第二話 合流
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ソレント通りに面して建つガチョウ亭は小高い丘の上にある為、2階の窓からでも川幅の広いテスト川を一望する事が出来る。
このテスト川を南に下ればサンプトン港があり、港を出た船はサンプトン・ウォーターを抜けて海峡へ出る事になる。
港には様々な外国船が停泊しているため、スパイの取り締まりも厳しく、警吏の数も増やしているというような状況でもあるため、
「そこの男!屋根から降りて来なさい!」
警笛と一緒に鋭い声があがる。
瓦屋根の上を走りだしたペリグリンは隣の家へと飛び移ると、更にその先の家の煙突に飛び付いて、そのまま煙突を伝って屋根からベランダへ。まるで猿のようなすばしこさで移動し、裏通りの方へと飛び降りた。
ガチョウ亭で殺人があったという事は窓から喧伝されているようで、集まってきた警吏や、用心棒として雇われた男達が、殺人者を捕まえる為に走りまわっていることが雑踏の喧騒でわかる。
「どこで情報が漏れたのかなあ・・・」
メロヴィングのスパイはかなり深い部分にまで潜り込んでいるのかもしれない。
「腹立つなあ・・・」
追っ手が近づいているのにも構わず、一人でブツブツ言いながら裏通りを歩いていると、すぐ後ろの古びたドアが開いて、
「わっ!」
ペリグリンは腕を引っ張られるようにして招き入れられると、ドアはそっと音もたてずに閉まったのだった。
ペリグリンを挟み撃ちにする為に走って来た男達はドアの前で合流したらしい。
「ここで降りたように見えたんだが、別だったか」
「エレナはお嬢様のお気に入りだったのに、何かを盗みついでに慌てて殺していきやがったんだな」
「とにかくお嬢様の機嫌が悪くなるのは確定だ」
「さっさと犯人を見つけないと旦那様にどやされる事になるぞ」
そんな会話を繰り広げた後、右と左にわかれて走りだしたようだった。
殺されたのは無関係な女性、では、ルシタニア人の協力者は何処にいるのかというと、
「ペリグリンさん!お久しぶりでございます!」
目の前の少年は敬礼をしながら、
「ヴィメイロの戦線以来ですよね!お元気でしたか!」
と、嬉しそうにニコニコしながら明るい声で言い出した。
琥珀色の瞳の少年が喜びいっぱいの様子で見上げてくるので、
「ヴィオ?ヴィオが今回の協力者なのかい?」
ペリグリンが驚きの声をあげると、
「はい!自分が協力者であります!」
ヴィオは笑顔で答えた。
ヴィオはルシタニア王国の平民出身の少年兵であり、その若さでルシタニア陸軍の輜重を担当する責任者の立場をとるような人間だ。
瓶詰め商品で爆発的なヒットを飛ばしたコメルシオ商会の関係者らしく、自社販路と生産拠点を駆使し、ルシタニア国内での戦闘では台所番として度肝を抜くような働きをしたのだった。
「分厚い肉煮込み・・ふかふかパン・・ピクルス詰め合わせ・・ワイン・・焼酎・・豚の丸焼き・・・」
「いや、今回は輜重隊ではないので、ご飯は持ってきていないですよ?」
「うん・・わかってる」
ルシタニア王国内での戦闘でまず思い出すのが温かい食事であり、敵軍との衝突などカケラも思い浮かばない。
通常、戦闘ともなれば携帯食を1日2回食べられれば良い方で、乾パン、干し肉を白湯で食べるのが精々のこと。それも異国での戦闘ともなれば食事のレベルが低下するのは当たり前で、日々の楽しみを食の中に見つける事はまず出来ない。
だというのに、戦争のためにルシタニア国内に派遣されたペルグリンがまず目の当たりにしたのが、温かいスープ。大型の鍋に瓶詰めされたスープの素を入れるだけで素晴らしい美味しさのものが出来上がる。
運ばれてくるのがまた、甘みのある柔らかいパン。瓶つめのピクルスを肴に瓶詰めのワインか焼酎が各自一本配られる。さすが瓶詰めで勝負している商会が関わっているだけに、取り揃えた瓶詰めは素晴らしいものだった。
「すみません、メロヴィング側に我々がここで接触することが漏れていたようで、ガチョウ亭への侵入を許してしまったのです」
「僕を殺人者として捕まえるつもりだったみたいだけどね?」
「彼らが早急な手に出たのにも理由があるようです」
ヴィオは浮浪者が着そうなボロボロのコートをペリグリンに着せながら、
「昨夜、カーディス港より出港した船にアルジェイーナとの武器密売に関係する仲介者が乗っているとの情報を掴みました。あちら側としてはもうしばらく武器の密輸は続けたいようでして、密偵として送り出されたペリグリンさんをここで足止めしようと試みたみたいです」
と言って、短い髪の毛がすっぽり隠れるような大きめの帽子を差し出してきた。
カーディス港とはブリタンニア北部にある軍港の事であり、港湾としての規模は小さいため配備されている人間も少ない。武器の輸出はブリタンニア南部の港から出る船が行う事となっている為、北への監視の目は少なくなっていたのだ。
「アルジェイーナに武器の横流しを行う仲介者がルシタニア人だという情報を得ました。こちらとしては何がなんでもその仲介者を捕まえたいと思っておりまして」
「それで、その仲介者を捕まえるために、ヴィオ自身がブリタンニアに潜り込んでいたわけ?」
ヴィオは確か平民商人出身の輜重隊担当だったと思うのだが、いつからスパイになっていたのだろうか。
「潜り込むというか、追いかけてきたというか、コーランクールの足取りを追っていたら、いつの間にかブリタンニアに潜入していたというか」
「これまた、大物の名前が出てきたね」
コーランクールとはアレクサンドル皇帝の懐刀とも言われる人物であり、国が敗れる時、必ず何かしらの彼の策が施されているとも言われている、要注意人物だ。
「コーランクールはブリタンニアの高位に位置する貴族と繋がりを持っているようです。誘拐しブリタンニア女性とブリタンニアの武器をアルジェイーナに流していますし、そこで上がった利益の多くが、その貴族の懐に入っているようです」
「その貴族が誰かはわかっているのかい?」
「いや、それがまた、色々と難しくて」
ルシタニアの諜報部が有能だという事を今まで聞いたことがなかったが、ヴィオがもたらす情報の精度にペリグリンは驚きを隠せなかった。
武器の横流しには確かに、ブリタンニアの高位の貴族が絡んでいる。それが誰であるかというのは、こちらでも調べているところだった。
「コーランクールが我が国に潜入しているとは思わなかったな・・」
「ルシタニアへの侵略戦争がうまくいかなかったですからね。ここでブリタンニアを親メロヴィング派一色に染めあげて、ルシタニア、エスパンナ、ブリタンニア三国同盟をなかった事にしたいんだと思います」
「うーーーん」
「皇帝が20万の兵士を連れてイムラス半島に差し向けるなんて豪語していますしね、皇帝の野郎も、実は結構焦っているのかもしれないですよ」
ヴィオはそう言って竈でなすりつけた炭を自分の顔や手に塗りつけるとにこりと笑った。
「という事で、アーサー・ウェストウィック閣下の大事な人を助け出しに行くのと、武器の横流しの摘発、これは海賊退治みたいな形になるかと思うのですが、どちらのツアーを選びますか?」
「そんなものは決まっている」
ペリグリンもまた竈の炭を自分の顔に塗りたくりながら、
「海賊討伐ツアーに決まっているでしょう」
そう答えて、ニコニコ笑うヴィオに笑みを向けた。
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