第八話 ピオーリョ兄弟
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どこで手に入れたのか、馬を走らせながら追いかけて来たアンドレは、横倒しになった馬車の前で黒髪の男を引きずり回しているヴィオの元へと駆け寄ると、
「無茶をし過ぎです!」
と、怒鳴り声をあげた。
頭の中が真っ白になったヴィオは口をパクパク動かしてから、
「だって!ペリグリンさんが攫われて!」
と言い出した途端、
「お客様が攫われたからといって、馬車を横転させて良い事にはならないでしょう!倒れたお馬さんも可哀想に!骨を折っているかもしれないじゃないですか!」
と、アンドレが怒りの声をあげてヴィオを睨みつけた。
馬車を止める為に崖から飛び降りたことについては、何の説教もしなくていいのだろうか。聖人の説教のポイントがよく分からない。と、ペリグリンは考えていた。
教会は小高い丘の上にあるため、ヴィオが駆け降りて来たのであろう、切りだった崖を見上げてから、
「うわーん!兄ちゃんは何も悪くないんだよお!」
と、しがみつきながら大泣きする大男をペリグリンは見下ろした。はっきり言ってカオスだ。
周囲は住宅が連なる密集地だった為、馬車が横倒しになった衝撃と騒音で近所に住む住民たちが家から飛び出してきたし、何しろ大男の泣いて叫ぶ声がひどいのだ。
ペリグリンを誘拐しようとした二人組はどうやら兄弟のようなのだが、
「ピオーリョ兄弟じゃないか、また、なんだってこんな所で悪さをしているんだ?」
向かい側の家から出て来た太った男がロウソクの灯りで二人の男を確認しながら、不安に曇ったような声をあげた。
「ピオーリョ(ノミの)兄弟?」
ペリグリンが疑問の声をあげると、集まってきた住民の一人で眼鏡をかけた男が、フレームを押し上げながら説明した。
「あだ名ですよ、兄の方は子供の頃は細くて小さくて、それでいて機敏でどうしようもない悪だったので、ピオーリョ(ノミ)とあだ名が付けられたんです」
すると太った男が追加で説明しはじめた。
「弟は顎が突き出ているんでケイショ(顎)なんて呼ばれていて、ちょっと頭が足りなくてね。兄の言う通りにして悪さをしてまわっているんですよ」
確かに、抱きついたまま泣いている大男の顎は突き出ている。
「最初のうちはまだ良かったんですけどね、奴隷商人に雇われるようになってからはもう手が付けられなくてねえ」
「奴隷商人ですか?」
「お兄さんも狙われたんですかねえ?顔もいいし、ブリタンニア人はかなりの高値で取引されるらしいですから」
「男でもですか?」
「男を好む男もいるんですよ」
「へーーーー!」
ペリグリンが仰け反りながら思わず二歩、後ずさった。
「今は南部大陸の奴隷がコンドワナ大陸へ流れていますから、ラゴスの奴隷商人たちは食い扶持に困る事になったんですよ。それで、誘拐をやってはアルジェイーナに売り払って金を得るようになって、貴方が狙われたという事になるのかもねえ」
「最近じゃあ、武器なんかもアルジェに売っているそうだしねえ」
地元住民の情報力が凄すぎる。
「ヴィオ、とにかく馬車の中に僕の同僚が居るから助けてくれないかな?」
住人が持ってきた縄で兄弟ふたりを縛り上げていると、ヴィオは驚いた様子で横倒しになったままの馬車の車体の方を振り返った。
「え?誰かまだ馬車に居たんですか?」
「居たんだよ、死体になっていたけどね」
泣いて暴れる大男を縛りつけたペリグリンが手の埃を叩いて払う。
「僕に接触をしてきた男が、馬車の中で死体となって転がっていたから、あえて捕まってみたんだけど、彼の持ち物は奪われていたみたいだから、こいつらが何かを持っていないかきちんと調べておきたいんだ」
「こいつらが殺したんですかね?」
「俺たちじゃねえよ!」
そこで黒髪の兄の方が大声をあげて否定し出した。
「俺たちは殺しはやらねえ!回収屋として二人のブリタンニア人を回収しただけだ!」
「それが本当かどうかは、後ほどきちっと取り調べいたしましょう」
アンドレはそう言うと、下働きの男を捕まえて、バンデイラ要塞に居る兵士を呼んでくるように命じていた。
「ペリグリンさん、これ、ピオーリョって男のポケットに入っていたやつです」
早速、黒髪の男の持ち物を持ってきたヴィオは地面の上にナイフ、財布、拳銃、もう一つ財布を並べて置くと、折り畳んだ紙をペリグリンの方へスッと差し出した。
「うん?」
そこにはヘンリーの字で手紙が書かれていた。
*親愛なるペリグリン この手紙をどうか僕の両親に渡してくれ。
『 最愛のレイチェル・W 君の事を嫌おうとしたよ、
ジョークとしてはふざけすぎだよ、僕は許せない。
君は大事な物を持っていなくなったけど、取り戻す機会はある。
僕のウェヌス、君を愛する気持ちに偽りはない。
最高の崇拝と変わらぬ忠誠を示して。
ヘンリー・ベルナドッテ 』
「愛ですかね?」
隣から覗き込んで文面を読んでいたヴィオがそんな事を言い出したので、
「ブフッ」
と、ペリグリンは思わずふき出して笑った。
これは愛じゃない、ヘンリーが死ぬ間際に残した暗号文だ。
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