第四話 歓待したいんです
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
「そんな大声をあげなくても、ここにおりますよ」
隣の部屋のドアを開けたアンドレ・デル・アルメイダは丸めたドレスを布袋に押し込みながら、
「まさかガチョウ亭での合流が敵側に漏れていようとは思いませんでしたねえ。あそこの亭主も若い奥さんをもらって耄碌したのかな。メロヴィングのスパイが入ってもわからないんだから、もう、あそこを使うのは、やめにいたしましょうね」
と言って、小さなため息を吐き出した。
「私をガチョウ亭で捕まえられなかったからね。だからか知らないけど、豪商マルセンの娘に仕えていた侍女を殺して、ペリグリンさんに罪をかぶせようとしたみたいだよ」
「なんでマルセンの人間がガチョウ亭にいたんですかね?まさか、あそこも絡んでいるなんて事は?」
「元々あそこはマルセン商会の常宿らしい」
「マルセン商会まで皇帝の犬に成り下がったのかと思いましたよ」
船のもやいが外されて、波に揺られるようにして船が動き出す。これからこの船はサンプトン・ウォーターを通って外洋に出てから海峡を渡り、船を南に走らせて、ヨーロニア大陸と南大陸の間に広がるエルマ海を進んでいく。
この船はジェノヴァーロ港に帰港後、物資(武器・弾薬)の荷下ろしをして、その後、内海となるマルマラ海へ赴き、沿岸に広がる穀倉地帯から運び込まれた穀物を積み込む予定となっている。
通商を断絶されているブリタンニアからの武器購入、そして穀倉地帯からの大量の食糧の供給から推察するに、ラムエスブルグ皇家もいよいよ本腰を入れる事にしたのだろう。その影には、ヴィオの良く知るあの人もいるに違いない。
水の桶を抱えたアンドレが、
「お嬢様はとにかくこの部屋でお着替えください、私がペリグリン様へ着替えと体を拭う水を持って行きますから」
と言って、ドアを閉めた。
悪役令嬢としてこの世界に転生したヴィトリア・デル・フォルハスは、今現在、平民出身のヴィオとしてルシタニア陸軍の将官として働いている。
この世界、元はゲームの世界のようで、ヴィオは昨今流行りの異世界転生をしたのだと思っている。テンプレ通りの展開で悪役令嬢に転生したヴィオは、ゲームの知識でこれから戦争が起こる事を理解していた。
戦争というとまず犠牲になるのが一般市民、一般市民の中でも特に酷い目に遭うのが女性や子供となるわけだ。
十歳の時に王宮に保護されてからの五年間で商会立ち上げ、物流ルートの確立、避難民受け入れの下地作り、非常食の備蓄、各都市においての避難訓練の実施、戦闘ルートの確保、輜重隊の育成に尽力した。少年兵として訓練も受け、髪も切った。ちなみに淑女装備をする時にはカツラを利用している。
ふざけたメインヒロインの所為でジョゼリアン第一王子という尊い存在を失くし、メインヒーローであるアルフォンソ第二王子は家族、国宝、主要な貴族、官僚、大商人など、ありとあらゆるものを持ちだして新天地に逃亡。
うまい具合に敵をあざむく事が出来たかな?と思ったところで、サブヒロインに立場を奪われ、麻袋を頭からかぶせられ、手足を縛られて、何処とも分からない、危ない場所へ連れ去られる所だったのだ。
誰も助けに来ないからと馬車の中で暴れ、緊急停止に持ち込み、テレビで見た知識を使って縄を外し、輸送に関わった二人の男を半殺しにして衣服と馬を強奪し、敵の手から逃げ出す事に成功したのだった。
まもなくメロヴィング軍は攻めてくるし、迎え撃たなくちゃならないし、援軍として駆けつけてくれたブリタンニア陸軍に対して素晴らしい食事の提供をしなくちゃならないし。
色々と忙しく働いているうちに2ヶ月と経たない間にメロヴィングが停戦を持ちかけて来たため、シントラで停戦の調印を互いに交わして、敵兵を船で搬送することになった。
敵国メロヴィングの兵士はブリタンニア海軍の船でお土産付き(ルシタニアで略奪した品物を持って)で本国へと帰っていったのだ。このことだけでも、ブリタンニアがアレクサンドル皇帝に対して忖度しまくっていることが良く分かる。
結局、ブリタンニア軍の上層部でくだらないとも言える喧嘩、揉め事、いざこざが起こった為に、天才的な指揮をとるアーサー・ウェストウィック閣下が帰ってしまったのだ。
残ったブリタンニアのクズ将軍たちを見てルシタニア陸軍は思ったのだ。
次もウェストウィック閣下を連れて来ない限り、ルシタニアは負けちゃうんじゃないかな?
戦は上に立つ者がしっかりしてないと、勝てる戦も負けてしまうもの。今回指揮を取ったウェストウィック閣下は守りの人で、自軍の守備を固めながら敵を追い詰めていく策が素晴らしい。
ルシタニアとしては、次の戦にも是非!ウェストウィック閣下に出てきてもらいたい!という訳で閣下のお声がかかるのならば、たとえ火の中、水の中、ヴィトリアことヴィオ・アバッシオは、喜んで接待に参ります!という感じで意気込んでいるのだ。
「お嬢様?お着替えは終わりましたか?」
ノックをして部屋に入ってきたアンドレは、少年そのもののヴィオの姿を見ると、悲しげな表情を浮かべてちょっぴりうなだれた。
フォルハス公爵家の筆頭執事だったアンドレは元軍人となるため、ヴィオが前線に出たり、諜報に関わる場合には側近としてついて来る。色々と心配しながらもフォローに回ってくれる貴重な存在だった。
「お嬢様って呼ぶのはやめてよ、ここではヴィオ、少年兵ヴィオでしょ?」
「まあ、はい、そうですね」
「それで?ペリグリンさんの様子はどうだった?」
「大変恐縮されていましたよ。何せ、ラムエスブルグ家所有の商船の手配をしたわけですからね」
「フェリペ様に紋章を戴いておいて良かったね」
女王にしか興味がない、ルシタニア王国の王配フェリペとヴィオの付き合いは意外に長い。ヴィオが商会を立ち上げる際に、ラムエスブルグ家の紋章が刻まれた懐中時計をプレゼントしてくれたのが王配フェリペになるのだ。
水戸黄門が掲げる印籠なみに効果を発揮する懐中時計を利用して、船に乗り込むことに成功したのだが、皇家がこれほど大量の武器をブリタンニアから購入していたとは知らなかった。
「もう少ししたらお茶をお持ちしようと思うのですが?」
「だったら付け合わせはチョコかな?それともクッキー?サブレ?サンドイッチ?果物?軽食かお菓子か?それとも両方?」
ヴィオがバッグからさまざまな箱を取り出していくと、
「接待に対する気持ちが熱すぎる・・・」
と呟いて、アンドレが顔を顰めた。
モチベーション維持につながりますので、よろしければ評価とブックマーク登録をよろしくお願いします。




