第八話 マグダレーナ
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マグダレーネ・ヴィルヘルムは庶子だ。
ラムエスブルグの姫君だった母はマグダレーナを身籠った後、ヴィルヘルム公爵家へと降嫁した。だからこそ、マグダレーナは公爵家の娘でありながら庶子という扱いにとなっている。
結婚政策によって権力を維持し、主要な王国との婚姻による結び付きによって一族の基盤を築いてきたラムエスブルグ皇家としては、ブリタンニアの皇子に手を出されて身籠った子ではあるけれど、政略の為に十分に活かせるだろうと判断したらしい。
ラムエスブルグの女は多産で有名だから、王家の血筋を守るために重宝される存在だとされている。一人で十人以上産むのもざらで、戦争や疫病で数を減らした王族にとっては救世主のような存在になることも多いという。
だがしかし、血族結婚を繰り返す家柄だけに、古代ローニア帝国から続く古の血筋に対して偏執的なほどに執着し、その血筋についての誇りは高く、ヨーロニア各国、様々な国々に、皇家の血筋の人間が嫁いでいるのだった。
マグダレーネは公爵家の娘でありながら、公爵家の血など一滴も入っていない。
母は公爵との間に五人の子供を授かったけれど、マグダレーネだけが家族に含まれない。それでも、王家から預かっているという形にはなる為、彼女は公爵家の中で、誰からも見向きされることなく、家族の一員には決して加わることの出来ない疎外感の中で成長した。
マグダレーネが15歳になった時、一つ年下の同腹である弟に襲われそうになったのだ。血族婚を繰り返していた一族にとっては、姉弟間での結婚など過去には何度も容認されていたものだから、遊び半分で手を出しても良いものと考えたのだろう。
何とか実の弟から逃げ出したマグダレーネは、養父である公爵の執務室に飛び込んで声を上げたのだ。
「王家は私を高値で他国に売ると言っているのに!あなたの息子は実の姉に対して純潔を散らそうと襲いかかってきた!この事を王家に密告したら公爵家はどうなる事かしらね!」
義理の娘を視界にも入れようとしなかった公爵の姿を見て、使用人もマグダレーネに対して居ないものとして扱うようになったのだ。母など視界にも入れようともしない。そんな中で、公爵家の意思としてマグダレーネが慰み者となるのなら、永遠の地獄の中で生きることになるだろう。
「黙れ!マグダレーネ!」
ぼろぼろのドレス、くちゃくちゃの髪の毛、間違いなく男に襲われた所を逃げ出して来たというマグダレーネの胸ぐらを掴んだ公爵は、殴りつけ、黙らせるために手を振り上げた。
「きゃーーーーーーーーっ!やめてーーーーーーーーーっ!」
マグダレーネの叫び声を聞いて、使用人と共に一人の男が公爵の執務室へと飛び込んできた。母の弟であるフェリペ叔父様はルシタニア王国の王配であり、祖国を訪問がてら実の姉である母の元を訪れていたところだったのだ。
丁度、帰り支度を整えたところで女性の悲鳴が聞こえてきた。そのため慌てて駆けつけてみれば、ボロボロのドレス、くちゃくちゃの髪、養父に今にも殴られそうな有り様のマグダレーネを見て、叔父はすぐさま公爵を投げ飛ばしたのだった。
マグダレーネにとっては、都合の良い産み腹扱いをする王家も敵、公爵家も敵、父と母や弟妹は憎悪の対象以外の何者でもなかった。
両親は他国に嫁ぐための教育を施すために家庭教師を雇っていても、娘の寝食については全く気にもしない状態だったため、完全に栄養失調の状態に陥っていたのだ。
弟が襲いかかったのも、実はマグダレーネから誘ったものだった。
馬鹿な弟はノコノコと部屋にやって来てベッドに押し倒して来たけれど、逃げ出した私が今まで足を踏み入れた事もない公爵の執務室に飛び込むとは思いもしなかっただろう。
その日は叔父が来る事だけは分かっていたため、一芝居打つ事にしたのだけれど、王家としては産み腹の純潔は守らなくてはいけないもの。もしも純潔を散らすような事になっては、今まで育てた意味が無くなってしまうのだ。
その日のうちに公爵家を出る事になったマグダレーネは叔父が預かる事となり、ルシタニア王国に移動する事になったわけだ。だから、マグダレーネとヴィトリアの付き合いは思いの外、長かったりする。
「わ・・わ・・私も、貴族に高値で売れるという理由で娼館で大事に育てられました」
マグダレーネから簡単な身の上話を聞いたベアトリスは、おっかなびっくりという感じで口を開いた。
「私の母も娼館生まれだったんですが、妖精のように美しいとも言われていて大事に育てられたんです。その母親の初客となるために大金を積んだのが父であり、父は母が孕むまで自分の側に置き、孕んだ途端に捨てました」
隠し扉の向こう側にある部屋は修道女たちの休憩部屋という事になっているけれど、ここは密談をする為の部屋であり、漆喰の壁に囲まれた部屋には窓の一つもない。
半地下に位置しているために外からの侵入は難しく、出入り口は隠し扉一つのように見えながら、地下の脱出口へと通じる秘密の通路も存在していたりする。
亡くなった王子の為に建てられた教会はその実、地下に潜伏出来るよう巧妙な作りをした建物であり、例え敵軍が上物である教会を壊したとしても、地下は守られるように出来ている。その、死んだ王子によって守られた部屋の中で、マグダレーネは妹の話に耳を傾けたのだった。
「私の母は、身請けをしてくれる人が現れたのに、私と一緒に引き取ってくれるという人も現れたというのに、最後まで父を待ち続けたんです。結局、最後は客からの暴力でなくなったんですけど、父さえいなければ、母はもっとまともな人生が歩めたんじゃないかなって思うんです」
ベアトリスはスカートの握りしめた拳に力を込め、微かに震わせた。
「タンポポ友の会がどういった会かは分からないですけど、きっと、みんながみんな、父親に対して良い感情は持っていないと思うんです。私、自分が生きのびる以外の事ってあんまり深く考えた事がなかったんですけど、父に対してだけは違うんです」
ヴィアは面白いと言っていたけれど、確かにこの娘は面白いかもしれない。
「私、父を破滅に導けるのなら、何でもします。メロヴィングとか、ブリタニアとか、ルシタニア王国についても、一般庶民の私にとってはどうでもいいんです。生き延びる都合上、メロヴィングの言う事をしばらくきいていたんですが、父がメロヴィングに加担すると言うのなら、私はメロヴィングの敵に回ります」
ベアトリス・リンゼーの瞳がギラギラと輝いているように見えた。
「他人に言われるがままで今まで生きてきた私は、敵国メロヴィングについて重要な情報を持っている訳でもありません、主要な人物が誰かだなんて聞かれたとしても良くわかりません。だけど、私、あなたたちと一緒に復讐がしたいんです!だってタンポポ友の会ってそういう事ですよね?子種を蒔いて歩いた父に復讐を誓う会なんですよね?」
悪意を持ってかどうかはわからないけれど、呑気に蒔かれた種によって芽吹いてしまった私たちの人生は、散々なものだった。
出自に関わらず、あの男の種で芽吹いた娘はどの娘も碌な目になんかあっていやしない。
そして誰もが言い出すのよ。
「父親だっていう奴をぶっ潰してしまいたい」
ってね。
「気に入ったわ!その意気込みはなかなか得られないものだもの!」
マグダレーネはベアトリスの手を握りながら満面の笑みを浮かべたのだった。
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