第三十五話 一年後
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一年後のブリタンニア、アーサー・ウェストウィックの執務室にて。
「ルシタニア王国サグレス王妃領にいるフォルハス公爵令嬢の身柄を確保してブリタンニアへお連れしろと?」
ペリグリンは上司からの急な命令に、思わず顔をしかめて見せた。
ルシタニア王家がコンドワナ大陸に船で向かった10日後には、アーサー・ウェストウィック率いるブリタンニア軍1万8千がルシタニアに上陸した。
フォルハス将軍率いるルシタニア軍との共闘でルシタニア王国内を進軍するメロヴィング軍を挟み撃ちとし、ロリーサの地で敵軍の撃破に成功した。
エスパンナ経由での兵站の輸送にも支障をきたす事となったメロヴィング軍は侵攻からわずが1ヶ月後には休戦協定を結ぶ事となり、ブリタンニア海軍の船を利用してメロヴィング本国へと強制移送された。
戦上手と言われるアーサー・ウェストウィックは今回の戦いで大きな活躍を見せたが、上層部のやり方に納得が行かなかったため、戦線を離脱してブリタンニアに帰国。
せっかく侵攻してきたメロヴィング軍を叩き出してやったというのに、ルシタニアがメロヴィング側に寝返ってしまったら元も子もないため、アーサーは複数の部下をルシタニアへ送り込み、内偵を進めている。その部下のうちの一人がペリグリンで、先日、ルシタニアから帰ってきたばかりだった。
「フォルハス公爵令嬢といえば、ルシタニアの第二王子であるアルフォンソ殿下の元婚約者であり、メロヴィング側としては、ジャメル・ボアルネと婚姻させて、ルシタニア王家の王妃としようと考えていた令嬢ですよね?」
「そうだ」
アーサーは目を通していた書類を一旦置くと、目の前に立つ、すらりとした体つきの、精悍な顔立ちをした将校を見上げた。
「公には公爵令嬢はルシタニア王家の血筋をひくという事になっており、令嬢と婚姻を結ぶ事はルシタニア王家の血筋を残す事を意味すると言ってはいるが、実際の所、令嬢にはルシタニア王家の血を一滴も入っていない。フォルハス公爵令嬢は銀のペンダントを所持されているのだ」
銀のペンダントと聞くだけで、ペリグリンの胸中に苦々しい思いが湧き上がる。
自国の第六皇子が異国にて様々な種類の女に手を出して、自分の子供であると確証できた時に限り、王家の王印が施されたペンダントをその子供へ持たせるという事をある期間、繰り返していた。
ブリタンニア王家には十人の皇子、皇女が存在するが、その多くがこちらの頭を抱えさせるような性質であったのだが、第六皇子はその最たるものとも言えるだろう。
メロヴィングの女優とエスパンナの別荘地にて悠々自適な軟禁生活を送っている第三皇子の元に居るはずではあるが、常に問題を引き起こす皇子として悩みの種の一つにもなっている。
「議会が反メロヴィング派と親メロヴィング派とで分裂状態にあるのは知っての事と思うが、親メロヴィング派は、ジョアン皇子の血を引く令嬢とジャメル・ボアルネとの婚姻を諦めていない。ルシタニアをメロヴィングとブリタンニアで2分割統治する話は進んでおり、令嬢を女王としてルシタニアの国土を一旦は収めさせるが、国民感情が落ち着いてきたところで、王政を廃止して分割した地域を各自で占有するという案も浮上している」
「我が国の王が許すはずがありませんでしょう」
ブリタンニアのジェームズ王は大のアレクサンドル嫌いであり、大陸の勢力を背景に島国であるブリタンニアを苦境に追い込もうとするメロヴィングを絶対的敵国として認識している。
王がメロヴィングを敵国とするのならば、軍としても王の意思に従うのはもちろんの事だが、それが議会の場へと移ると違った動きになっていく。
長年、病を患う王の病状は最近になって悪化の一途を辿っており、王位第一継承者であるジェイソン殿下は執政に携わっているとはいっても芸術方面にばかり傾倒していて、あまり当てにならない。第一皇子が当てにならないから議会も紛糾するわけで、最近では親メロヴィング派の動きが活発となっているのだった。
「早急に親メロヴィング派が推している公爵令嬢をこちら側へ引き込みたい。ルシタニア国民は令嬢がルシタニア王家の血を引いていると信じているので、令嬢の国外への移送は秘密裏に行いたい。その任務を君に任せたいのだ」
「了解いたしました」
「それと、君には令嬢の移送後、ルシタニア南部の街ラゴスへと向かって欲しい」
「ラゴスですか?」
「ブリタンニアがエスパンナへ流している武器の一部がアルジェイーナに流れている、武器の取引の場として港町ラゴスの名が上がった」
「どちらも早急に対処しなければならない案件ですね」
「そうだ」
アーサーは胸の前で腕を組んだ。
「メロヴィング側には、武器の密輸の摘発と、私の大事な人をブリタニアへ移送する為の人員として君が送り込まれるという事を知らせてある」
「大事な人=フォルハス公爵令嬢ではない?」
「令嬢をブリタンニアに連れ出す事への国民感情はもちろんの事、国家間の問題が絡んでくる。現状、秘密裏に話を進めているところであるが、あくまで君は、私の大事な人をブリタンニアへ運ぶ事が任務であり、その大事な人は、私の叔母かもしれないし、私の愛人かもしれない、という事にしておいてほしい」
「承知いたしました」
「武器の密輸については情報を集めているが、場合によっては令嬢の移送と密輸の摘発が前後しても問題ない」
「分かりました」
令嬢は領主館でのんびりしているのだろうが、武器の密輸は船での輸送が絡んでくる。
今はエスパンナ国内を火事場にするために大量の武器を提供しているところではあるが、どの船にアルジェイーナの関係者が乗り込んでいるのか探るのは手間がかかる。
「ルシタニア側の人間とサンプトンで合流し、向こうの情報を手に入れてから君の判断で動いてほしい」
サンプトンとは南ブリタンニアにある港町であり、そこから船で移動しろという事だろう。帰ってきたばかりなのに、もうルシタニアに行かなければならないのか。
心の中の不満は胸の奥底へと押し込めて、
「速やかに任務を遂行してまいります」
尊敬する上司へ敬礼をして、ペリグリンは踵をかえした。
目指すはルシタニア王国、王家にも主要貴族や官僚にも見捨てられた国へ侵入し、与えられた任務を遂行する。
ルシタニア側が用意する協力者がバカではなく有能な人間であれば良いのだが。そんな事を考えながらペリグリンはその一歩を踏み出した。
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