第二十二話 ちびっ子将校頑張って!
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「船の構造って良くわからないわあ!」
どこがどう通っているのか分からないまま、縄梯子を登り、小さな穴を潜りながら、なんとか梯子を登り切ると、そこは甲板だったのだ。
ああ!良かった!パニエを破り捨ててきた甲斐があったわぁ!元のスカートのままだったら、絶対に縄梯子は登れなかったわ。
レイチェルが甲板の上で飛び上がって喜んでいると、砲弾を受けた船はマストをへし折られながらグラグラと大きく揺れている。見れば、船の至るところが火を噴いている。
ドォーーーン!ドォーーーーン!
船が停泊した場所は、崖に囲い込まれるような形の入江で、大砲の轟音がわんわんと大きな反響を起こしている。
「お嬢さん、こっちだこっち、はい、この板を持って」
「えええ?板ってなあに?」
「この板さえ持っていれば、海に落っこちても浮いていられるからな?絶対に離すなよ?」
「えええ?なあに?やっぱり海に落ちなくちゃいけないのお?」
逃げるには海へ、行動は迅速に、と言って、スカートの軽量化を進めていたものね!
「私、泳いだ事ないんだけどぉ」
「みんな、そう言ってるよ」
レイチェルの腕を掴んだ黒髪の男は、大きな板を抱えさせると、まるでお姫様のように抱っこして持ち上げたのだ。
胸が思わず胸キュンッだわ!だって、お姫様みたいに抱っこされた事なんて今まで一度も経験した事がないんだもの。キュンッキュンッキュンッ!
レイチェルの胸はキュンキュンドキドキしていたものの、
「きゃあっ!いったああい!」
床に落っことされてキュンが悲鳴に変わったのだ。だけど、お尻を気にしている場合ではない。
「ピオーリョ!てめえなに!勝手に女を海に逃しているんだよお!」
顎髭のごっついおじさんがやって来て、拳銃をレイチェルたちに向けて引き金を引こうとしているのだ。言い訳!ここは言い訳を言った方がいいんじゃないかしら?
レイチェルは、ピオーリョの人の足の後ろにへばりつくようにして隠れながら、彼が言い訳を言うことを願った。こんな今にも沈没するような船に、私たちレディをいつまでも乗せておく理由なんてないじゃない!救命活動を行っているだけよ!
「ぎゃああっ!」
ピオーリョは何の言い訳もせずに、持っていた拳銃で大男を撃ってしまう。
後ろの男の人たちも撃っちゃっているし、何処かに隠れていたのかしら?彼の弟さんが次々に武器を持った男たちを持ち上げると、海に投げ込んじゃっている!力持ちなのね!
「ピオーリョ、さっさと行け!」
女性の将校さんが銃を撃ちながら命じているけれど、
「ご主人様を置いていけるわけがねえだろ?」
レイチェルを庇うようにして運びながら答えているので、レイチェルの胸はまたまたキュンとした。
「ヴィオ兄、早く逃げようよおお!」
子供の軍曹が悲鳴に近い声をあげているけれど、
「まだだ!私は残るから!お前ら先にいけ!」
銃を構える男の人を抱え上げるようにして床へと投げつけながら、ちびっ子将校さんは無茶苦茶な事を言っている。
二本目のマストが折れて帆には火がつき、船倉で働いていた人たちも流石に慌てて甲板の上に飛び出して来ている状態だった。
「とにかく船が沈没しそうだし!帆が燃えているから頭上が真っ赤に輝いているように見えるし!熱いし!ここに居るだけで火傷しそうだわ!そこのちびっこ将校様!みんなの言う通りよ!あなたも早く海に逃げたほうがいいわ!」
そんな事を大声で叫んだレイチェルは腰が抜けてしまって、ピオーリョが運んでくれないと動けない状態になっている。
ナイフまで引き抜いた将校さんが体の大きな弟さんと一緒になって敵を薙ぎ倒していると、
「ヴィトリア・デル・フォルハス!」
船室から出てきた身なりの良い男が大声をあげた。
「悪役令嬢!いったい何処まで私の邪魔をするつもりだ!」
さらりとした黒髪をかき乱し、目を血走らせながら拳銃を撃つ。
柱に隠れたちびっこ将校は腰に差していた銃を引き抜くと、床を転がりながら黒髪に向けて撃っている。
「頑張って!ちびっこ将校!」
レイチェルの応援は虚しく宙を舞った。
レイチェルを抱えたピオーリョは大きな板をもう一度、レイチェルに抱えさせると、荷物みたいに放り投げて海に落っことしてしまったのだ。
「きゃああああああああ!」
私、海って見たことはあるけど入った事はないわ。
海って冷たくて、暗くって、鼻から水が入ってくるし、口に入ったらとっても塩辛いのね。下が真っ暗で、上は真っ赤な炎と紺碧の海水でキラキラ輝いて見える。
ピオーリョさん、ごめんなさい、私、板、何処かにやっちゃいました。ここで死ぬかも。
口から溢れ出た泡が無数の白い球となってレイチェルの頭上に浮かび上がっていく。私も泡のように浮かび上がれたらいいのだけどぉ。
海面がキラキラして綺麗だわぁ、これで死ぬのねえ。
苦しいし、泣きそうになっていたら、子供の軍曹さんがレイチェルの方まで泳いできて、腕を掴むようにして引っ張り上げてくれたのだった。
「うわっ!はあっ!はあっ!はあっ!」
「ルシオ!こっちだ!」
近くに小さな船がたくさん浮かんでいて、ずぶ濡れのレディたちを引っ張り上げているのが良く見える。
「この女性が最後です!」
子供軍曹は私を船の上へ押し上げると、
「ヴィオ兄が降りてこないんだよ!」
と、悲痛な声をあげている。
ヴィオっていうのはあれかしら、あのちびっこ将校の事を言っているのよね?
「ちびっこ将校なら黒髪のメロヴィング人と戦っているわ!めちゃくちゃ格好良かったんだから!」
「黒髪のメロヴィング人ってまさか」
燃える船を見上げた男の人を見上げて、レイチェルは驚きのあまり、再び海の中へ落ちそうになってしまった。
「ペリグリンお兄様!」
「え!レイチェル?本当にレイチェルなのかい?」
ずぶ濡れのレイチェルの肩を掴んで船の上へと引き上げたペリグリンが、驚愕のあまり顔を硬らせると、爆発音が鳴り響いて水柱が高々と飛沫をあげたのだった。
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