第二十八話 最短ルートの何が悪いの?
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鬼の形相となってこちらへと歩いてきたエマヌエラは振り上げた手でベネディッタの頬を殴りつけると、
「なんで!なんでジョゼを殺したの!」
何度も、何度も手を振り上げる。
その後を追ってきた女王マリアルイーザはアルコール度の高いリキュールをベネディッタの頭からかけ回し終わると瓶を投げ捨て、マッチに火をつけた。
「生きながらなぶり殺しにしたいと何度思ったことか」
仄暗い瞳を向けながら口元に笑みを浮かべる女王の、その手に持つマッチを王配が取り上げながら、
「簡単に殺しては駄目だよ」
と言って女王の頬に口づけを落とした。
「王族の暗殺に手を下したのだから、最大限、苦しませ、後悔させないと」
「ひっ」
ベネディッタの顔は青から白へと変色し、隣に立っているディオゴに向かって必死の声を上げた。
「ディオゴ!殿下の暗殺に手を貸したのはヴィトリアでしょ!貴方も言っていたじゃないヴィトリアが怪しいって!だって!紅茶の茶葉を用意していたのはいつもあの子だったじゃない!」
「なんでそこで茶葉が出てくるの?」
「は?」
「リカルドさんはネハリタの毒って言ったよね?ネハリタの毒ってお茶に入れるものなの?」
「えええ?だって、ブリタンニアから直接紅茶を仕入れているのはヴィトリア様でしょ?ヴィトリア様が毒を仕込むなら、自分で王宮へ持ってきている紅茶くらいしか想像出来ないじゃない?」
「だから君は紅茶を利用したって事でしょ?ヴィトリア様が贈ってくださった紅茶の中に君が何かを入れている姿を見たっていうメイドが居るんだけど?」
「そんな事、私はしていません!」
「そうだよね、君はしていないよね?君はエマヌエラ様専属の侍女に、3人ほど間に人を挟んで、ネハリタの根を煎じたものを入れるようにお願いしただけだもんね?それで、砂糖も甘芋から作る特別な砂糖を用意して、健康食品だという事で献上をしていたそうだね。その砂糖はメイドに捨てるように命令したらしいけど、そのメイドは貴重な砂糖を捨てるのはもったいないと思い、自宅へ持ち帰っていた。中身を確認するのが本当に大変だったよ、だってネハリタの花芯って乾燥させると粒のようにしか見えないからさ」
「嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!」
「最近の王宮の健康ブームに乗っかったっていう事でしょう?さすがヒロインだよね、最短ルートを選択するのに人の命なんか全く気にしない。第一王子の命だって軽く扱っちゃうんだもんね」
「何よ!意味わかんない事言わないで!」
「僕たちはジョゼリアン王子が毒殺されないように注意に注意を重ねてきた。毒味だって何度も、何度も、何度も、何度も続けていたんだ。そんな僕たちの姿を見て、最短ルートを選択したい君はネハリタの毒を思いついたんだろうね。なにせネハリタは単体で使用するだけなら生薬として使うほど体には良いものだから」
「私は知らない!知らないわよ!」
リカルドに腕をひね上げられながらベネディッタは涙を流した。
「ねえ!知らないのなら食べられるわよね?私が作ったクッキーと私が用意した紅茶よ?」
テーブルからティーカップとクッキーを運んできたエマヌエラ様がじゃぶじゃぶと紅茶の中に浸したクッキーをベネディッタの口に押し付けた。
「知らないなら食べられるわよね?ねえ?食べられるわよね?」
口を一文字にして決して開かないベネディッタは首を激しく横に振った。
ジョゼリアン殿下はネハリタの根を煎じたものが入れられた紅茶にネハリタの花芯入りの甘芋の砂糖を使ったクッキーを浸して食べた事により毒殺された。
公には殿下は急の病でなくなったと報じられており、毒殺、しかも紅茶とクッキーを併用して毒殺を図った等という事を知る者は極わずかしか居ない。
「食べなさいよ!ねえ!食べて!食べなさいよ!」
口に無理矢理押し込まれたクッキーをベネディッタが吐き出すと、アルフォンソ殿下がナイフを引き抜いてベネディッタの首へ突き刺そうとするのをリカルドが止めた。
「ゲホゲホゲホッ」
腕を拘束するリカルドの手が外れた為、アルコールでびしょびしょになったベネディッタは床に座り込んだ。
「殿下、殺すにはまだ早いです」
リカルドの言葉にアルフォンソ殿下は鋭い舌打ちをした。
船が大きく何度も揺らいだ、ようやく出発準備が整って、外洋に向けて船が進み出す。
「ど・・どこに行くの?」
ベネディッタの質問にアルフォンソが答えた。
「言っただろ?コンドワナ大陸に向かうって」
「はあ?」
「王家は何もかもを捨ててコンドワナに逃げ出すのさ」
「な・・なんで?もうすぐメロヴィングが侵略しに来るのでしょ?」
「メロヴィング軍から大砲を撃ち込まれるのが怖いから逃げ出すんだろ?」
「はあ?あんた、そんな腰抜けじゃないでしょう?」
愕然とした様子でベネディッタはアルフォンソを見上げた。
「あんたはメロヴィング軍と戦うんでしょう?私と一緒に戦うんでしょう?」
「俺が例え戦いに勝ったとしても、メロヴィングの属国化は避けられないのだろう?」
「はあ?」
「兄上が死に、俺がメロヴィングと戦った場合はどんな結果であれ恭順、属国化、一択なんだろ?」
「それの何が悪いわけ?」
「何が悪い?悪い事だらけじゃないか?」
アルフォンソがベネディッタを睨みつけた。
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