第一話 放置された遺体
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島国であるブリタンニア南部に位置するサンプトンという名の港町には、海賊からの襲撃を防ぐ事を目的として建設された防壁が街のいたるところにあった。
中世に建てた石積みの城壁は頑強に造られており、港を見下ろす見晴らしの良い崖にも張り巡らされている。
造船が盛んなこの街では拡張工事が行われ、ブリタンニア海軍が所有する軍艦の寄港地としても利用されるようになっている。だがしかし、今はまだ商船の利用の方が多いだろうか。その商船を手配する商人たちの瞳には陰りの色が浮かんでいるように見えた。
「親父さん、グリューワインを一杯くれるかい」
「ペリグリンかい、ちょっと待っていな」
冷たい風に震えあがりながら注文をする客が多いらしい。
用意して待っていたかのようなスピードでホットワインがペリグリンの前へと運ばれて来た。
「お前さんを通訳に雇いたいっていう人間なら2階の3号室にいるよ」
波止場から5ブロックほど離れた場所にあるガチョウ亭の主人であるリースは、宿屋となっている上階の方を指さした。
「男だった?女だった?」
「そりゃあ綺麗なお姉ちゃんだったよ」
ルシタニアが用意した協力者は女性らしい。
「お国の言葉しか出来ないっていうんで、随分とカタコトで話しているのが嫌に可愛くてね」
「ふーん」
「押し倒すなら夜になってからにしてくれよ?」
リースが茶化すように言うので、
「この宿、壁が薄いからなあ、せいぜい気をつけるよ」
と答えて、温かい甘口のワインを飲み干した。
秋が深まり、黄葉した街路樹の葉は風に煽られながら落葉し、道路の端には落ち葉がうず高く積もっている。
店の中にまで入って来た楓の葉を外へ掃き出していた給仕の女を避けながら、ペリグリンは店の中を進み、2階へと続く階段の方へと向かいながら、
「・・・・」
食堂の一角にメロヴィング人の男が二人いる事に気がついた。
ガチョウ亭は母屋の一階が食堂、2階が家族連れや女性が止まる宿屋となっている。
単身者の男が泊るのは母屋の裏にある別の建物で、入口自体が別の場所となっていた。
階段を上がると廊下の中央へと出ることになる為、右手には101号室から104号室が並び、左手には105号室から108号室が並ぶ。
廊下の両端は窓になっており、明るい陽射しが古びた緋色の絨毯に温かい光を落としていた。
「失礼します(コンリセンサ)、お嬢さん(セニョーラ)」
103号室のドアをノックしながら呼びかけても、返事はなく、
「お嬢さん(セニョーラ)?」
ドアに鍵はかかっておらず、白樺のドアは数インチ開いているような状態だった。
返事がない為、ドアを開けて中に入ると、
「・・・・・」
思わずペリグリンは絶句した。
103号室は二部屋に分れており、一つはベッドルーム、もう一つは応接スペースとなっている。
家族連れで宿泊人数が多い場合は応接スペースをベッドルームに変える場合もあるのだが、103号室はテーブルと椅子のセットが置かれたままの状態で、テーブルの上の花瓶に生けられた孔雀草の花が白く可憐な花びらを広げていた。
そのテーブルの奥に、確かに女が一人倒れている。
「どうしたんですか(コモキフォイ)?何があったんですか(ウキアコンテセウ)?」
抱き上げながら問いかけると、女性はすでにこと切れており、胸が真っ赤な血でぐっしょりと濡れている。ナイフで心臓を一突きにされたようで、恐らく声を立てる暇もなかっただろう。凶器のナイフは残されていなかった。
茶褐色の髪をした、年は15歳前後といった所か。鼻の上にはそばかすが散っており、
「いったい・・君は誰なんだ・・・」
思わず独り言を呟くと、開かれたままのドアから中を覗き込んできた年若い女が、
「キャーーーーーッ!」
叫び声をあげた。
金持の商人の娘といった風体の女はその場でしりもちをつくと、
「私の侍女を何故殺しているの!この人殺し!人殺し!」
と、辺りに木霊するような叫び声をあげる。
死んだ女を床におろすと、階下から階段を駆けのぼってくる男達の足音が聞こえてきた。
「これはまずい事になったぞ」
この状況で捕まれば、犯人扱いされる事はまず間違いない。
「お嬢様!一体どうなさったんですか!」
「お嬢様!お嬢様!」
叫びながら駆け寄ってくる男達の声を耳にしたペリグリンは窓に取り付くと、
「信じてくれないかもしれないけど、僕は君の侍女を殺してない!殺す理由がないからね!」
パニック状態になっている金持娘にそう声をかけるやいなや、窓から飛び出したのだった。
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