第十八話 悪役令嬢実家に帰る
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悪役令嬢である私、ヴィトリアが公爵邸に帰ると、ママが言いました。
「最初の一言は『私が貴方を愛する事はない』だなんて!そんな出だしから始まるストーリー、今まで何本読んだ事があると思うのよ!」
私も『お前との婚約をここで破棄する!』っていう一言から始まる物語を何十本って読んだ事がありますよ。
「同衾なしで5年よ?仮面夫婦となって5年よ?そのまま何もないままで終わるのかなって思わない?」
ママはゴミ箱にゲーーーッと嘔吐しながら、
「まさか夫婦生活が始まって、もれなく妊娠するって、そんな事、我が人生に起こるとは思わないじゃない?」
口許を手巾で拭いながら涙目で見上げてきた。
エスパンナからブリタンニア経由で航路を取り、ルシタニアに3ヶ月ぶりに帰ってきたらママが妊娠していました。
「ママ、どう考えてもゲーム開始時期を過ぎているんだけど」
「ヴイトリアが言いたい事は分かってるわ」
「おめでたいよ?子供が出来たのは本当におめでたいと思っているよ?だけど、後1年しない間に戦争始まるよ?」
「戦争が始まる前に産まれると思う」
「戦争が始まる時期がずれたらどうするの?」
「・・・・・」
「どうする?ブリタンニアで産む?それともコンドワナ大陸に移住する?ディオゴと一緒に宅地開発っていう手もあるんだよ?」
「・・・・・」
「何処で産むのかっていうのが問題だよ?私はルシタニアでの出産はやめた方がいいんじゃないかなって思うんだけど」
ママは私の肩を両手で包み込むようにすると、
「パパの近くで産むのはまずいかな?」
と、言いました。
ああ、ママがやっぱり溺愛モードに突入しているんですね。
「前にも二人で話し合ったよね?戦争になったら一番の被害を受けるのが女性や子供だって、弱い人間が一番割りを食うって。だから、なるべく被害を防ぐために、二人で協力してきたよね?」
「だから、ママは教会で出産しようかなと思うんだけど」
「ママは将軍の奥さんなんだよ?敵に見つかったらどうなると思う?きちんと、お腹の中の子供の事も考えなくちゃダメだよ」
「実家に帰っても駄目?」
「実家って・・シルヴァ伯爵の領地ってピエルト山脈の麓だよ?メロヴィングとの国境線にあるんだよ?」
「山を越えて敵が来るとも思えないし」
「ママ!今までの歴史を思い出してみて!普通に敵軍は山を越えて来るよ!」
「乙女ゲームでも敵軍は山を越えるかしら?」
「乙女ゲームの世界観の中で生きているけど、結局これは現実だよ?人は傷つくし、死ぬの。殺される事だってあるし、女性の尊厳を殺す行為だって横行するんだよ?ママ、きちんと現実を見よう!」
「わかってる!わかってるわ!」
ああ、これほどまでにママはパパとわかれたくないんだ。
「ママ、ママが辛いのは分かってるよ」
俯いて涙を流すママを抱きしめながら、悔しくて、悔しくて仕方がない。
アレクサンドルの野郎がヨーロニア制覇!ルシタニア王国も我が支配下に!なんて言い出さなければ、ママの妊娠はとても嬉しいニュースになったのに!
「ジョゼ殿下にも相談してみるけど、もしかしたら王宮で出産なんて手配もしてくれるかもしれないけど、私は、ママは、国外に出たほうがいいと思う」
「王宮じゃ駄目なの?」
「王宮が占領される事だってあるかもしれないんだよ?」
私たちは恐らく、前世で物凄く流行った異世界転生というものをしたんだと思う。
魔法もないし、魔物もいないし、スタンピードもおこらない。冒険者ギルドもないし、聖女もいない。飛行機もないし戦車もないけど、剣と銃と大砲を武器にしてヨーロニアを賭けて戦いを繰り広げている。
夜空には煌々と輝く銀色の月がふたつ浮かんでいるけど、地上に住んでいるのは同じ人間で、歴史も世界の成り立ちも何もかも前世とは違うと思うのに、やっている事は全く同じ。国土侵略、領土拡大を目論んだ誰かが戦を仕掛け、自分の国と家族、同胞を守るために、武器を持って立ち上がる。
そして犠牲になる多くの人は、いつも同じ、常に同じ、積み重ねられる屍の中にママを加えてはいけない。
「ママ・・・」
「なあに?」
「私、パパと話してくるよ」
二人が愛し合っているのは分かるけど、お互いに理解しなくちゃならない事って色々あると思うんだ。
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