出したくせに、見捨てた娘の事は気にかかるらしい。
「大きな声では言えないからこっちに来てよ!そしたら教えてあげるからさあ!」
「娘は・・娘は・・・」
よろよろと前に進み出る男爵の首根っこを掴んで引き戻したコーランクールは、男爵の頭に銃口を突きつけながら言い出した。
「そういうお前がこちらの方まで出て来い!」
「はあ?」
「男爵を殺されたくないだろう?」
「はあああ?」
「お前らはこの男から引き出したい情報があるだろう?自らの手で報復したいと思うだろう?ここで俺が殺したら、復讐とやらが頓挫することになるが、それでも構わないというわけか?」
ヴィオは思わずあんぐりと口を開けっぱなしにしてしまった。
本当にバッカじゃないの?お前が殺したって何の問題もないっつうの!本当は生かして連れて行きたいけど、絶対生かしておきたいってわけじゃないっつうの!というか、お前自体もこっちは積極的に殺してやりたいと思っているんだよ。
ヴィオが貧乏ゆすりをしながら心中で文句を吐きまくっていると、コーランクールは蔑んだ眼差しをピオーリョに向けた。
「ピオーリョ、私はこいつと個人的に話がしたいと言っただろう?何故、船室に監禁しなかった?」
「はあ?船室に監禁とか言われましたっけ?」
ピオーリョは飄々と答えながら、コーランクールの後に控える護衛に標準を合わせて、拳銃を構えている。
「あああ、本当に鬱陶しい」
忌々しげなコーランクールの声に反応するように、大砲の発射音が湾内に鳴り響く。
「ヴィトリア嬢、全ては決まっている事なのだよ。ルシタニア王国はメロヴィングに隷属し、従順な関係性を築くことによって、戦争で生じる死者数を極端に減らす事が出来る。ヨーロニア統一を果たした我々にブリタンニアは何も出来ない。全てが我々の支配下へとくだり、平和が訪れる事となっているのだ」
最短ルートの事を言っているのか?
「お前がルートを外れる行動を起こす事によってどれだけ多くの人間が死ぬことになるか分かっているのか?」
「はあ?なに言ってるわけ?」
「本来であれば、ジュドー将軍の指揮の元、ルシタニア王国は制圧出来るはずだったんだ。だがお前は運命を狂わせた。ブリタンニアの兵士を自国へと招き入れ、国土を戦地に変える事を厭わず、多くの民を犠牲にする事を安易に選択した」
「バカ言わないでよ!あんたらメロヴィング軍は早々に負けを認めて、停戦協定を結ぶ事を選んだんじゃない!結果的にはお前らの負けだろ!」
「最初の一戦は確かに負けを認めよう。だが、そのたわいもない一勝を手に入れたが為に、20万の兵士がイムラス半島へ侵略を進める事が決定されたのだ。いったいどれだけの人間が恐怖を味わって死ぬ事になるだろうな?」
コーランクールは嘲るように笑いながら言い出した。
「全てはお前の所為だ、お前が正規のルートを進まないから、多くの人間が死ぬ事になる。お前の所為で女も子供も年寄りも、軍に志願した若者だって死んでいくだろう。さすがは悪役令嬢、えげつない選択をするものだとつくづく思うよ」
ヴィオが怯むようにして一歩後に下がると、その様子がおかしいことに気がついたピオーリョが、気遣うように声をかけてきた。
「ご主人様よ」
「うるさい!」
「騙されんなよ」
ピオーリョに顔を向けたヴィオは、激しく動揺にしている自分自身に苛立ちを感じながら唇を噛み締めた。
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