第九話 海賊と暗号文とわたし
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私はアンドレ・デル・アルメイダ、今は公爵家の執事を辞してヴィトリアお嬢様の補佐をしております。
まさか、使用人として働かせていたベアトリスが、お嬢様との身分を入れ替えようなどと悪巧みをしているとも気が付かず、公爵家の子息であるクリス様を死なせることとなり、忸怩たる思いだったのは間違いのない事実。
これ以上、お嬢様が危険な目に遭わないようにと神に誓って付き添いを申し出たわけですが、お嬢様が危険な目に遭わないようにする等ということは、例え聖人が諭したとしても無理であろうと、半分諦めているような状態です。
「アンドレは後から追いかけてきて!」
足の古傷を気にしたのでしょうか、ペリグリン様が誘拐される現場を目撃するやいなや、悪党を捕まえるために走って行ってしまわれたのです。
やるとは思っていましたが、お嬢様は想定通り崖を滑り降り、大ジャンプを成功させ、馬車の屋根に飛び降りた後、馬車を横転させ、御者をしていた悪党をぶちのめし、お馬さんに怪我をさせました。
ちょっとでも間違えれば大惨事となったわけですし、淑女大失格とも言えるでしょう。
これは大説教をしなければなりませんね。
バンデイラ要塞にはルシタニア陸軍歩哨連隊が駐屯しており、先ほど訪れた教会には聖人の絵画と並んで陸軍将校の肖像画も複数並べられています。バンデイラ要塞は歴史もありますし、この地域の防衛の要でもあるのです。
「ペリグリン様、ご遺体の確認をお願いしても宜しいでしょうか?」
国際問題になっては困りますので、まずは、ヘンリー・ベルナドッテという将校の遺体を安置所に運び、どうやって殺されたのかの検分に入ります。
隠密理にルシタニアに入国しているようで、身分証明証なるものは一切、所持していないようでした。財布の中にはルシタニア紙幣が何枚か、硬貨も数枚程度で、主な資金は別の場所に置いているのだろうと考えられます。
遺体は細身のナイフで心臓を一突きにされており、シワの寄ったシャツと焦茶の古びたコートには、どっぷりと血液が染み込んでおりました。
「ペリグリン様。この方、メロヴィングとブリタンニアの二重スパイをなさっていたのではないでしょうか?」
心臓に突き刺さるナイフの柄には細かい薔薇の細工が施されていました。薔薇はメロヴィングの国旗にも使用されており、メロヴィングの象徴とも呼ばれる花です。
薔薇のナイフで殺される。
これは、皇帝からの粛清を意味しており、ブリタンニア人でありながら、メロヴィングの関係者だった事を明かしています。
「確かにヘンリーはブリタンニアとメロヴィングの二重スパイをしていた男で・・」
「うえっ・・え・・ええっ・・ええん」
要塞に設けられた遺体安置所は石作りの広い空間となっておりますが、さっきから、悲痛な泣き声が響いておりました。
遺体の近くで項垂れているお嬢様が、届いた手紙を握りしめて、グスグス泣いているのです。
「なんでヴィオは泣いているのかな?」
ペリグリン様は只事ではないお嬢様の様子が気になって仕方がない様子です。
私はペリグリン様を安置所の隅の方へ呼んで、一通り説明をする事といたしました。
「実は・・ヴィオ様には長年連れそった婚約者がいたのですが、その方の結婚が決定したというお話のようで」
「え?婚約者が結婚?ヴィオとじゃなくて?」
「そもそも、その婚約者の方はヴィオ様より別の方が良いとおっしゃいまして、大勢の前で婚約破棄を宣言したのです」
「それじゃあ、その浮気相手と結婚っていうこと?」
「いえ、結局はその方とではなく、高貴な家の方と結婚される事となったようです。その方との式の日取りが決定したという事で、式には参列しろというお手紙のようで」
現在、ヨーロニア諸国の情勢は著しく悪化しており、ヨーロニアから新天地に移動したいという令嬢は意外にも多かったようでした。
アルフォンソ殿下が無事にラムエスブルグ家の姫君と婚約、近々結婚するので、式にはぜひ、お嬢様にも参加してもらいたいという趣旨の手紙が送られてきたのです。
無事にメロヴィング陸軍を追い出す事が出来て、停戦協定も結ばれている所ではありますが、皇帝は20万の兵士を送り込むとかなんとか言って息巻いているところでもあるのです。
そんな中、お嬢様に婚姻の祝辞をさせるためにコンドワナへ移動させる?バカも休み休み言って欲しいです。ですが、王家としても、戦地にまで飛び出して行くお嬢様を保護したいという気持ちがあるのでしょう。
「何それ?正気の沙汰じゃないよね?」
ペリグリン様は怒りを顕にしています。
そうですよね、婚約中に浮気をして、大勢の前で婚約破棄をしているのにも関わらず、浮気相手とは別の方へ乗り換えた上での結婚。その式へ祝いに来いというのですから、正気の沙汰ではありません。
「捨てられたのにお祝いに行かなければならないなんて、どんな罰ゲームなんだろうか?あんなに泣いているっていう事は、ヴィオはまだその人が好きだっていう事だろう?」
好きというよりは、置いていかれた感に打ちのめされているという所でしょうか。
一旦はメロヴィングの侵攻を乗り切ったルシタニアですが、最近、お嬢様の周りでは結婚ラッシュが続いています。
敵軍を退ける事に成功した兵士たちは人気者となり、新しい恋がいたる所で花咲く事となりました。しかし、いつまたメロヴィングが侵攻してくるとも限らない状況でもあり、急いで今のうちに結婚しようと決意するカップルが続出。
お嬢様は最近、ご祝儀貧乏にもなっているのです。
「うううう・・分かっていたけど・・置いていかれるこの辛さ・・・結局自分だけ取り残されていくんだよ。分かってる、分かってんだよ、生まれ変わる前から分かっていたっていうんだよ。だって、私、ヒロインじゃないもん!」
泣きながらぶつぶつ言っている姿が恐ろしいです。
まだ十六歳なのに、なんであんなに打ちひしがれているのか良く分かりません。
「それでどうするんですか?ご祝儀持って式に参加して、祝辞を述べに行くんですか?」
ここでお嬢様が抜けるとなると、こちらとしてはかなり痛手となりますが仕方ありません。お嬢様がブリタンニアに避難しないのですから、コンドワナに逃避行して頂いた方が、安全で安心なのかもしれません。
「結婚式の話は別として、今、ブリタンニアの諜報員が殺されたって事は、何か事態が動いたって事になるんじゃないの?」
バンデイラ要塞までついてきたルシオが、ケンケンパしながら言い出したので、我々はお互いの顔を思わず見合わせました。
そうです、アルフォンソ殿下の結婚話でショックを受けている場合ではございません。
「あ!それなら報告したい事があります」
ペリグリン様は右手を上げて言い出した。
「今回、ラゴスの港に集まる船は3隻、明日の深夜に積荷を載せ込んで明朝出発する事になるのだと思います」
「3隻?」
「明日の深夜?」
「おそらくラゴスでの取引はこれで終了し、次は間を置いて、他の港を利用するようになるのでしょう。ですから、ラゴスで摘発するなら今回が最後となると思うのですが」
「あ・・やべ・・マジか・・そうか・・」
お嬢様はそう言って顔を真っ青にさせると、その場にしゃがみこんでしまいました。
お嬢様がこうなった時には、大概、碌でもないことが起こるのです。
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