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第二十話  ピンチをチャンスに

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ねっとりとした黒髪で顔が半分ほども隠れたピオーリョの背はそれほど高くはない。すらりとした体型ではあるが、鋼のような筋肉で覆われており、軽々とヴィオを持ち上げて船の中を移動していく。


 奴隷商マルコの下で働いて長いとは言っていたけれど、周りの様子を見るに、この兄弟は一目置かれるような存在だという事になるのだろう。


「おい、昨日殴りつけられた報復のつもりか?」


 跡が残らないよう、うまい具合に殴られて蹴り飛ばされたけれど、体に痛みは残っている。野郎、私に復讐でもしたつもりか?

「はあ?」

ピオーリョはこちらの不機嫌など全く介さない様子で、肩に担ぎ上げたヴィオを見る。


「どうあっても誘拐された女達の所へ行きたかったんでしょう?そういう要望を聞いているんで、俺はその要望に答えられるよう行動しただけですけどね?」


「だけど、ヴィオ兄をあそこまで殴る必要あった?」


同じようにケイショに担ぎ上げられている女装のルシオが憎々しげに問いかけるので、

「早速奴らに連れて行かれて、手籠にされたかったって事ですかい?」

意味がわからないといった様子でピオーリョは肩をすくめた。


「高貴な人間への接待の為に、道中、慰み者にする女を用意するのは良くある事なんですよ。ちょうどうまい具合に悲鳴やら叫び声をあげたもんで良かったです。周辺には漁師の家なんかもあるから、あんまり大騒ぎして憲兵の一人でも連れて来られるようじゃあこっちも困る。奴ら、ご主人様達の事は特別扱いするつもりみたいだから、やるなら早急に事を進めなくちゃならないでしょうね」


 船窓から外を見ると、入江に入ってきたブリタンニアの戦艦が錨を下ろしている様子が見えた。満月が煌々と照らしているので、砲門が威嚇するように陸側へ標準を合わせる姿が良く見える。


 何かあれば大砲をぶっ放して、海上に逃げるつもりなのだろう。ルシタニア王国への叛意を示しているその行動に、同盟国ってなんだったんだろうなと考え込んでしまう。


「やっぱり、コーランクールが船に乗り込んできたし、これってチャンスなんじゃないのかな」


 ブリタンニア海軍の裏切り、増えた護衛艦、皇帝の懐刀の登場、更にはブリタンニアの高位の貴族が誘拐した女と横流しされた武器と共に、アルジェイーナへ移動しようとしている。


「チャンスじゃなくてピンチなんじゃないの?」

「ピンチの時こそチャンスが訪れるとか、そんな格言なかったっけ?」

「楽天すぎるのにも程があるよ」

女装したルシオが顔をくちゃくちゃにして見せた。


 コーランクールがこちらの顔を確認した上で個人的な話をしたいと言い出した。つまりは、フォルハス将軍の養女であるヴィトリアに対して尋問を行い、ルシタニア軍の情報を引き出したいと考えているのだろう。拷問の一つや二つ受けても文句が言えない状況だ。


 だがしかし、こちらこそ、奴らを拷問にかけて、生きている事を激しく後悔させてやりたいのだ。


 ジョゼリアン殿下、名前が変に長いし、攻略対象者にはならない、お助けサポートキャラの王子様。生まれ変わる前の話をしても笑って聞いてくれた。この国の希望であり、光でもあった人。彼がいれば、例え何十万という敵の軍隊が押し寄せてきても、なんとかなるんじゃないかと思ってしまう。決して失っては行けない人。彼の手をいつも思い出す。

 

「ヴィトリアはかわいいねえ、かわいくて、かわいくて、愛しさが止まらないよお」


 空っぽの言葉でもいい、訳のわからない言葉でもいいから、いつでも私に声をかけて欲しかった。とにかく、生きていて欲しかった。


「クソ野郎・・・殺してやる・・・」


 暗殺の手筈を整えたコーランクールも、娘の言われるままに殿下暗殺のための毒を手配した男爵も、まとめてナイフで突き刺して殺してやりたい。


「ご主人様よ、ちょっとは冷静になれよ」

ピオーリョは大きなため息を一つつくと、

「さっき声をかけられた時、拳銃をぶっ放そうと手を伸ばしただろう?そういうのはやめろ。無駄死にしても誰も喜ばねえし、そもそも俺は巻き込まれたくねえ」

扉の鍵をポケットから取り出しながら言い出した。


「俺も弟もジリ貧だ、後がねえとか何とか言うもんだから、俺らはあんたを信じて賭けに出たんだよ。俺は負ける賭け事はしたくねえ」

「わかってるよ」

 時間がない、ピオーリョは余計な事を考えるなと言っているのだろう。


 天井が低い倉庫のような場所に女たちは閉じ込められているようで、周囲に見張りの人間の姿などは見えない。扉にかけられた南京錠を外すと、

「もっと船底に近い場所に囚われているのかと思っていましたよ」

ケイショに下ろされたルシオが、スカートの皺を伸ばしながら言い出した。


ルシオはまだ声変わりもしていないので、女装をすると完全なる可憐な少女にしか見えない。叫び声や悲鳴をあげても女の子そのものなのだ。ヴィオよりも可愛いかもしれない。


「あんまり下の層に入れておくと、こっそり女に手を出してやろうという輩が多くなるからな」

扉を開けたピオーリョが答えると、

「さあ、下僕が案内するのはここまでだ。あんたはこれからどうするつもりなんだ?」

と言って、挑戦的な眼差しを向けてきた。




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