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第十七話  船上のパーティー

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「コーランクール様、高貴な方々をお迎えする為の準備は万全に整っていると自負いたしておりますが、他に何か手配しなければならない事などありますでしょうか?」


「うーん、とりあえずは大丈夫かな」


 皇帝の懐刀と呼ばれるコーランクールは、潮風でベトついた自分の髪の毛を掻き上げながら、夜空に浮かぶ満月の光を見上げた。


 ラゴスの正規の港湾から五キロほど離れた場所にある入江はよくある遠浅のものでなく、岸を離れると落ち込むようにして海が深くなっている。


 三百年ほど前には、海賊がこの入江を利用してラゴスへの襲撃を繰り返していたものの、今は誰も訪れない忘れられた場所となっている。

当時の人間が築いた防壁が入江を囲むようにして連なる急な坂や崖の上に幾重にも連なって見えるが、その大部分は崩れて草に飲み込まれていた。

 

「うん?」


 月に照らし出される防壁の一部がピカリと光ったような気がしたのだが、

「今日は綺麗な満月となりましたな」

コーランクールの隣で、煌々と輝く真円の月を見上げる奴隷商人マルコの声で気が逸れてしまった。


 誘拐した女達を乗せこんだ商船とアルジェイーナ所有のガレオン船が入江に停船しており、ブリタンニアの船2隻の船影がこちらに近づいてくる姿が見えた。


スパイの容疑がかかる、ヘンリー・ベルナドッテがカディスから姿を消してから7日が経過していた。裏切りが明るみとなり粛清にあったかと思いきや、奴はラゴスの街に現れた。アーサー・ウェストウィックの秘蔵っ子とも呼ばれるブリタンニア人に接触していたことから、ヘンリーはウェストウィック子飼いのスパイだったのかもしれない。


 ヘンリーを捕まえて殺したまでは良かったものの、死体の処理と接触者の排除を奴隷商のマルコに頼んだのがまずかった。最終的にヘンリーの遺体はラゴスの要塞へ収監され、ブリタンニア人の男もまた、その後の行方は分からない。


 ここに来て、何かを嗅ぎつけてきた様子のルシタニアのコメルシオ商会が絡んで来たようではあるが、ラゴスでの取引は一旦終了となるし、落ち目の商会など、無駄にワインを提供しただけで何の旨味もなく引き下がる事となるだろう。


 ブリタンニアの海軍卿がメロヴィングとの融和路線へ走った事により、このゲームはこちらの勝ちが決定したも同然なのだ。


 湊町ラゴスで取引を行う際に満月の日を選ぶのは、満潮となり水深が一番深くなるため。座礁の危険性が一番低くなるという理由と、月明かりが煌々と照らし出すため、周囲への警戒が容易となるからだ。


 一瞬光ったように見えた場所へと視線を戻すと、葦の葉がざわざわと風になぶられて揺れている姿が見えた。このあたりの石は溶岩を含むものが多いため、月明かりに反射して見えたのだろう。

「しばらく晴天が続くようだったから安心だよ」

そう答えながら、コーランクールはこれから乗り込む事となる商船の方を見上げた。


 ルシタニア王国の貴族ボルボーン男爵所有の船は、アルジェイーナの商船に模した作りをしており、船旗にはアルジェイーナ大公の旗が掲げられていた。


「コーランクール様、我が船にお越し頂き、恐悦至極にございます」


 目の前で卑屈に頭を下げる小太りの男はアントン・ボルボーン男爵、アルジェイーナとの交易で財を成した新興貴族となる。


「このような深夜に悪かったな、ボルボーン男爵も息災なようで何より」


かつてこの男の娘に煮湯を飲まされた事を思い出すと、今すぐ、短剣でブヨブヨとしたその喉を貫いてしまいたいという衝動にコーランクールは駆られてしまう。


 この男の娘であるベネディッタ・ボルボーンは、予言を授ける聖女と一部の人間に囁かれるほどの稀有な存在でもあった。彼女の告げる言葉は後に現実になるとうたわれ、信者となって金を寄進する人間も多くいた。


 ピンクブロンドの髪の美しい娘であり、身分は低いながらも、パッと人の目を引くような魅力を持った令嬢だった。


 予言の力を持つベネディッタは『予言の聖女』という特別な冠をつけて城に登城したわけではない。ただのクルアム語の教師としてルシタニアの王宮へあがる事となったのだ。   


コーランクールは、王族との接触など到底見込めないだろうと考えていたのだが、令嬢はまんまとアルフォンソ第二王子に重用される事となったのだ。この事は、ベネディッタ令嬢の中では運命として決められた事であったらしい。


 王宮の中をある程度自由に動く事が可能となった令嬢の助力を得て、王位継承第一位であったジョゼリアン第一王子の暗殺を成功させる事が出来た。この時に、ベネディッタ嬢への信頼度が大きく上昇したのは言うまでもない。


 令嬢曰く、ジョゼリアン殿下が王位継承から外れれば、確実にルシタニア王国はメロヴィングの属国になるという。メロヴィング側は苦もなくルシタニアを手に入れ、短期間での戦争の終結により、戦争による死亡者数も少なくする事が出来るらしい。


「早く戦争が終われば、看護や軍の支援で働きまくる時間も少なく済むし、みんな仲良くハッピーで終わらせられるんだから、属国とか隷属とかになっても問題ないでしょ?」


というのがベネディッタ令嬢の主張でもあった。


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