第十四話 奴隷商人マルコ
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湊町ラゴスの顔役である奴隷商人のマルコ・アワールの父親はアルジェイーナ人、母親はルシタニア人となる。
王家が新大陸に逃げ出した事により、南大陸の奴隷が本土ではなく新大陸コンドワナへと運ばれ、ラゴスの商売はあがったりとなってしまったのだ。
食い扶持を稼ぐには、他国にも目を向けた方が良いだろうという事になったものの、ヨーロニア諸国は軒並み人道的観点から奴隷売買禁止を法として導入している。
では、奴隷以外の物でも売買してみたら良いのではないかという意見も出たのだが、売って金に変わるものが魚くらいしかラゴスにはない。そんな時にマルコの祖父が、ブリタンニア側が送り出す武器を横流ししてアルジェイーナに売り払えば良いと言い出した。
イムラス半島を制圧する為に、アレクサンドルは20万の兵士を従えて出発をするという噂が流れ、エスパンナの南端に位置するカディスへ場所を移したエスパンナ最高評議会もまた、直接対決の為に正規軍の集結を呼びかけた。
エスパンナの王となった皇帝の兄は身の危険を感じて王都マデルノから逃げ出した。国内に王が不在の今、国内で最も発言力を持つ組織は最高評議会という事になったのだ。この最高評議会への介入を目論むブリタンニア軍としては、エスパンナ側への支援を惜しまない方向で話を進めている。
支援をする側、受け入れる側、双方の間に蟠りがある状態のまま手を組んだ為に、付け入る隙というものが多方面に浮かび上がってくる。
皇帝の懐刀であるコーランクールが、奴隷商人であるマルコに対して言い出した。
「過去の戦争で負けた事をいまだに恨みに思っているエスパンナ人はブリタンニア人が大嫌い、武器を提供しても『ありがとう』の一言も言わないのだからね。双方の間に悪感情がある限り、武器の一部をエスパンナに送らずに横流しをして、自分たちの小遣い稼ぎにしたい等と考える兵士は結構な数が居るものなんだよ」
祖父が紹介してきたコーランクールは、横流しの武器や、誘拐してきた白人奴隷の販路をあっという間に確立してしまったのだ。
アルジェでは白人は男でも女でも高値で売れた為、誘拐を商いとする商業組合と提携した。小型帆船でヨーロッパやイギリスを廻って誘拐した人間と武器を一旦、ラゴスに集めて、アルジェイーナに売り払う。奴隷と武器の密輸によって、更なる富を得る事となったのだ。
「おい!ピオーリョ!昨日はお前、ヘマをやったようだな!」
書類に目を通していたマルコが顔をあげて問いかけると、見上げるような大男のケイショは悲し気に瞳を曇らせながら言い出した。
「捕まっちゃったんだから仕方がないよお」
「なんで捕まるなんて、そんなヘマをしたんだよ」
「馬車壊れたの」
ケイショは見上げる程の大男ではあるが、知能は子供。
顎が突き出たケイショは顔中傷だらけの男だが、その傷をつけたのは他でもないマルコだ。小柄で細身の兄のピオーリョと弟のケイショを下働きとして利用している。
ケイショの美点は、嘘がつけない所にある。
「馬車の車輪がバキンッとなって折れちゃってガタンて横に倒れて頭打ったの」
ケイショが言うのなら、馬車は確かに壊れたのだろう。
「あの馬車は随分とおんぼろだったからなあ」
マルコは銃を取り出すと、ケイショの隣に立つ、兄のピオーリョの額に銃口を押し付けた。葉巻を吸いながら瞳を細める。
「それで?なんで捕まったお前たちが要塞から出てくることが出来たんだ?」
兄弟はあくまで下働きで、重要な情報など何一つ持っていやしない。そんな二人が何故、釈放されたのかと訝しんでいると、扉が開かれて一人の男が現れたのだ。
「おお!これは!貴方様がラゴスの顔役として有名なマルコ・アワールさんでしたか!」
「はあ?」
「お初にお目にかかります。私、コメルシオ商会で外商部門を担当いたしておりますアンドレ・デル・アルメイダと申します」
背の高い、やけに身なりが整った壮年の男が部屋に入って来て、優雅に一礼した。
「まずはお近づきの印としてワインをお持ちしました、ラムエスブルグ皇家に献上しているものと同等のものでございます。もし宜しければご賞味くださいませ」
と言って、二本のワインボトルをテーブルの上へ置いたのだ。
コメルシオ商会は急成長を遂げているルシタニアの大商会であり、後ろ盾としてルシタニア王家、フォルハス公爵家、豪傑として有名なシルヴァ伯爵家のみならず、ラムエスブルグ皇家のお墨付きも戴いている、などという噂は耳にした事がある。
新大陸への奴隷売買から手を引いた割には稼ぎがいいから、探りを入れるように、ルシタニア王家から命じられたのか。それとも、メロヴィングと関係を深めている事がルシタニア王家にバレて、粛清対象となってしまったのか?
「おやおや、無用な警戒心を起こす必要など何もないのですよ?」
アンドレと名乗る男は悠然と座ると足を組み、優雅な仕草でワインボトルのコルクを抜きながら、マルコと自分の前に置かれたワイングラスにワインを注いでいく。すると、後ろに控えていた少年の従者が、ベルベッドの箱に収められた時計をこちらに見せるようにして掲げあげたのだ。
恭しく時計を取り出した琥珀色の瞳の従者は、懐中時計の蓋に刻み込まれたラムエスブルグ皇家の印章を見せる。
「我々は今回、ラムエスブルグ皇家の仲介者として貴方と取引をしにやってきたのです」
と言ってアンドレと名乗る男はワイングラスを手に取ると、
「ラムエスブルグ皇家はアルジェイーナの香辛料、特にルヒルの鬱金に興味を抱いているです」
と言って微笑を浮かべたのだ。
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