第十九話 妹と遭遇
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公爵家の次男となるルイスが近衛隊に入隊したのは妹のヴィトリアを見張る為であったのに、王宮内で彼女を見つけるのは至難の技だった。
第二王子の婚約者であるヴィトリアが王宮でどんな待遇を受けているのか見たかった。
みすぼらしい妹が王宮で虐げられ、嘲笑われているのを見たかった。
しかし、ヴィトリアが王宮の何処にいるのかが分からない。
王宮内でヴィトリアは婚約者であるアルフォンソの庇護下に置かれていたが、その婚約者と一緒に居るところを見た者は稀で、彼女の姿は王宮の何処にも見つからない。
近衛隊の中でも妹の護衛の任務に就くという事がほとんど無い為、まぼろし姫と呼ぶ者さえいる。たまたま見かけたらその日は幸運が訪れる、そんな風に言われるほど、滅多にお目にかかる事がない。
ヴィトリアといえば、油を漬け込んで固めたような髪の毛にボロボロの衣装を身に纏っていた、浮浪児よりもよっぽど浮浪児らしい身なりをしていた幼い姿が思い浮かぶ。
金がいく筋も混じるハニーブラウンの髪を綺麗に結いあげて、やや吊り上がった猫のような琥珀色の瞳を僅かに細め、微笑を浮かべる美しい顔の少女を見下ろしても、ああ、これが母を追放した妹なのかと合致させる事が出来ない。
「ルイスお兄様、パパは今日、何処にいらっしゃるかご存知かしら?」
鈴の鳴るような声で問いかけられて、ルイスは思わず息を飲み込んだ。
薄汚れたゴミを何重にも重ねて着ていた骨と皮ばかりの少女は、美しい女性へと変化を遂げていて、母親の狂言に乗っかって暴力を奮ったルイスに対して嘲笑を浮かべるでもなく、憎悪するでもなく、ただ笑みを浮かべて問いかける。
「父上は今日、お前が来るという事で在宅だ、執務室にいると思う」
「パパは執務室なのね」
ヴィトリアは小さくため息をつくと、
「ママ、つわりで具合が悪いみたいなの」
心配そうに顔を曇らせる。
「ああ、妊娠初期には良くある症状らしい」
子供が出来ない事を理由に侯爵家を離縁された義母は、後妻として公爵家に嫁いできた。公爵家にはすでに3人の息子が居るため、子供を作る必要もなかったのだが、最近になって夫婦の間に変化が生じて、子供を授かる結果となったらしい。
「王家主催の茶会に出席した時につわりで気持ちが悪くなったらしくてな、その時にメディロス侯爵家の妻女も参加していたものだったから騒然となったらしい」
「メディロス侯爵家ってママが最初に嫁いだ家の?」
「そう、あそこの家の嫡男が子爵家の令嬢ダニエラと浮気をして、妊娠したとか何とかで離婚して結婚したのだそうだが、実は妊娠などしていなかった。結局、その後も妊娠していないような状態で、離縁された母上が新しい嫁ぎ先で子供を得たというのだから、誰に問題があるか等というものは明るみにでるものでな」
「まあ!なんていう事なの!」
ヴィトリアは琥珀色の瞳を輝かせながら顔を真っ赤にさせると、
「エスパンナに行っている場合じゃなかったわ!」
と、悔しそうに声をあげる。
「ママ、そのお茶会には絶対に行かないって言っていたのに!妊娠したから行ったのよ!確信犯だわ!」
胸の前で両手を握りしめると、ヴィトリアはブルブル震え出した。
「ママは『ざまあ』が大好きだもの!ああああ、私も『ざまあ』の場面を堪能したかったわ!」
「ざまあってなんなんだ?」
「やられたらやり返すあれよ!百倍返しするあれ!ザマアミロ!のざまあなの」
「ザマアミロの『ざまあ』か」
ヴィトリアとは幼少期含め、今までまともに話した事がなかった。その為、淑女とも思えない発言を前に、こんな話し方をするのかと驚きを隠せない。
「ママったらダニエラのお陰で家を追い出される事になったでしょ?ママは有能だからメディロス家でも大事にされていたらしいんだけど、メディロス家は有能な妻より孫を選んだってわけ。だって浮気相手のダニエラが妊娠したとかなんとか大騒ぎしたんだもの、ママを子供が出来ない石女として追い出した方が家としても体裁が整うでしょう?」
「そうだな」
「結婚相手との間に愛があったかどうかは分からないけど、めちゃくちゃ腹が立ったと思うの。ダニエラの妊娠が勘違いだったと知っても息子も侯爵もママに対して謝りもしなかったというもの。侯爵家としては年取ったママより若い女の人の方が妊娠しやすいと思ったんでしょうけど、問題は女性じゃなくて男性側にあったって事がここで公になったわけだから、どれだけ時間が経ったって跡取りが生まれるわけがないのよ」
「それで『ざまあ』か」
「そういうことよ!」
興奮に顔を赤らめるヴィトリアは年相応に見えて可愛らしく見えた。
「ママが出て行ってから侯爵家の経済状況はかなり悪くなったって聞いているもの、その状況で今まで子供が出来ないんだからダニエラだって侯爵家での立場は危ない状況だと思う。だけど、子爵家から侯爵家に嫁ぐことが出来たのは完全なる玉の輿だし、社交会でも新作のドレスで着飾ってはブイブイ言わせていたってわけで。子爵家だったらお呼びもかからない王家主催のお茶会にも呼ばれるようになったのだから、彼女としてはセレブ生活を謳歌していたと思うのよ。ママの事も散々馬鹿にしていたのは知っていたしね」
「そのお茶会では母上とメディロス家の当主夫人、そして嫡男の妻女となるダニエラ様は同席だった。これには女王様も大きく絡んでいるだろうと噂になっていたが」
「女王様じゃなくてエマヌエラ様よ」
確かに、義母と王妹であるエマヌエラ様は同時期に学園に通っていた友人同士という話を聞いている。
「だったらエマヌエラ様も『ざまあ』の場に立ち会ったのね!あああ、私、エマヌエラ様にエスパンナ行きを教えなかったもの!腹いせに仲間はずれにされたんだわ!」
王妹に腹いせに仲間はずれにされるってなんなんだ?恐ろしすぎる。
「だったらダニエラは社交界から追放確実ね、あああ、嫌な奴だったと思うけど、悪役令嬢の末路を見ているようでゾッとするわ」
「悪役令嬢とはなんなんだ?」
「いえ、お兄様、大した話ではございませんわ」
ヴィトリアは咳払いを一つした。
「そんな事よりもママのことです。いつ戦時下となるのか分からない状況なのですから、身重のママは早急に移動しなければなりません」
「ああ、それなんだがな」
ルイスは義妹を見下ろしながら、難しいような表情を浮かべた。
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